魔王継承 ―王位を賭けた五年の復興譚編—
エルフェニア大使館
プロローグ—魔国復興編—
干ばつの魔国は今日も酷暑である。
雲すらもない青空から照りつける陽光は容赦なく人々を焼き殺し、静まり返る荒野は、さながら地獄のようであった。
ーー夜明け前、誰かが目を覚ます。
喉の痛みと酷い空腹で、もう、眠れなかった。
そして、気がつけば家のそばの井戸に立っている。
井戸は、もう随分前に干上がっている。
水が出ないことは、分かっている。
分かっていても、足が勝手に井戸へ向かってしまう。
――もし、夜の間に少しでも水が湧いていたら。
馬鹿馬鹿しいと分かっていても、そんな期待を捨てられなかったのだ。
かつて、この国は戦を好む魔王に支配されていた。
統治よりも戦場を選び、民を前線へと送り出し、血と屍を積み重ねることに何の躊躇いもない残虐な魔王だった。
やがて、魔王は人類が異界から召喚した勇者によって討たれ、戦後の魔国には新たな魔王が即位した。
彼は若く、魔王の血統でありながら心優しい青年だった。
穏やかで、慎重で、争いを嫌い平和を尊ぶ――そんな彼の評判は、荒れ果てた国に一縷の希望をもたらした。
しかし、期待は裏切られた。
戦後復興も始まっていないボロボロの魔国で起こった未曾有の干ばつ、飢餓、内紛…終戦から数十年も続く災厄に、若き魔王は沈黙し魔王城に閉じこもった。
ーーやはり、魔王など端から信用できないのだ。
国民は国を見限った。
住み慣れた土地を捨て、水と食料を求めて荒野を彷徨う彼らの瞳には、もはや怒りと失望しか残っていなかった。
ーーその絶望の荒野に、異質な影が現れた。
幾十の獣荷車、種族も姿も言葉も異なる人々から成る巨大な行列。
絶望の荒野で、彼らは高らかに歌い、まるで導かれるように前へ進んでいく。
一人が口ずさんだ旋律を誰かが拾い、また別の言葉で重ねられ..広がって一つの響きになる。
小さな火花のように生まれる旋律は荒野に確かな希望を灯している。
ーーそして最前列。
誰よりも高らかに歌い、前を行く女がいた。
短く切った金髪が光を返し、まっすぐな瞳が荒野を射抜く。
彼女は歌っていた。自らの歌声で仲間の行く先を照らすように。
彼女は旗を掲げていない。命令も激もない。死に絶えた荒野に響く歌こそが彼らの旗だった。迷いなく進む彼女に続く旅団もまた迷わない。
「飢えも、渇きも、争いも、もう沢山。」
彼女の噛み締めるような呟きは、炎のような陽光の中に滲んでいく。
「終わらせる為、始めましょう。我等こそ、絶望の魔国を照らす最後の火」
今は、誰も知らない。
彼女の小さな誓いが、やがて魔国の運命を変えることを。
これは、魔国復興の為に誇りを捨てる青年魔王と、未来の魔国を担う救世主の物語である。
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