第24話 招待客
江藤の説明が終わると歌川は
「折角だから
僕はちょっと中庭の様子を見てこよう。
本田さんにもご挨拶をしなくてはね」
と言い残して応接室を出ていった。
部屋の中には
ややフルーティーで
それでいてウッディな香りが漂っていた。
私はカップを手に取って口をつけた。
微かな渋みと甘みが口の中に広がって
渇いた喉を優しく潤した。
「わぁ。
すごく美味しい」
小鳥遊はカップを両手で包み込み、
表情を緩めた。
「ダージリンのオータムナルになります」
江藤はそう言ってお辞儀をした。
「あの・・。
今日は私達以外にも
招待されている人はいるんですか?」
私は気になっていたことを訊ねた。
「私が最初に伺ったのは
歌川様、三ノ宮様、小鳥遊様。
そして鈴木様、笠原様の5名でした」
笠原の名前が出た瞬間、
小鳥遊がハッと息を呑んだのがわかった。
「その後。
笠原様がお連れの方を同伴される
ということで6名になったようです」
きっと笠原の同伴者というのは、
『ビジョン』の中で、
私の右隣りに座っていた
あのピンク色の髪の女だろうと思った。
「それと。
先ほどお伝えし忘れておりましたが、
鈴木様はすでにお越しになっています。
2階の一番奥の部屋をご希望されたので、
そちらにご案内いたしました。
今はお部屋でお休みになっているかと」
今度は私が息を呑む番だった。
「あの・・鈴木さんという方は、
一体どのような方でしょうか?」
私は躊躇いがちに訊ねた。
「大烏様の依頼人です。
鈴木洋(すずき ひろし)様。
年齢はたしか・・40歳だったかと」
鈴木洋。
『ビジョン』の中で私のグラスに
毒入りワインを注いだ男の名前が
判明した。
しかし。
その名前に
私はまったく心当たりがなかった。
「私・・少し部屋で休んでくるね」
ふいに小鳥遊がカップを置いて
立ち上がった。
「大丈夫?」
私が声を掛けると、
彼女はぎこちない笑みを浮かべて
足早に部屋を出ていった。
江藤が不思議そうにドアの方を見ていた。
「・・小鳥さんはつい最近まで、
笠原さんと付き合ってたんです・・」
こういうデリケートな問題は
ホスト側の人間も知っておいた方が
後々のトラブルにも対処し易いだろう
と考えて私は江藤に説明した。
それに遅かれ早かれ
笠原が現れたら知られることになる。
応接室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「そうですか。
これも皮肉な運命でしょうか。
まさかここで。
笠原信明の名前を
耳にすることになるなんて」
「笠原さんのことをご存じなんですか?」
私は慌ててカップを置いた。
江藤がスッと息を吸い込んだ。
次の瞬間。
江藤の口から発せられた言葉に
私は文字通り呆気にとられた。
「いるんです。
この世には死んでもいい人間が」
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