第36話 その辺の事情

その後。

バーベキューは何の問題もなく進んだ。

歌川と鈴木がバーベキューコンロの前で

肉を焼いていた。

2人の傍らで笠原が肉を頬張っていた。

その3人から少し離れて

大烏とヒカルが長方形のテーブルで

肩を並べて楽しげに談笑していた。

私と小鳥遊は、

皆から距離を置き、

中庭の対角に置かれた丸テーブルに

座っていた。

テーブルの上には

肉の載った紙皿と

缶ビールの空き缶が2つ、

そして。

飲みかけの

缶ビールと缶チューハイがあった。

「どうしたの?

 私の顔に何かついてる?」

そう言った小鳥遊の目は

若干据わっていた。

「う、ううん。

 小鳥さんがそんなに飲んでる姿を

 初めて見たから。

 少し驚いたの」

「ふふん。

 実は私って結構お酒は強いのよ」

小鳥遊の視線は

向こうで缶ビールを手に

歌川と談笑している笠原を捉えていた。

小鳥遊は手に持った缶ビールを置くと

紙皿に手を伸ばした。

そして骨付きカルビを取って噛み付いた。


鳶が「ピーヒョロロ」と啼いていた。


「2人で何の話をしてるんだい?」

大きな紙皿を抱えた歌川が

いつの間にかテーブルの前に立っていた。

「さあ。

 焼きたての肉だ。

 どんどん食べてくれ」

歌川は紙皿をテーブルに置くと

私の隣の椅子に腰を下ろした。

それからテーブルの上の空き缶を見て

目を丸くした。

「おいおい。

 飲みすぎじゃないか?

 小鳥ちゃんはいいとしても、

 お前は未成年なんだから

 あまり無茶な飲み方はするなよ」

そして私に釘を刺した。

「心配しないで下さい、歌川さん。

 それは全部私が飲んだんです」

「うへぇ。

 小鳥ちゃんは結構飲めるんだね」

「今日は飲みたい気分なんです」

そう言って小鳥遊は缶ビールを呷った。

それから溜息を吐いた。

「・・少し酔ったみたい。

 部屋に戻って少し休んできますね」

と言って立ち上がると

フラフラと歩いていった。


「実際のところ・・どうなんだ?」

小鳥遊の後姿を見送りながら

歌川が口を開いた。

「どうって・・何がですか?」

「小鳥ちゃんと笠原くんのことだよ。

 知ってたのか?」

「そんなわけないでしょ?

 私だってついさっき知ったんですよ」

「うーん。

 参ったな。

 その辺の事情を知らない大烏くんが

 笠原くんを誘ったんだろうけど。

 何事もなければいいんだけどなぁ。

 痴情の縺れで殺人・・。

 とかドラマでよくあるだろ?」

歌川の言葉に私はドキッとした。

「そ、それより、マスター。

 鈴木さんってどういう人ですか?

 さっき話してたでしょ?」

私は話題を変えた。

「それが聞いて驚くなよ。

 あの鈴木商事の社長さんなんだとさ」

そう言われても私はピンとこなかった。

それでも。

社会的に地位のある人間

ということはわかった。

人は見かけによらないと思った。

しかし。

謎はさらに深まった。

なぜそんな人間が

私と笠原の命を狙っているのか。

「鈴木さんと笠原さんは

 面識があるんですか?」

「いやあ。

 そんなことはないと思うね。

 さっきお互いに『はじめまして』

 って挨拶をしてたからな」

歌川は2人の関係には

まったく興味のない様子で、

肉を頬張っていた。

私は改めて缶チューハイに口をつけた。

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