第2話 運命られた印
翌日、オレは熱を出した。
ベッドで丸くなっていた。
「あんな大雨の中、帰ってくるからよー」
看病をしに来た母がオレの肩を叩く。
「ったく、もー。印が出たのもあるかもしれないけど、きっと雨よ、雨」
「ねぇ、母さん。印ってなんで別々になっちゃったんだっけ?」
母は部屋から出て行くと1冊の絵本を持ってきた。
「暇ならこれ読んでなさい。これからのあんたに必要だから」
中を開くとどう見ても手作り感満載だった。
字は綺麗なのに絵は汚かった。
「絵、下手だな」
「それ、母さんの手作りよ。感謝しな」
そう言って母は部屋を出ていった。
オレは絵本を捲っていく。
その昔、花吹椿という女性が神様と契りを交わした。
彼女は神様との子を身ごもった。
神様は言った。
「当主になった者は私が一つだけ願いを叶えてやろう」
当主の証として20歳になると体のどこかに印が現れることとなった。
その印は椿の花とそれを支えるように描かれた葉。そしてそれらを守るように円が描かれていたという。
ある日、花吹の家に3つ子が生まれた。とても仲が良かったという。しかし、それは一変する。
20歳になった3人の体のどこかに一人は椿の花が、一人は椿の葉が、一人は円が現れたという。
神様は言われた。
「印をひとつにしなさい」
椿の花を持った一人が聞いた。
「どうやって」
神様は言った。
「どんなやり方でもいい。相手を認めさせなさい」
それから3人はまず家を分けた。
椿の花の印を持った長男が花吹。
椿の葉の印を持った次男が葉山。
円の印を持った末っ子が円堂。
彼らは相手を認めさせるために戦いを始めた。
円が花に負けると花の周りに円が出来た。花が葉に勝つと一つの印が出来上がった。
当主となった長男に神様は願いを叶えた。
それからというもの、三家には必ず20歳になる子が一人いるとそれぞれ決められた印がでるようになった。
時には死者を出した戦いは今も尚続いている。
オレは絵本を閉じた。
くそだ、と思った。神様もその過去の3つ子も。
オレは床に絵本を投げ捨てた。
現在は花吹が当主だった。オレの父だ。
幼少期の頃から体術などを厳しく教えられて来た。
この長く続けられている戦いで死なないように。
オレは朝陽の笑顔を思い出す。
もう散々泣いたはずなのに鼻の奥がつん、としてまた涙が出てきた。
夜になると父さんが部屋にやってきた。
「印、出たんだってな。母さんから聞いた」
オレのベッドの側に父さんは腰を下ろす。
「……葉山に会った」
「良く生きて帰って来れたな」
父さんは目を丸くしていた。そしてすぐ鋭い瞳になった。
「葉山は気をつけなさい。彼らは強くて手段を選ばない」
「そんなに?」
「うん。これはおじいちゃんから聞いたんだけど、過去に葉山のお嫁さんがこの戦いで殺されてしまったらしくてね。それかららしいよ」
朝陽はきっとそれを背負わされているのだろうか。そうでなかったらあんな顔は出来ないはずだ。
あの顔はとても怖かった。
「父さんはどうやって勝ったの?」
「そうだなー、葉山とは血だらけになるまで戦ってやっと勝ったかな。円堂とは腕相撲かな」
「……え、何それ」
オレの顔を見た父さんは笑った。
「それくらい葉山は必死なんだよ。過去の恨みもあると思うよ。今のところ葉山はここ300年くらいは当主に選ばれてないのも関係してるかもね」
「そっか」
話終えると父さんはオレの頭を豪快に撫で回す。心配そうな顔をしていた。
「頼むから死なないでくれよ」
父さんは小さな声で言うと、落ちていた絵本を取って部屋を出ていった。
オレはスマホを見た。メッセージ欄に残る朝陽の名前。
彼は何を今、思っているのだろうか。本当にオレたちは終わってしまったのだろうか。
知りたかった。
何してるの?、と送ってみた。
けれど、朝陽からは何も返って来なかった。
オレはきっと暫く立ち直れない。
そう思いながら目を閉じた。
いつの間にか眠っていたオレは目を覚ました。ふと、カーテンが閉められた窓が気になった。目を擦りながらカーテンを開けるとベランダには朝陽がいた。
オレは無意識に窓を開けてしまう。
朝陽が笑ったかと思うと次の瞬間、蹴られてオレは吹っ飛んだ。
幸い、朝陽とユーホーキャッチャーで取った人形がクッションになり、痛くは無かった。
「開けちゃだめだろ」
オレを見下ろす朝陽はひどく冷たい目をしていた。
「なんで」
「今日はこれ、届けに来たんだわ」
紙袋に入っていたのはオレが置いていったパジャマとか雑貨品が入っていた。
「じゃーな」
オレに背を向けた瞬間に朝陽に拳を振るう。
しかし、それは受け止められて床に叩き落とされる。
「お前、弱いな。降参して印を渡せ」
もしここで降参してしまったら、本当に朝陽との関係が断ち切れてしまうとオレは思った。
「いやだね、絶対に降参しない!」
オレは下から朝陽を蹴りあげる。よろめく朝陽はオレを睨み、そのまま蹴りを入れる。
吹き飛んだオレはベッドの上に落ちた。
「早く降参しろよ」
朝陽はオレの上に乗ってねじ伏せて来る。オレはそれから逃れようと体に力を入れる。
「いやだ」
「お前さー!」
朝陽が苛立ったように抑える膝に力を入れる。
オレは暴れたせいか熱が上がって目眩がしていた。
やばい、吐く。
「おぇっ……」
オレは布団の上にゲロをぶちまけた。鼻の奥が酸っぱい臭いで犯されていく。
「……おい」
朝陽が抑える力を緩める。オレは体を捻り、朝陽から抜け出すがふらり、と床に尻もちを付いた。
「どうしたんだよ」
「……どっかの誰かが、雨の中帰したせいで熱出てんだよ」
「そうか」
朝陽はじっとオレを見てからシーツに手をかける。
「……何してんの」
朝陽は何も言わず、オレのゲロ処理をする。
「パジャマ脱げよ」
「なんで」
「汚いからだよ。それじゃ殴ることもできない」
オレは脱がなかった。というより体が動かせなかった。朝陽はため息をついてパジャマのボタンを取っていく。
「きったねぇな」
そう言いながらボタンを取っていく。
「なんでオレたち別れなきゃいけないんだよ」
朝陽が手を止める。
「知らねぇ」
小さな声が聞こえた。朝陽は立ち上がると窓に向かって歩いて行く。
「俺のこと嫌いになれよ」
「……時間はかかるかも」
「そうか」
朝陽は窓から飛び降りて去って行った。
同時に扉が開く。入って来たのは父さんだった。
「大丈夫か!暖!」
「……遅いよ、父さん」
オレは床に大の字になった。
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