第32話 私が死ぬ場所
「す、鈴木です・・」
ふいに「死神」がぽつりと呟いた。
それは耳を澄ましていなければ
聞き取れないほどの小さな声だった。
「歌川です。
宿禰市の葛城町で
『Hangover』というバーを
やっています。
大烏くんには日頃から
贔屓にしてもらっていて、
今日はその縁で
招待していただきました。
こちらがアルバイトの三ノ宮で、
そちらが常連の小鳥遊さんです」
歌川はそう言って私達を紹介した。
「鈴木さんは大烏くんとは
どういったご関係ですか?」
歌川に問われた鈴木は
落ち着かない様子で丸眼鏡を触った。
「い、以前・・。
相談に乗ってもらったことが
ありまして・・」
「なるほど。
大烏くんは腕のいい
探偵らしいですからな」
「誰が腕のいい探偵なんです?」
ふいに鈴木の後ろから声がした。
チラリと覗き込むと
笠原とヒカルが
並んで歩いてくるのが見えた。
2人共この時期にしてはやや薄着だった。
笠原は白い半袖のTシャツに、
細身のデニムというラフな格好だった。
一方。
ヒカルは両肩が剥き出しの
白いホルターネックのシャツに
ワイドなデニムを穿いていた。
白いシャツの胸元は
はち切れんばかりに膨らんでいた。
女としての武器を
最大限に意識した格好だった。
「大烏くんのことだよ。
それよりも。
隣にいる素敵なお嬢さんを
紹介してくれないかね?」
「あれ?
店に連れて行ったことは
なかったですかね?
こいつはヒカル。
俺が別荘に招待されたって話をしたら、
一緒に行きたいって
駄々をこねられましてね」
「別荘って聞いたら、
行ってみたくなるのは人の性でしょ?」
そう言ってヒカルは
笠原の腕にしな垂れかかった。
「はっは。
お前が興味があるのは
別荘よりもその所有者の方だろ?」
笠原が揶揄うと、
ヒカルは口を尖らせて、
笠原の体から離れた。
「ふんっ。
女の財布を当てにするような男よりは、
金のある男の方が
魅力的なのは当然でしょ?」
そしてヒカルは
金糸雀色の長い巻き髪をかき上げた。
私はそれとなく小鳥遊の方を盗み見た。
彼女は敢えてそう振舞っているのか、
こちらに関心がないような顔をして、
1人で缶ビールをコクコクと飲んでいた。
ふと。
鈴木の姿が消えていた。
私は慌てて周囲を見回した。
鈴木は木製のテーブルに座って
笠原の方をぼんやりと見つめていた。
次の瞬間。
私の目がテーブルの上の
鈴木の手を捉えた。
その手には白い紙包みが握られていた。
心臓がどくんと大きく跳ねた。
あれは・・。
すぐに「毒」という単語が浮かんだ。
私は頭を振った。
考えすぎだろうか。
『ビジョン』にミえた場所は室内。
恐らくあれは食堂に違いない。
つまり。
私が死ぬのはこの中庭ではない。
しかし・・。
私は大きく息を吸い込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます