第34話 死の順番

「・・かい?大丈夫かい?」

その声で私はハッと目を開いた。

笠原が心配そうに私を覗き込んでいた。

「どこか具合が悪いのかい?

 部屋で休んだ方がいいかもな。

 俺が付き添ってあげよう」

「だ、大丈夫です!

 ち、ちょっと。

 立ち眩みがしただけなので・・」

私は慌てて後ずさりした。

その時。

テーブルに座っている

小鳥遊と目が合った。

それはほんの一瞬だったが、

彼女の視線に嫉妬の混じった

敵意のようなモノを感じた。

小鳥遊はすぐに笑顔になると

私に向かって手を振った。

「あ、あっちで休んできます」

私は笠原の提案を断って、

小鳥遊の方へ走った。


テーブルには先ほどまでいたはずの

鈴木の姿は見えなかった。

私は小鳥遊の隣の木の椅子に

腰を下ろした。

「もしかして口説かれてた?」

小鳥遊は冗談めかした笑みを浮かべた。

「う、ううん。

 単なる世間話。

 お酒を勧められてただけ」

私は首を振って否定した。

そして。

笠原から受け取った

缶チューハイを開けて一口だけ飲んだ。

濃厚な甘さの中に

漢方のような風味が入り混じって

芳醇な香りと共に口の中に広がった。

奇妙な味だった。

「あそこの派手な人が

 あの人の新しい恋人なんだね」

小鳥遊の視線は

缶ビール片手に中庭の真ん中を

フラフラと歩いているヒカルへと

向けられていた。

笠原はヒカルのことを

恋人ではないと断言した。

そのことを小鳥遊に告げるか迷った。

迷った挙句。

私は何も言わず、

もう一口だけチューハイを飲んだ。

そして。

ついさっき笠原にミた

『ビジョン』のことを考えた。


『ビジョン』の中の笠原は

地面に倒れて口から泡を吹いていた。

直前に笠原が飲んでいたグラス。

あの中に毒が入っていたことは

容易に想像できた。

笠原の隣にはヒカルがいた。

場所は・・外。

笠原の向こうに

鬱蒼とした森が見えていた。

アレは間違いなく・・この場所。

さらに。

日は高く夕暮れ時というには明るすぎた。

つまり。

アレはこれから夕食までの間に

起こる出来事。

そこまでは理解できた。

そして。

それが意味することは・・。


・笠原は私よりも先に死ぬ


私だけでなく笠原までもが

この集まりの最中に命を落とす。

一体この集まりは・・。

私は大きく深呼吸をした。

どちらにせよ。

わざわざ毒を用意した人物が

2人以上いるとは考え難い。

ならば。

笠原を狙った犯人も鈴木なのか。

だが。

動機がわからない。

そもそも私は鈴木とは初対面なのだ。

それに。

私と笠原は

単なる客と店員というだけの関係。

なぜ私達が狙われるのか。

私と笠原に共通する何か。

そこまで考えたところで、

私は隣に座っている小鳥遊を盗み見た。

小鳥遊は、

ややレアに焼けた肉を

無言で頬張りながら、

視線だけを

宙に漂わせていた。

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