第2話 後編

 気が付くと薄暗い部屋の中にいた。


 俺は椅子に縛られて身動きが取れなくされている。


 ――ここは何処だ?

 ――否、今はそれよりも。


 俺は慌てて自分の右手に視線を向ける。


 


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 瞬間、鋭い痛みを感じて俺は思わず絶叫していた。


「流石は英一兄さん、大正解だよ。一億万ポイントあげるね」


 扉から英二が現れる。

 英二も俺と同様に右手を失っていた。


「でもまァ、俺が思い付くくらいなんだから、頭がいい兄さんが同じ答えに行き着くのは当然といえば当然か」


「……え、英二、お前よくも俺にこんなことをッ!!」


「怒らないでよ英一兄さん。俺だって本当はこんなことしなくなかったさ。でも仕方なかったんだ。俺は殺害現場に掌紋という決定的な証拠を残してきてしまった。死体は既にもう発見された後で、今から証拠を回収することは不可能だ。だったら残された道はただ一つ。残してきた証拠の価値をなくしてしまえばいい。

 俺たち二人は全く同一の遺伝子を持った一卵性双生児だ。だから、殺害現場に毛髪や唾液や血液、精液を残したとしても、俺と英一兄さん二人のうちのどちらが犯人かを特定することは警察の科学捜査でもできない。ただし、指紋だけは例外だ。同じ遺伝子であっても母の胎内の微妙な環境の違いによって指紋は形成される為、俺と英一兄さんの指紋には違いがある。

 わかりやすく喩えるなら、指紋は印鑑で血や唾液がインクってところだね。俺と兄さんは同じインクだけど、印鑑に彫られた文字は異なるってこと。では、一度残してきた証拠を無効にするにはどうすればいいか。簡単さ。俺と兄さん二人の印鑑そのものをこの世から消してしまえばいい。すると何が起こるか。インクの種類から、判を押したのが俺と英一兄さんのどちらがまでは追うことができても、どちらの印鑑なのかを特定することはできなくなる。そういうときの為に印鑑登録というものがあるわけだけれど、幸い俺と兄さんには犯罪歴はない。印鑑登録はされていないんだよ」


「……ふざけるなよッ!! 俺にはお前が殺した女と全く接点がないッ!! こんなことをしても無駄だッ!! 警察は必ずお前が犯人だと突き止めるぞッ!!」


「その心配は無用だよ兄さん。俺が殺した女はそもそも駅で偶然見掛けただけの、俺とも何の接点もない相手なんだ。ちょっと顔が可愛かったもんで、後をつけて家を特定したまでさ。三ヶ月くらいは付き纏ったから、近所の住人に顔を見られてはいるだろうけど、そこはほら、俺たち二人は瓜二つだからね。首実検してみても、俺と兄さんを見分けることなんてできっこないよ」


「畜生ッ!! このドブカスがァ!!」


「それじゃあ兄さん、最後の仕上げだよ」


 英二はそう言うと、俺に見えるように切断された二つの右手を床の上に重ねて置いた。それからそこにポリタンクに入ったガソリンを足でぶちまけると、口に咥えたマッチを擦ってからプッと吐き捨てた。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 俺と英二、二人の右手は固く繋がれたまま青い炎に包まれた。


【了】

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悪魔の掌紋 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka

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