第八話 同じ夜の、その後で
夜が、静かにほどけていった。
灯りを落とした部屋で、アキはベッドの端に腰掛け、指先を絡めている。
胸の奥が、理由もなく落ち着かない。
「……今日は、変な日だね」
ぽつりとこぼした言葉に、先に反応したのはレオだった。
「変じゃない」
低く笑って、一歩近づく。
まだ触れていないのに、体温だけが先に伝わってくる。
「決めなきゃいけない日でもない」
その言葉に、蒼が静かに息を吐いた。
「逃げ道を作るなよ、レオ」
視線はアキに向けたまま、声だけが落ち着いている。
「……アキ様がここにいる。それで十分だ」
アキは二人を見て、小さく首を振った。
「違うの」
「決めたくないんじゃない。
二人とも同じくらい大事で……今日は、それを隠したくないだけ」
沈黙が落ちる。
張りつめているのに、不思議と苦しくない沈黙。
最初に動いたのは蒼だった。
一歩だけ低い位置から、そっとアキの手を取る。
「……では今夜は」
わずかに言葉を選び、
「アキ様の“選ばない選択”を、受け取ります」
額に触れる口づけは短く、丁寧で、確かめるようだった。
次にレオが来る。
蒼とは違い、迷いなく距離を詰める。
「ずるいよな」
苦笑しながら、額を重ねる。
「でも、譲る気はない」
アキの肩を抱き、低く囁く。
「今日は……一緒に朝を迎えよう」
夜は長く、静かに流れていく。
言葉は減り、代わりに息遣いと体温が増えていった。
拒むことも、比べることもなく。
ただそれぞれのやり方で、アキを包む夜。
窓の外が白み始める頃。
アキは二人の間で、穏やかな寝息を立てていた。
その寝顔を見下ろしながら、
レオと蒼は、目を合わせないまま、同じことを思う。
――この夜は、きっと忘れない。
そして同時に、
何かが少しだけ変わったことにも、気づいていた。
後に、三人は、こんな夜を思い出すのであった。
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