第5話:宇宙人の彼と私。

私のクラスには凄いイケメンの男の子がいる。

下駄箱の中はラブレターでいっぱい。放課後は呼び出しを受けて告白されるのが殆ど。


でもその男は何処かちょっとおかしい。

だって、女の子に告白されて断る時に必ず言ってることがあるんだ。


「俺、宇宙人だから人間の女と交際できない」


嘘だと思って何度も告白した女の子が、その人の家に行った後、存在が消された。

いや、消されたというか…何故か私以外、その女の子がこの世に産まれていなかったような反応をする。

私はその度に、昨日その子はあの人の家に行って、存在を消されたんだと思っている。



「俺、宇宙人って言ってるのに信じてくれない」

「そりゃ、普通は信じないでしょ。私だって宙知(ルビ:そらち)君は人間だと思っているし」

「そうなのか?俺はてっきりアンタは信じてくれていると思っていた」

「えー」

「だって廣世だけ、俺の家に来た女の記憶が残っている奴」

そう言って宙知君は持っている箸を向けてくる。

「ちょっと、それダメな事だよ?」

「そうか、それはすまなかった」

「じゃあさ、君は何処が宇宙人なの?」

「…性別がない」

「…え?」

「俺には性別というものが存在しない。人間や動物などは雄や雌がある。でも俺はどちらでもない」

「どういうこと?」

「見せた方がいいか?」

「いや、いやいやいや!脱がなくていいって!」

「なら、どうすれば信じてくれる?」

ズボンを脱ごうとする彼を必死に止めた。いや、まず公共の場で脱ごうとしないでよ。私、女なんですけど?

「じゃあ触っていい」

「え」

「それなら平気」

「……じゃあ、失礼するね」

服の上からポンポンと叩く。胸板はガッチリしてるからやっぱり男の子だよね。いや、待て待て。私が股間をパンパンするのはおかしいでしょう。そんな趣味は無いんだけど?

「いや、わかった。信じるから」

「それはありがたい。皆にも言ってくれ。俺は宇宙人だから人間の女と付き合えないって」



宇宙人だから性別がないという理由は水泳の授業でわかった。

男子が宙知君の裸を見て、目を丸めてギョッとしたらしい。

なんと、彼の身体は女性と同じだったそうで。

そう、アレがない。大きな声で言えないけど、何も無かったらしい。

でも、彼は『性別が無いから当たり前』と言って、何食わぬ顔で水着を履いて出て来たという。

「だから俺は性別が無い宇宙人だと言った」

「本当に……ないの?」

「ねぇ。産まれたままの姿。まあ、俺の場合は人間と同じように産まれるわけじゃねーし」

「両親も宇宙人?」

「もちろん。親も性別がねぇ。どうやって俺を産んだか教えて貰えねぇ。大人になったら教えると言われた。宇宙人の成人って何歳か聞いたけど、答えて貰えなかった」

「ふーん」

プールサイドで座りながら話をする。両親も性別が無くて、出産が人間と違う…じゃあSF映画みたいに口から産まれたりしたのかな。それとも、卵から産まれた……とか?

「産まれた時、実は男の子じゃなくて女の子だったとかいうオチじゃない?」

「そんな事ねぇ。ならなんで俺は声が低い」

「いや、声の低い女の人は存在するから」

「じゃあ、なんで保健体育で習った、男と女の身体の違いの絵と俺の身体は違う?」

「え、う、うーん…」

「俺が男ならアレがあるのだろう?じゃあ、何故俺には無い。後、女の身体で子供を産む場所も無い?どう見ても宇宙人しかねーだろ」

「そ、それはちょっとわからないけど……」

じゃあ君の家族は何処の惑星から来たのだ。UFOに乗って地球に来て、両親がここで君を産んだという事?病院で?それとも家?

