第十三話 選ばれなかった場所
「付き添いは一名まででお願いします」
看護師の声が聞こえた瞬間、レオは反射的に足を前に出していた。
ほとんど無意識だったと思う。
——俺だろ。
そう言葉にしなかったのは、アキが困ると分かっていたからだ。
だから、喉の奥で飲み込んだ。
隣を見ると、蒼も同じように一瞬だけ前に出かけて、止まっている。
二人とも黙ったまま。
けれど、考えていることは手に取るように分かった。
アキは少しだけ間を置いて、蒼を見た。
「……蒼、一緒に来て」
その声は柔らかくて、迷いがなくて。
胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。
(……そっちか)
分かってる。
安心を選んだだけだ。
理屈では、ちゃんと理解している。
蒼は短く「行こう」と答えて、アキのそばへ行く。
ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
レオはその場に立ったまま、しばらく動けなかった。
(俺じゃ、不安だったか?)
そんな考えが浮かんで、すぐに自分で打ち消す。
違う。
アキはそんな理由で選ぶやつじゃない。
それでも、胸の奥に残るこの感情は、どうしても消えなかった。
椅子に腰を下ろし、天井を見上げる。
(……妊娠してるかもしれない)
それだけで、現実が一気に押し寄せてくる。
もし本当だったら。
もし、命がそこにあったら。
——それは、誰の子だ?
思考がそこに触れた瞬間、胸が痛んだ。
どちらでもいいはずなのに。
どちらでも、守ると決めているはずなのに。
それでも、心は正直だった。
(俺の子であってほしい)
そんな願いを抱いた自分に、レオは小さく舌打ちする。
最低だな、と。
*
どれくらい時間が経ったのか分からない。
診察室のドアが開き、二人が出てきた。
アキの顔は、少し赤くて、目が潤んでいる。
蒼は、いつもより言葉が少なかった。
それだけで、何かあったと察した。
「……どうだった」
声は、思ったより落ち着いていた。
アキは一拍置いて、こちらを見て笑う。
「ね、レオ」
その笑顔を見た瞬間、胸がざわつく。
「赤ちゃん……二人だって」
世界が、一瞬止まった。
……は?
双子……?
胸の奥に、熱いものが広がった。
嬉しい。
確かに、嬉しい。
それと同時に、複雑な思いが絡みつく。
(二人……)
どちらの子か、分からない。
いや、分からなくていいはずだ。
それでも、心のどこかで比べてしまう自分がいる。
レオは深く息を吐いて、頭をかいた。
「……そうか」
それだけ言うのが精一杯だった。
命が二つ。
偶然でも、奇跡でもなく、確かにここにある。
(守るしかないだろ)
それはもう、迷いようがなかった。
アキを見る。
蒼を見る。
そして、自分の胸に残る嫉妬と不安を、そっと奥に押し込む。
強くなれ。
選ばれなくても、そばにいろ。
レオは、そう自分に言い聞かせた。
三人で並んで歩く廊下。
少しだけ、足取りが重い。
それでも——
(奪う気はねぇよ)
(でも、譲る気もない)
胸の奥で、静かにそう誓いながら、
レオはアキの歩幅に合わせて歩いた。
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愛情過多につき注意♡ みにとまと @minitomato1023
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