手と、手と手
櫛田こころ
第1話 あの手と、その手
そんなところにあるはずがない。
追いかけてくるべき、そんな存在であるはずがないのに。
ただただただ。
自分の後ろからやってくる。
何が何が、ではない。
それは、それでしかないのに。
走るたびに、『生えて』くるのだ。
草花なんて可愛らしいものではない。
「な、んで……あんな、あんな!!?」
白くて長い。
細くて長い、それは自分にも同じものがあるのは当然だとしても。
何故……何故、生えているのだ。コンクリの地面なんかに。それが、生えて生えて生えて、こっちの足がついていた後を追いかけるかのように、生えてくるのだろうか。
何が原因?
あの場所に気づいたから?
誰も覚えているかどうかの、中学のグラウンドに埋めた『タイムカプセル』。それを思い出したのが自分だけだったのか、同級生の何人かに連絡しても特に返事なし。なので、自分のだけでも回収しようと適当に掘ろうとしたら。
にゅっと。
にゅるりと。
まるで、ミミズか軟体動物のなにかのように……白い手と腕がにゅっと、地面から伸びてきてこっちの足を掴もうとしてきた。
反射的に、スコップを投げたのは悪くない。ただ、そのあとがよくなかった。
バリバリ、ボリボリ、ガリっ、ガリっ!!
小さなスコップがいくつも伸びてきた『手』の中に吸い込まれ、地面の中に入ったかと思えば……壊すにしては、変な音がした。音なんて、可愛らしいものじゃない。当然、すぐに踵を返して逃げたのだが。
そこからが最悪だった。グラウンドのフェンスから昇って逃げたのに……そこにも『手』たちが生えてくるのだから、気持ち悪いったらない。とにかく逃げおおせるしかないとわかっていても、あんな『手』なんてホラー要素に対する行動を起こした理由わからない。
ただ、タイムカプセルを掘り出すために、土を返した。それが悪かったというのか? 誰かが死体でも埋めたのか?
(さいっあく、死にたくねぇし!!)
それにしても、随分と逃げ回っているのに通行人の誰ともすれ違わない。夕方とは言え、まだ日も高いのにこんな刻限だからか中学の周辺にはパトロールもなにもないのか。ひと昔前には、変質者多発のために警戒体制とやらがあったはずなのに。
にゅるり。
にゅる。
にゅる。
とうとう、後ろから突き抜けて前の方に飛んできたとか最悪な展開になってきた。持っていたスコップのように引きずり込まれて地面の中でスクラップされてしまうのかと、嫌な予感を覚悟しなくてはいけないのか……と、諦めの境地に至ろうとしたところ。
上着のポケットに入っていたスマホが滑り落ち、手らの標的がそっちに移ったのを理解したのは自分の身体に痛みもなにも感じなかったからだ。慌てて逃げるのに、ほかの手を避けながら走った。
人見御供にもなったスマホへの後悔は色々浮かんだが、命の方が大事だと走り続けた。そして、気配のようなものも音も消えたころには商店街の端くらいにまで辿り着いたが。
息切れ、やけに冷たい汗。脚はがくがくとしていて、地面にようやく膝をついて整えるくらいの余裕すら出てきた。
「……なん、っ、だった……んだよ。あれ」
見えないはずのもの。
あってはならないもの。
それくらいの判別は出来たが、それ以上の『何なのか』には気づけない。
その気づけないところに、何故自分のような凡人が巻き込まれたのか。失ったものは多かったが、命を失わないことに比べれば……と何度も何度も、自分に言い聞かせながら息を整える。
そのまま、表通りの携帯ショップで紛失届を出して購入し直そうと、出来るだけ前向きに考えたのだが。
にゅるり、にゅるにゅる。
「ひぃ!?」
細い電柱の端にまた手が。こちらを逃がさないためだからって執拗過ぎる。今度は息切れなど気にせずに走り続けたが、細い道を曲がりに曲がってまだ明るい『表通り』に出ようとした途端。
「どうしたんですか?」
たまたまパトロールしていた交番のお巡りに手を掴まれ、正常でない自分の拙い説明を聞いてはくれたものの。結局は、自宅に送ってくれるまでの安全な時間しか確保出来なかった。
何故なら、扉を閉められたときに、部屋の中では。
手、と、手、と手。
手だらけの空間が広がり、口はすぐに塞がれて彼らに悲鳴など届かなかったのだから。
その部屋の青年が孤独死していた事実を、当人が知ることは今後もないだろう。
「見つけかけた。あの『タイムカプセル』たちの怨念……なら、まだ可愛かっただろうに」
巻き込まれたのは、青年かお巡りを模っていた『何か』か、『手たち』なのかもうわけがわからない。
手と、手と手 櫛田こころ @kushida
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