ストーリーエンダー

@Manpuk

第1話 結成!ストーリーエンダー

「おはようございます!」

始業ギリギリに駆け込んできた愛住が息を切らしながら挨拶を投げた。


「おはよー」

一条が時計をチラリと見ながら応える。


「おはよう」

その場にいた田中も、気だるげに一言。


だが、次の瞬間だった。


空間が、音もなく歪んだ。

視界がうねり、耳鳴りがする。


――あれ?


――宇宙船?


――お星さま?


――リアル異世界転移?


「ようこそ!」

響く声に、誰もが目を見開いた。


「これは異世界転移ではない。ただの転移だ。私はスペルトン・カッウエ。君たちの管理者として、これより同じチームとなる。エスペリアンス星出身だ。よろしく」


現れた男は、金髪ロングに切れ長の目。青い薄手のウェットスーツのような衣をまとい、背は高く、まるでSFのスクリーンから抜け出したような登場人物の独特な雰囲気を漂わせていた。


「単刀直入に言おう。君たちが構築した“ストーリーボックス“の未完の物語が、第二世界に悪影響を与える恐れがある。このままでは、古の呪いがこの世界を蝕む。未完の物語を完結に導く。それが我々、ストーリーエンダーの使命だ!」


3人全員がこの状況にフリーズしていた。


「よろしく」と言って、スペルトンは手を差し出す。


戸惑いながらも、それぞれ自己紹介をした。


「田中です」


「あ、愛住です」


「……一条です」


「スペルトンと呼んでくれ。君たちの文化では、これは挨拶なのだろう? 武器を持っていないこと、敵意がないこと、友好を示す儀式だと理解している」


「……うん、まあ。だいたいあってる情報だね」なかなか離してくれないスペルトンの握手に困惑気味に一条は応えた。


スペルトンは満足そうに頷く。


「説明したいことは山ほどある。だが君たちにも疑問があるだろう。地球では転移は自由意思でできないと聞いている。さぞ驚いただろう」


場を読んで年長者である一条が手を挙げた。


「……質問、いいですか?」


スペルトンは微笑んだ。


「おお、本当に手を挙げるんだな。君は一条。何が聞きたい?」


「えーと、さっきまで渋谷のオフィスにいたんです。つまり今、地球にはいないってことでしょうか?」


「素晴らしい。混乱せず、現実を把握しようとしている。そして、地球での役割、残された人々、それらの確認をしようとする姿勢、実に見事だ」


スペルトンは掌をかざし、空間に黒い渦のようなものを浮かび上がらせると――オフィスにいた?!


「これは“ミラールーム”だ。君たちの渋谷のオフィスを限りなく現実に近い形で空間ごとリアルタイムで再現している」


自分たちはオフィスにいる。上司や同僚が働く中、自分たちの姿もいる。自分の“もう一人”が、そこで働いていた。


一条は思わず眉をひそめた。向こうの自分は穏やかな表情で仕事をしている。


愛住の“もう一人”は髪が整えられ、メイクも服装も完璧だった。一条は隣の愛住を見つめる。隣の彼女は寝癖がありノーメイクだ。


田中も普段のだらしなさはどこへやら、キリッとした顔つきでパソコンを叩いていた。


「君たちの代行者は問題なく機能している。地球の君たちの仕事は代行者によって維持されている。行動指針も君たちの社会で有効とされるものを念頭に設計している」


3人の代行者はきびきびと働いている。他の社員のとも会話をしながら”笑顔”で仕事をしている。3人はそれぞれの代行者の様子を呆然と眺めていた。


「……すみません。わたし、猫飼ってるんです」沈黙を破ったのは、愛住だった。


スペルトンは腕を組み、考え込んだ。


「生活伴侶の話だな。君が望むなら、ここに連れてくることもできる。どうする?」


「ぜひ!」


スペルトンは静かに何かを呟き、次の瞬間、彼の腕の中に小さな猫が現れた。


「まるちゃん!」

愛住は駆け寄り、猫を抱きしめる。


「ニャー」


「地球の猫は、愛らしいな」とスペルトンは微笑みながら愛住にまるちゃんを手渡した。


次に、スペルトンが田中を見る。


「君は質問はないか?」


「うーん、というか……この話、すでにやる前提で進んでますけど、断ったら?」


「もちろん、断ることはできる。その場合、転移と私の記憶は削除される」


「なるほど。でも……」


田中は画面の中の自分を見てから、ゆっくりと笑った。


「正直、代行者の俺の方が……仕事できそうだし、俺は“宇宙を救う使命”っての、ちょっと興味ありますね」


「……ふふ。さすがはストーリーの管理者たちだ。君たちの言葉だと”勇者適正”があるってやつだろうか?」


――君たちは勇者適正がある。


スペルトンにそう告げられて、三人は思わず顔を見合わせた。


まさか、この歳になって真顔で「勇者」と呼ばれるとは思っていなかった。仕事の中でその言葉を耳にする機会は多い、それはあくまでフィクションの話。自分たちがそんな対象になるとは夢にも思っていなかった。


こそばゆく、どこか気恥ずかしい。

けれど、不思議と悪い気はしなかった。


自分たちがこれまで出会ってきた物語の主人公たちも、もしかしたら同じだったのかもしれない。現実がぐらつくほどの転移を経た今。勇者と言われたことが、自然と誇らしく感じてしまう。


スペルトンは三人を順に見渡し、短く告げた。


「私は君たちを評価している」


それだけ言うと、彼は意味ありげに微笑んだ。


「だからこそ――この先の話を、君たちに任せたい」


その言葉は「勇者」という響きとしっかりと結びついた。三人の胸の奥に、何かが残った。

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