第二章 旗艦ビッグノーラ2

 みずみずしい緑の葉が突き刺さっている幾つもの白い柱。その先には様々な樹木が立ち並んでいる。ここはビッグノーラ三階の栽培プラント、水耕栽培および果樹エリア。樹木の種類は様々で赤の実のなっているものや紺色のこれはブルーベリーだろうか。なぜそう思ったかと言えば朝食にブルーベリージャムをたっぷりつけたパンを食べたからだ。今日は不覚にも起きるのが遅かった。ビッグノーラでは米の方が人気で皆こぞって食べる。そのため少しでも朝食時間が遅れてしまえば釜が空になってしまう。白い柱は狭い場所で葉物野菜を大量に育てるための装置という話を聞いたことがある。土の気配を感じないがそんなもので野菜が作れるのだろうか。水耕栽培というのはそういうものなのだろうか、不思議だ。

 栽培プラントへ来た目的は二つある。そのどちらも管理者のミタマに会うことで達成される。アポイントメントも取ってある。メテオーラ能力のコントロールについて少しアプローチを変えてみようと話を聞きに来た。昨日サンドラに言った「強くなりたいなら強い人に聞くのが良い」というあの言葉は自分で言っておいてなんだが、俺自身にも刺さったのだ。栽培プラント管理者であるミタマは植物を芽吹かせ、成長させるメテオーラを持っている。ビッグノーラの常設乗組員およそ2000人の食事に必要な量を確保できるように日々作物を生産する。もちろん一人でというわけではないが、それでも能力に関してはこの上なく連続的に使用している人物である。

「あー、トロさんだー、いらっしゃーい」

 橙の実のなる樹木の合い間から、のそのそとオレンジの山が近づいてくる。その山の裾野から丸い眉毛の黒髪の少女が顔を覗かせた。

「ご無沙汰しています、ミタマさん――おぁ!」

 オレンジが三つ、山の斜面を転がった。咄嗟に二つはキャッチできたが、もう一つは惜しくも落としてしまった。

「すみません」

「いいえー、じゃあこれはおやつに食べちゃいましょう」

 優しさが心に沁みる。オレンジの山の半分を受け取って所定の場所に運んだ。休憩所の腰掛に座って話すことになった。ミタマは落っことしてしまったオレンジを剥いて半分に分けてくれた。まずは一つ目の目的を果たす。

「ミタマさん、なんて聞けばいいかわからないんですけど、メテオーラの使い方について教えてください」

「はぁ、私に教えられることでしたら」

 次の言葉を待っているのだろう。首を傾げたまん丸の目が不思議そうにこちらを見つめている。

「メテオーラの扱いに自信がなくて、皆に聞いているんです。どうやってメテオーラを使っているのか、って」

 ミタマは困ったように丸い眉を寄せて、ぽけーっと天井を眺めている。もっと具体的に話さねば。そう思って俺が口を開きかけた瞬間。ミタマは「あっ」と声を上げた。

「どうやってかは分からないんですけどー。おいしくなれー、おいしくなれーって。思っています」

「おいしくなれ、おいしくなれ?」

「はい! だってみんなが食べるんですから、おいしい方がいいじゃないですか。みんな、おいしいって食べてくれるから私、頑張るってなります!」

 おいしいって食べてくれる人が居るから頑張れる。何か喉元まで出かかっているような気がする。

「お米、好きですか?」

「はい、朝早起き出来たら欠かさず食べてて、好きですお米」

「よかったー、これ見てください、ケイブさんが作ってくれたの」

 ミタマが取り出したのは、円形のシール「ミタマ米、私がつくりましたぁ」と書かれていて真ん中には、稲穂を持ったミタマのイラストがプリントされている。

「へぇ、あ、明日は絶対食べます、炊き立てのごはん」

「残さず食べてくださいね」

「……それともう一つ聞いていいですか、ドロシーさんについてなんですけど。ミタマさんってドロシーさんと一緒にN.O.R.A.ここに来たって聞いています、前からお知り合いだったんですか」

「はい、カミキのお姉ちゃん、ドロシーさんのカミキの家と私のカバジノの家は懇意にしていましたから。連れてきてもらいました」

「そうだったんですね。俺、ドロシー班なんですけどドロシーさんのことなんにも知らなくて」

「ははーそれで! うんうん、続けてください」

 まん丸の目は期待感に満ちたようにキラキラ輝いている。言葉選びを間違えた。とてもカミキ家とナイルズの関係についてなど聞けそうにない。二つ目の目的は失敗か。でもミタマとドロシーはとても深い関係であることが分った。

「お世話になってるから何かプレゼントしようと思って。好きな物とか、知ってます?」

「いいですね、プレゼント、協力しますよー。カミキのお姉ちゃんの好きな物、それはズバリ、かしわ餅です」

「か、かしわ餅……それは?」

「はい、あんこの入ったお餅を柏の葉で包んだお菓子です」

「お菓子ですか、なるほど。どこで手に入るんです」

「トロさん、ここ海の上ですよ、手作りに決まってるじゃないですか。今度一緒に作りましょう」

「そ、そうですね。はい、ぜひ」

「プレゼント大作戦ですねぇ」

 気分上々のミタマは鼻歌交じりに脚をばたつかせている。

「ミタマさん、ありがとうございます。参考になりました」

「はい、お役に立てたなら幸いですー」

「おーっす、ミタマ―、いるー? げ、ロイじゃん。何してんの」

「フッフッフー、ナイショですぅ」

「ミタマさん、その言い方は誤解を招きます」

「なによアンタ、ミタマに手ぇ出したら承知しないから」

「そんなんじゃないって」

 俺は栽培プラントを後にした。おいしいって食べてくれる人が居るから、おいしい作物を作るためにメテオーラを振るう。実際にミタマの作ったお米は美味しい。これはある種の思いの具現なのだろうか。俺はメテオーラの核心に近づけているのだろうか。答えはまだ出ない。

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