第12話 『桐壺亭』

高校を卒業した私は

『クリーンホーム』のオーナーが

所有しているアパートで

1人暮らしを始めた。


『クリーンハイツ』は

鉄筋コンクリートの2階建てで

築20年とその外観は古く寂れていたが、

内装は綺麗だった。

各階に4部屋。

全部で8部屋あった。

敷地の北側と東側は

「享楽寺」という寺の墓地に

隣接していたが、

風呂とトイレは別々だったし、

何より壁が頑丈で

隣の部屋の音が一切聞こえないのは、

プライバシーの面からしても

申し分なかった。

さらに。

光熱費が無料というのも

私には嬉しかった。

ただし。

入居にあたって、

1つだけ条件があった。

それはオーナーが経営している

『クリーンマート』

という今時珍しいFC契約を結んでいない

個人経営のコンビニがあるのだが、

人手が足りない時にはその店番に入る、

というものだった。

当然、

断る理由はなく私は即座に承諾したのだ。



1人暮らしを始めて間もなく、

アパートの近くに

『桐壺亭 秦町店』

というファミリーレストランが

オープンして、

私はそこで正式にアルバイトを始めた。

この『桐壺亭』こそが

父の実家でもある三ノ宮家が、

全国23都市にわたって展開している

外食チェーン店だった。

『桐壺亭』は

「美しき場所で美しき料理を」

というコンセプトの下、

各店舗によって

外観や内装が異なっていた。

そして店では

見た目の派手な料理が提供されていた。

味は他のファミリーレストランと

さほど変わらなかったが

値段は倍以上した。

それでも。

不思議なことにどの店舗も繁盛していた。

私はここでも1つの教訓を得た。


・人は肩書や雰囲気に騙される。


物事の本質を見抜ける人間は少ない。

そして商売とはいかに他人を欺くか、

ということがその本質でもある。

だからこそ企業はCMに金をかけて

自社製品の優れた点を誇大に喧伝する。

芸術や宗教を考えてもそれは明らかだ。

世に名を残した芸術家も

自分の作品に

途方もない値段が付いているのを知れば

あの世で大笑いするに違いない。

人々の前で神の存在を説くような人間は

典型的な詐欺師である。

資本主義においては

より多くの人間を騙せる者こそが

勝ち組となる。

そして。

いつの世も騙されるのは

無知で愚かな者ばかりなのだ。

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