第4話:コーヒーと笑顔で迎えてくれる隠れカフェの世界
「…疲れた…」
俺は、のろのろと歩きながら、人通りの少ない路地裏を通る。本社に戻る途中だ。
現在7連勤目。人手不足すぎるだろ…。4課。
姫野先輩と俺だけって…。キツすぎる。
「家に帰って…ねてぇ…」
そう言っていると、フワリとコーヒーの良い匂いがした。
こんな人気のない路地裏から?誰かの家の匂いだろうか?
そう思って歩いていると、ビルの地下に階段があって
『喫茶店:紫陽花』
と書かれた喫茶店を見つけた。
「こんな所に?いや、わかりづらすぎるだろ…」
きっと、あまり客がいなさそうな感じがする。
「……一休みしていこうか」
俺は、コーヒーの匂いに誘われて、そのドアを開ける。
カランカランと懐かしい鐘の音がする。
「いらっしゃいませー!カウンターどうぞ」
台所から出て来たのは、ショートカットで左眼だけ綺麗な蒼い瞳をした女性だった。
腰にエプロンをかけている。
「タバコ…大丈夫ですか?」
「はい!ならこちらの端っこの席どうぞ」
俺は案内された場所へ座る。
店内BGMはヒーリング系のジャズが流れている。とても静かな場所だ。周りを見ると、1人とか2人とか。皆静かに過ごしている。
「ブレンドコーヒー1つ。ブラックで」
「はい、かしこまりました」
女性は、コーヒーミルを持って、ゴリゴリと豆を挽いている。俺はタバコに火をつけながら、その姿を見る。フィルターに入れて、お湯を沸かし、デカンタにセット。沸騰したお湯を入れて、しっかりと蒸らしている。
その間に茶菓子のようなクッキーを小皿に飾っている。じわじわと落ちてカップ半分上くらいになって、カップに注ぐ。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーとこちらはサービスのクッキーです。おかわりは無料なので、ごゆっくりどうぞ」
名札を見ると【アメナツ】と書いてあった。珍しい苗字だなと思いながら、コーヒーを啜る。
「…!美味い…!」
思わず声に出てしまった。隠れた名店ってこういう所なのだろうな。店内は少し古びてるし、照明もレトロな雰囲気で。
でも、小物を飾ることによって、いい感じになっている。
クッキーもサクサクと食べる。仕事終わりのこれは…最高だな…。
「…休日、また来よう。あの、定休日とかあるんですか?」
「お休みは水曜と日曜です。朝は8:00-11:00。お昼は14:00-19:00までやってます。朝はモーニングもしてますので、良かったらまた来てください」
女性はニッコリと笑いながら、おかわりのコーヒーを入れてくれる。
思わず、その笑顔にぐっと来てしまった。
カランカランとドアの音が鳴る。
「いらっしゃいませー。ああ、お久しぶりですね。どうぞ、いつもの席で」
「あと、いつものと軽く何か食べたいんだけど、何かできそう?」
「えっと…手抜きピザトーストなら出来ますよ」
「じゃあそれください」
「はい。お待ちくださいねー」
そういうと、食パンにケチャップを塗り、上からタバスコを少しふる。そこにピーマンとベーコンを置いて、とろけるチーズを乗せる。トーストに入れてから、コーヒーミルで豆を挽いて、沸騰している間にトーストのスイッチを押す。手慣れた動きに感動していると、トレーの上に置かれた出来たてのピザトーストとコーヒーが乗っている。ピザトーストが凄く美味そうに見えた。
「どうぞ。ピザトーストは50円ですよ」
「え?!もっと値段つけていいんだよ。アメナツちゃん!普通は350円とかだよ?!コーヒーも200円でおかわり自由だなんて、赤字でしょ?」
「そうだけど、やっぱりお店に来てくれた人が美味しいコーヒーを飲んで、私の手抜き軽食を食べて帰ってくれる嬉しさが1番だからさ。それに、ここは常連さんや、静かに過ごしたい人の為に店を開けた場所だからさ。騒がれるカフェより隠れ家っぽい方がいいでしょう?」
「まあな。今は似たような感じのチェーン店のコーヒーショップしかなくて、まぁた若い子のキャピキャピ声が煩くて、かなわん。ここは確かに安らげる空間だ」
「ふふ。ありがとうございます」
アメナツさんはそう言って笑っていた。
「あの」
「はい」
「俺もピザトースト、もらって良いですか?」
「今作りますね。少しお待ちください」
アメナツさんは、手際よくピザトーストを作ってくれた。一口齧ってみると、美味い…!