「今度私も家に行っていいかな?」

「それはダメ」

「え、なんで」

「アンタはダメ。両親に殺されるかもしれねぇから。だって俺の家に来た女の記憶がある時点でもうおかしいから。他の奴らは記憶も存在も無かった事にしているのに」

「……なんでなのかな」

「さあ」

「おい!そこ!喋ってないで授業に参加しなさい!」

先生に注意されて、私達は慌ててプールに入って泳いだ。



「また告白されてたね」

「ああ。本当に鬱陶しい。俺の何処が好きなのかよくわからない。一目惚れとはなんだ?人間は中身を知らない、外見だけを見て、好きになるものなのか?」

「そこは人それぞれだと思うけど、宙知君はカッコいいし、頭もいいし、運動神経だっていい。それに物静かだから余計に好きになる子が多いんだよ」

「アンタは?」

「え?」

「アンタは俺を好きじゃないのか?」

「えー…まあ恋愛対象としては見てないかなぁ。好みの男性と真逆だし、君とは友達だからね」

「……そうか、だからか」

「え?」

宙知君がウンウンと頷いている。何がわかったのだろう。

「なあ、俺と付き合って」

「え?は?」

宙知君は優しく微笑みながら私の手をギュッと握る。

「俺、廣世の事、好きだから」

「…え?!」

「だから親も連れて来るなって言ったんだ。俺が悲しい思いをしないようにって。だって俺、廣世といるの楽しいし」

「あ、あの、話聞いてた?私の好みと真逆で私は君を恋愛対象として見てないって」

「そうと決まったら、どっか行こ」

「はぁ?!」

宙知君は私の手を離さず、そのまま校門を出て放課後デートする事になった。



もちろん次の日、噂はすぐ流れた。

私と宙知君がお付き合いしているというのが。

やっぱり宇宙人って言ってたの、告白を断る口実だったんだと言われてた。

後、彼は私に身体を見せてくれた。下着を履いたまま。

確かに私と同じ身体付きをしている…と言っても体格はやっぱり男性と同じで。アレが無いだけだった。腰の位置も違うし、喉仏もあったし。

「そういう身体で産まれて来たのかな」

「家に帰って親に母子手帳というのか?それを聞いてみたんだ。そしたら性別がその他と書かれていた」

「その他って…そんなアンケートみたいな答えってあるの?」

「あるから言ってる。信じて貰えないだろうから持って来た」

母子手帳を受け取って見てみると、血液型AB型、性別はその他と書いてあった。

「え?血液型あるじゃん!宇宙人にないでしょ?!」

「そうなのか?」

「ないない!映画や漫画でも見た事ないよ!あ、いや…フィクションならあるのか…?」

「なんか産まれた時に性別がハッキリしないから、宇宙人だって言われたんだ。看護師に」

「…それ、悪口じゃん…宙知くん、人間だよ。宇宙人じゃないって」

「ぬ…ならどうして」

「たまに聞くけど、お腹の中にいる時の性別と産まれた時の性別は変わる事あるって。もしかしたら、お母さんのお腹にいた時は男の子で、産まれた時に女の子になったんじゃない?」

