第4話 誰のために side:朝陽


俺は抱きしめ合う2人の姿を見ていた。

伸ばした手がぶらり、と落ちた。





俺は葉山家に生まれた。

父は狂ったように俺を強く育てた。何がそうしているのか分からず、ただ言われた通りのまま強くなっていった。

20歳になると葉の印が出現した。父にそれを報告すると大いに喜んでいた。


「今度こそ、当主に。そして願いを叶えるんだ」


父は何の願いを叶えたいのだろう。俺は分からなかった。

そんな中、ふらり、と入ったカフェで美味しそうにケーキを頬張る暖がいた。

こんなに見ているだけで、人の心を暖かくしてくれる人がいるなんて知らなかった。

きっとそれは俺の一目惚れだったんだろう。

そこから俺たちは友達になった。


「なぁ、海行こう!」


夜なのに急に海へ行き、2人で遊んだのはとても楽しかった。


「これ一緒に見よう!」


映画館で観たホラーは2人で縮こまって楽しかった。


「美味しいケーキ屋ができたんだよ!」


女性ばかりの店内に2人で入って恥ずかしい思いしながら食べたケーキは楽しかった。


俺は暖とずっと一緒にいたかった。

花の印はまだ出現していなかったため、俺は家を出ることが出来た。

一人暮らしを始めた。暖と同棲をしたいがために。


「暖、好きだ」


その日は俺の誕生日だった。

暖は嬉しそうに笑っていた。

初めての夜は恥ずかしそうに俺にしがみついていた。細い割に体を鍛えていることが不思議だった。

理由はきっと印のために鍛えていたんだな、と今なら分かる。


そして運命の日が来てしまった。

あの日は6月28日だった。曇っていた。

暖に同棲しよう、と伝えようと思っていた。

ケーキも用意して、シャンパンも用意して、お揃いのブレスレットも柄にもなく用意していた。


23時45分。


俺たちの関係はまだ何も変わっていなかった。

ブレスレットを渡すんだ、と心に決めて指先の震えを隠すように台所にいた。


23時59分。

俺はブレスレットを確認して、時計の秒針を静かに見つめていた。


6月29日 00時00分。


「お誕生日おめでとう」


俺は暖にキスをした。

急に痛い、と上の服を脱ぎ始めた暖の背中には白牡丹が描かれていた。俺は目の前が真っ白になった。このまま葉山家の近くにいたら暖が殺される、と思った。

わざと酷いことをした。


「オレたちこれで終わりなのか?」


俺は突き放すことしかできなかった。出ていく音を聴きながら拳を握りしめることしか出来なかった。

落ちたケーキをぐちゃぐちゃに殴った。それは俺の心と同じ形をしていた。


「……暖!」


俺は傘も差さずに家を出た。歩道橋の所で暖を見つけた。傘を差しながら歌っていた。バースデーソングを。

俺は足を止めてしまった。


「暖、誕生日……おめでとう」


花の印が出たことで父は俺を家に戻らせた。暖と付き合っていたことが何故かばれてしまい、叱責を受けた。なせ、殺さなかったのかと。

殺せるわけがない。

愛しているんだから。

そんな中、暖からメッセージが届いた。


《何しているの?》


俺は暖の家に向かった。情報資料から住所を知り、初めて暖の家に行った。葉山家は屋敷のようだったが、現当主が住むには珍しい一般家庭と同じ一軒家だった。

ベランダに父が用意したと思われる刺客が既にいた。俺は気絶させる。と同時にカーテンが開いた。

それも普通に窓まで開けるものだから暖を蹴り飛ばした。

きっと刺客が他にも来ているはずだから。

熱が出ていたなんて俺は知らなかった。吐かせてしまった。今の俺は暖を傷つけることしか出来ていない。

今日も刺客を追いかけて走って来た。

なのに、俺との戦いの中で沢山傷つけた。震える手を苦しい心を隠すために容赦はしなかった。

早く降参してくれればいいのに、暖は立ち向かって来てしまう。

円堂が現れたのは驚いた。あいつは嫌いだ。何を考えているのか分からない。

なのに、そんな奴の手を暖が取ってしまった。



2人が俺を置いて去って行く。

暖が俺を置いて行く。

何のために、誰のために、酷いことをして来たのだろう。

俺はその場に座り込んで動けなかった。

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