悪魔の掌紋

暗闇坂九死郎

第1話 前編

 英二えいじから数年ぶりに電話で連絡があって、早急に会って話がしたいと言われた。俺は近くのファミレスで会うことを提案したが、外は駄目だと却下されたので、仕方なく家に招くことになった。


 久しぶりに会う英二は何から何まで俺とそっくりだった。英二は俺の双子の弟だ。元々周りからよく似ていると言われていたが、俺たち兄弟の場合は何故か年をとるほど更に似てきているようだった。


「よう英二、急に会いたいだなんて何かあったのか?」


英一えいいち兄さん、どうしょう。俺、これからどうしたらいいのか……」


 このときはまだ俺は英二の来訪を楽観的に考えていた。どうせ何かと理由を付けて小遣いをせびりに来たのだろう、とくらいにしか思っていなかったのだ。

 昔から英二はギャンブルに目がなくて、兄である俺は手を焼いてきた。


 しかし、英二の話は予想を超えてショッキングなものだった。一方的に付き纏っていた女の自宅のマンション押し入り、乱暴した挙げ句に騒がれたので近くにあった包丁で刺し殺したと言うのである。


 ――


「馬鹿野郎ッ!! お前こんなところで油を売っている場合かよッ!!」


「……え?」


「警察だ警察ッ!! 今すぐ自首しろッ!!」


「えー。嫌だよ、俺、刑務所には入りたくないもん」


「言ってる場合かッ!! もうお前が捕まるのは時間の問題だッ!! それなら早めに自首した方がまだ裁判官の心証がいい」


 指紋は母親の胎内の羊水や指の圧力によって形成される。よって、一卵性双生児とはいえ俺と英二の指紋が同じということはない。


 つまり、俺が英二と間違われて逮捕されることは起こり得ない。


「……いやでも、何かいい方法はないかと思ってさ。英一兄さん、昔から勉強が出来て頭良かっただろ?」


「馬鹿、もうとっくにそんな段階じゃねーんだよッ!! 決定的な物証まで残してきやがって。お前はもう終わりだッ!!」


「……そんなァ」


 ――?


 そのとき、俺の脳裏をある怖ろしい考えが過った。

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