第六話 触れる人、収める人
触れる人、収める人
数日が、何事もなかったかのように過ぎた。
特別な出来事はない。
けれど、アキは自分でも理由のわからない違和感を抱えたまま夜を迎えていた。
「……なんか、だるい」
ソファに腰を下ろした途端、ふっと力が抜ける。
その瞬間、真っ先に気づいたのはレオだった。
「アキ」
呼ばれるより早く、腕が伸びる。
強引というほどでもないのに、迷いのない距離感で、身体を引き寄せられた。
「ちょ、レオ——」
「熱はない。でも顔、良くない」
額に手が触れる。近い。
近すぎて、言葉を探す前に呼吸が乱れた。
「大げさだよ、ちょっと疲れただけ」
「そういう顔じゃない」
低い声。
逃がさないと言わんばかりの腕に、アキは思わず身を預けてしまう。
その様子を、少し離れたところから蒼が見ていた。
「……ソファじゃなく、部屋に移動した方がいい」
感情を抑えた声。
レオほど踏み込まない代わりに、状況を一段引いて整える。
「歩けますか、アキ様」
「……うん」
その呼び方に、少しだけ安心する。
レオの腕が名残惜しそうに離れ、代わりに蒼がそっと背中を支えた。
指先は控えめで、でも確実だった。
ベッドに横になると、ようやく呼吸が落ち着く。
「大したことないって言っただろ」
「言った」
蒼は淡々と返す。
「でも、無理していい理由にはならない」
レオが舌打ちまじりに笑った。
「相変わらず、優等生だな」
「示すべき線はある」
「俺は線、越えるけど?」
蒼が一瞬だけ視線を向ける。
「越えるな。今は」
短い沈黙。
アキは、二人のやり取りを聞きながら、ぼんやりと思った。
(……触れる人と、収める人)
どちらが欠けても、たぶん落ち着かない。
「……ねえ」
二人の視線が同時に向く。
「ちょっとだけ、ここにいて」
返事はなかった。
けれど次の瞬間、左右に気配が増える。
レオは近くに、蒼は少し距離を保ったまま。
その配置が、なぜだか心地よくて。
アキは目を閉じた。
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