第6話 モンブランの味


大学の食堂は今日も賑わっていた。イヤホンをしながらゲームをしている集団、スマホ片手に会話が弾んでいる様子の女子達。

オレは優希と向かい合って講義の話をしていた。


「あれ、めっちゃむずいよな」


ハンバーグ定食を話している優希の言葉にオレは唐揚げ定食を食べながら頷く。


「でさー……」


急に優希がオレの頭上を見る。

背中にずしり、と重みを感じる。ふわり、とシトラスのいい香りがした。

上から長い腕が伸びてきた。おぼんの中に置かれたのはコンビニの生チョコだった。


「これ、あげるよ」


頭上を見上げる前に重りが消えて行く。咄嗟にオレは腕を掴み、引き寄せた。


「わ、危ないから」


円堂がバランスを崩しオレにぶつかる。


「口開けて」


困惑した表情の円堂は口を開ける。オレはその口にからあげを1つ入れる。


「……チョコのお礼」


笑って言えば円堂は目を丸くして固まる。オレがふって笑えば顔を逸らして逃げるように足早に食堂を出ていった。


「なんだ、あいつ」


オレは残った最後のからあげを口に含む。


「なぁ、今の円堂先輩だろ。知り合いなのかよ」


「なに、あいつ有名なの?」


「頭いいし、ほら身長めっちゃでかいから影で女子から人気なんだよ」


「へー……」


オレはもらった生チョコに手をかけ、1つ口に入れた。

とっても柔らかくて、甘くて口の中の体温でトロリとあっという間に溶けた。


「うまー!優希も食べる?」


オレは優希に生チョコが入った容器を差し出した。




オレはカフェにいた。

大好きなモンブランを注文し、一人の時間を味わっていた。

半分食べて窓の外を眺める。行き交う人達が波のように流れて行く。

朝陽と来た時も同じように外を眺めながら話をしていた。

他愛もない話をして盛り上がって、指先が触れ合えば見つめあって、オレたちのなかで甘い何かが流れていた。

オレはモンブランをまた食べ始めた。マロンクリームが大好きだ。甘すぎず舌触りが良くてなめらかだから。


視線を感じた。


窓の外を見ると目が合う。朝陽だった。スマホ片手に耳にはワイヤレスのイヤホンが付けられていた。

朝陽は何も見なかったようにオレから視線を外した。

オレの手がピクリ、と動く。


「早く食べて、帰らなきゃ」


無意識に小さく呟いていた。その声は震えていた。心は荒波に襲われている。頑張って平常心を保とうと努力する。しかし、手は震えてしまう。

自分が招いた結果なのに、苦しかった。


こと、と何かが置かれる音がした。


顔を上げれば朝陽がいた。


「なに、してるの」


「別に、俺も食べたくなった」


朝陽の皿にはオレと同じモンブランがあった。

静かな時間が流れる。窓の外はゆっくり暗くなっていく。静かだった店内も少し賑やかになっていった。


「そろそろ、帰るわ」


朝陽はすっと、立ち上がるとイヤホンをしながらオレをみおろす。


「早く食べろよ」


それだけ言い残して、店内を出て行く。オレは自分の皿を見た。まだモンブランは半分残っていた。

ようやくオレは手をつけた。

口に含んだモンブランはとびっきり美味しかった。


「やっぱ好きだなぁ」


オレはモンブランを食べながら笑った。



辺りは暗くなっていた。公園の街灯はチカチカと点滅している。周りには虫が飛び交っていた。

オレはカバンを下ろす。


「久しぶりじゃん」


後ろを振り返ると10人くらいの葉山の刺客がいた。さっきまで美味しいモンブランを食べて幸せな気持ちだった。

今はもうそれを塗り替えられた怒りをオレの心は宿していた。


刺客の中に棒を持った奴がいる。


「そんなに一緒にいて欲しくないのかよ」


オレは刺客に立ち向かって倒していく。受け止め切れない棒がオレの肩を殴りつける。身を捩り刺客の顔に拳を入れる。

同時に反対方向から顔を殴られた。目の前がちかちかする。口の中が切れたのか鉄の味がする。


「ふざけんなよ」


吐き出した血は暗い地面に黒い花を咲かす。

オレはなりふり構わず、獣のように刺客達を倒していく。

腕を捕まれ蹴られ、吹き飛ばされても諦めなかった。

頭に強い衝撃が来る。振り返り蹴りあげれば棒が地面に音を立てて落ちる。


「くそが!」


無我夢中で倒していった。

地面に座り込む頃には刺客は全員倒れていた。


「疲れた」


ポケットに入れていたスマホが振動する。メッセージが来ていた。

画面が顔を照らす。


《駐車場にいるよ》


円堂からだった。なぜ、ここにいるのか分からない。オレはため息をつく。


「……助けに来いよ」


体のあちこちが痛い。ふらり、とオレは立ち上がりカバンを持って駐車場に向かってオレは歩き出した。


チカチカしていたはずの街灯は、役目を思い出したのかしっかり夜道を明るく照らしていた。



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