ピザソースを買わなくても出来るコスパの良さ…!これは家でも作りたい。
「美味しいです」
「へへ。ありがとうございます。灰皿交換しましょうか?」
「え?あ、お願いします」
アメナツさんは新しい灰皿を用意してくれる。
「お会計ですか?行きますね。あ、コーヒーチケットですか?ありがとうございます。有効期限は特にありませんのでまたいらしてください」
カランカランとドアの音をして出ていく。
本当、不思議な空間だな。居心地のいい場所ってこういうとこなのかな。
「ピザトーストもコーヒーも美味しかったです」
「ありがとうございます。その服、もしかして悪霊ハンター組合の制服ですよね?毎日ご苦労様です」
「あ…えと…」
「また、休憩場所として来てくださいね。ありがとうございました」
彼女はニッコリと笑ってくれ、俺の手にチョコを渡してくれた。
「疲れた時は甘いものです。と言ってもビターチョコですが、良かったらどうぞ」
「…ありがとう」
俺はそう言って、喫茶店を出る。
「良い店見つけた。よし、また休みの日に来よう」
俺はスケジュール帳に店の中と住所を書いて本部に戻った。
数日経ってから、また俺は喫茶店【紫陽花】に来ていた。
いつものようにドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませー。あっ、アキさんどうぞ。いつもの席空いてますよ」
「どうも」
俺は、いつもの席に座って、ブレンドコーヒーを頼む。今日はタバコを吸いながら、読書をする。ここは本当に不思議な空間だ。
今日はブルースの日なのだろうか?彼女の趣味なのか、それともオーナーの趣味なのか。
「いらっしゃいませー」
「タバコ吸える席どこ?」
「こちらのテーブル席なら大丈夫です」
「え?全席喫煙出来ないの?」
「はい。コーヒーの香りを純粋にお楽しみなさるお客様と、タバコとコーヒーが大好きなお客様と席を分けさせて頂いております」
「ふぅん…じゃあいいや」
「申し訳ありません。ありがとうございました」
アメナツさんはお辞儀をして、カップを拭き始めた。
ああ、だから窓際の方は喫煙席になっているのか。
「アメナツさんがいる時は本当助かるわぁ」
「そうですか?」
「ええ。オーナーは良い人すぎますからねぇ。やっぱり喫煙しない私達は、分煙してくださると凄く嬉しいんですよね」
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいです」
そう言いながら、流れているブルースに合わせて鼻歌を歌い始めていた。
「あの、おかわり頂いても?」
「ええ。今作りますね」
アメナツさんは、棚から変わったコーヒー缶に入っているドリップ用のコーヒー粉をいれた。
「あれ?おかわりを頼んだはず」
「そうなんですけど、アキさん、今日来てくださったので丁度飲んでもらおうと思って。ただ、美味しく淹れるのが難しいコーヒーなんだそうです。美味しくなければおかわり代は不要なので」
「入れ方が難しい?」
「そのお店でブレンドされているコーヒーはシークレットで。なんでもオーナーの気まぐれコーヒー粉なんだそうです。その店が気になったので今回新しく仕入れてみたんですよ。200gぐらいですが」
アメナツさんは、ドリッパーに紙を引いて、コップを取り出し。その上においた。
沸いたお湯をゆっくりそそぐ。
ほのかな花の香りがするコーヒー。…フレーバー系か?不思議な匂いが漂ってくる。
「凄い甘い花の香りですね。まるで紅茶みたい」
「そうですね」
入れ終わって、アメナツさんが俺の目の前に出した。香ると、ほんのり甘い花の匂い。口元に少しつけると、酸味が少し来て、こくんと飲むと、喉奥で甘さを少し感じる。
「どうですか?」
「フルボディ系や、苦いコーヒーが好きな人には、物足りないかもしれません。でも香りは凄くいい。飲みやすい。後、鼻からも通りますね」
「なるほどですね。私も飲んでみます」
アメナツさんもコクンと飲んでみる。
「…ふぅ…ん、喉に甘酢っぱさが広がって、鼻通りに花の香りが確かにしますね。フレーバーコーヒー…女性のお客様に人気かもですね。でもやっぱり紅茶に感じますね」
「でも、美味しいですよ」
「ありがとうございます。それは試飲としてなのでサービスにします。今おかわり作りますね」
そう言っていると、さっきのお客さんが戻ってきた。
「全席禁煙のコーヒー屋もあるのに、なんでここはダメなんだよ」
「ここはコーヒーと音楽で癒される小さな喫茶店としてやっているので。タバコ吸うお客様用の席はキチンと決めております。分煙はしてますので」
「オーナー呼んでこいよ。文句言ってやる」