「……ほう」

宙知君に母子手帳を返してあげると、彼はもう一度ジッと見つめた。

「お母さんに言って、検査して貰えば?」

「検査?」

「ちゃんとした病院なら検査してくれて、男の子か女の子かわかると思う」

「……じゃあ、行くから一緒に来て」

「え」

「廣世は俺の恋人だろう。ちゃんと告白受け入れてくれたのだから、一緒に行こ」

「まあ、いいけど…大丈夫?記憶消されない?」

「平気だと思う。多分」



「ダメに決まってるでしょう」

宙知君のお母さんにバッサリと言われてしまった。とりあえず家に来て欲しいと言われたので一緒に来たけど…。

「私達は宇宙人なのだから性別は無いのよ。それで記憶を消して欲しいかしら?貴女も」

「え、いや、その」

「それとも信じていないのね?見せましょうか?どうせ貴女を殺さないといけませんし」

そういうと、彼女の口が耳まで裂け、そのまま縦に割れて、まるでゲームに出てくる人食い植物のような化け物になった。

「ひっ」

「母さん、廣世は俺の恋人だからダメ。記憶を消して貰いたいから連れて来たんじゃねぇ。俺が人間なのか知りたかっただけ」

「貴方は宇宙人で合ってます。好きって言うけど、彼女は本当に貴方の事好きなの?」

「え、その私はっ」

私の目の前にパクパクと開閉を繰り返す口が寄ってくる。他の女の子達もお母さんに食べられて存在を消されたんだ。

本当に…宇宙人の家族だったんだ。

「母さん、やめろ」

宙知君の口も裂けて、同じように人食い植物の口になる。

「廣世は俺の友達で、俺の大好きな人間。だからダメ。母さんが廣世を食い殺すなら、俺も母さんを食い殺して無かったことにしてやるから」

「宙知……ダメよ、人間と恋をしちゃ」

「嫌だ。俺は廣世が大好きだから無理」

私は宙知君を見てしまう。

こんなに一途に思ってくれていたのか。私は友達関係として好きだったのに。でも、確かに一緒に過ごしていて楽しかったのは本当で、でも彼は他の女の子に告白されて、モテていて。私は告白した女の子より可愛くも無いし、性格だって悪い。女の子らしくないのに。それでも君は私を選ぶの?お母さんと対立しても?

「お母さん、私、宙知君が大好きです」

「…廣世」

「あのね、私達は貴女達と違って人間では無いの。宇宙人と人間は恋をしたらいけないのよ」

「それでも私は彼といたいです」

私はそう言って、宙知君の頬にキスをする。

「あら」

「廣世……?」

宙知君の顔が段々と赤くなっていく。目をキョロキョロさせながら口が大きく開閉し、そのまま口を閉ざして元に戻った。

するとお母さんも口を元に戻して、さっきとは違う雰囲気で笑顔を見せてくれた。

「キスしてしまったのなら仕方ないわね。宙知。今日で性別不明は終わりよ。貴方は男の子になります」

「え?は?」

「ふふっ。私達の種族は好き同士の心が繋がって、本当に両想いになったら性別が変わるのよ。相手が男なら、宙知は女の子になるのよ。まあ廣世さんは女の子だから、宙知は男の子になるわよね。これはお父さんに言わなきゃねー」

お母さんはキャッキャとまるで人間の女の人のように大喜びだった。

「え、そういう事あるの?」

「…ちょっと見てくる」

そう言って宙知君はトイレに入って行った。



「ついてた」

「え、早」

私は宙知君の部屋に案内されて、カーペットに座っていた。トイレから戻って来た宙知君は初めて見るアレにビックリして叫んでいた。そんなに驚く事だったんだ……。

「あれ、じゃあ…お母さんは宇宙人で…お父さんは人間だったってこと?」

「いや、父さんも宇宙人。でも、姿がちょっと違う」

「違う、とは?」

「えっと…家族写真あったかな…」

宙知君は本棚をゴソゴソと漁り、青いファイルを出して来た。

「これが父さん」

「え、嘘、人間じゃない…。ゴツゴツした体格で凄い体毛。え、目、どこ?」

「会えばわかる」

宙知君はそう言うと私の隣に来て肩に頭を乗せて来た。

「廣世が俺の事好きでよかった」

「う、うん…なんかごめんね、中途半端な関係で一緒にいて」

「別にいい。大人になったら結婚しよ」

「え」

「大丈夫。地球に住むから。でも、俺らの事は郊外しちゃダメ。言ったら俺も守れなくなるから。母さんより父さんの方がヤバいから」

そう言って宙知君が私の唇にキスをして、ふふっと笑った。

私は口元をヒクヒクさせながら、宙知君とお付き合いして本当に正解だったのかなと思ってしまった。

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りんくま短編読切集 りんくま @Mashirokumasan

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