「おじいちゃんは今日いません。ここは純粋にコーヒーと軽食とジャズやブルースなどを聞いて、まったり読書をしたり、会話をしたりして楽しむ場所なのです。お帰りください」
男はプチッと来て、近くの椅子を蹴る。
「…はあ」
俺は立ち上がって、そいつらの前に出る。
「なんだ?にーちゃん、俺らになんかあるのか?」
「表に出ろ。俺が話をつけてやる」
「アキさん」
「大丈夫」
俺はそう言って、外に男達を連れ出して、再起不能になるまで殴り飛ばした。
「あいつらは、もう来ない」
「ありがとうございます。あっ、手に血が」
「平気ですよ」
アメナツさんは、お手拭きと消毒液を持ってきて、俺の手を手当してくれる。
「たまにああいうお客様が来て、迷惑していたんです。この小さな喫茶店は癒しの空間。仕事や育児に疲れた方達がまったりと過ごせるようにしているので…マスターがいる時はそういう連中は来ないのですが、私だけの日だとよく来るんです」
「なるほど」
アメナツさんは、困った顔をしていた。
「タバコとコーヒーでリラックス出来るという理由もわからなくないんですけどね。でも、中にはやっぱり上司がタバコとコーヒーを持っているだけで、休日なのに思い出してストレスが溜まる人もいたり、子供連れの方もいたりするので。皆様の願いを受けるために分煙はしたんですが」
俺は、眉を下げながらさっきいたカウンターに座る。癒しの空間、か。
確かに俺も色々悪魔を祓う仕事をしていて鬱憤は溜まる。中々減らない悪魔。休めない休日。子守りをしないといけなくなって、自分の時間が取れない時もある。
賑やかな空間も、確かに悪くはないが…。
1人で帰る時くらい、静かになりたい。
そういう時に見つけたココは俺にとっては特別な場所。
それに、アメナツさんは凄く気遣いが出来る人だ。話しかければ、話してくれるし。
お客さんにも評判が良い。
「そろそろ帰ります」
「あ、はい。コーヒー一杯で大丈夫です。おかわりと試飲はサービスです。先程助けてくれましたので。また来てくださいね」
アメナツさんはそういうと、俺にコーヒーチケットを10枚くれた。
「これ、良かったらどうぞ」
「…いいのか?」
「よくここに来るお客様には、一回だけコーヒーチケット渡しているんです。ご友人とも使えますので、良かったら」
「…ありがとう」
俺はそれを財布にいれて、外に出る。
数日後。
「いらっしゃい。アキさん。今日もいつもの席空いてますよ」
「ああ」
すっかり常連になった俺は、カウンターのいつもの場所でタバコを咥える。
「…」
「どうなさいました?」
アメナツさんは俺の顔を見ている。
「ここに悪魔がいませんか?」
「…」
アメナツさんは、無言でコーヒーを作り始める。
「どうして、そう思うのですか?」
「なんとなく…と言ったらどうします?」
「ふふっ。アキくん、悪魔にも邪悪な者だけでは無いんですよ」
そう言って、いつものカップにコーヒーを注いで、俺の目の前にコーヒーを置く。
「そうですね。私は人狼の悪魔です。でも、人を襲おうとは思いません。ここでコーヒーを楽しんでいる人を眺めているのが大好きなんです。本気になれば、オーナーの珈琲屋で迷惑をかける客を殺す事は出来ますが、私はここのオーナーに拾われた恩があるので、こうして恩返しをしてます」
アメナツさんは、ニッコリとする。
「でも、アキさんが悪魔祓いであるのなら、私を殺してくれても構いませんよ。元々望んで生きているわけではありません。私の家は人狼の血を引いた一族ですので人間ではありませんから」
そういうと、耳と尻尾が生えていた。
「…俺は別に討伐に来たんじゃ無い」
「…では、何故?」
「ここのコーヒーと、雰囲気が好きで来ている」
「そうですか」
「後は、アメナツさんに会いたいから、かな」
「ふふっ。ありがとうございます」
アメナツさんは、柔らかな表情で笑って、カウンターの中に入る。
今日は洋楽のバラードがBGMらしい。
チラホラと人が入ってくる。その人達もよく見れば、人では無い【何か】だ。
ただ、害は無い。わかる。ただ、彷徨っているだけの居場所のない人達だ。
「…?どうして俺はこの店に入れるんだ?」
「それは、少なからず仕事のために貴方は悪魔と契約を結んでいるからです。ここは、普通の人間は入れないので。私がそうしているんです。私は悪魔でもあり、神でもありますので結界くらいつけれます。間違って人間が入って来ないように」
「…なるほど」
アメナツさんは、そう言って、テーブルに座っている人では無い彼らにコーヒーやサンドイッチを渡していく。
彼らは、それを美味しそうに食べながら黒狼さんと話している。
俺もコーヒーを啜る。…美味しい。いつもと同じ味だ。
「アキさんは、下の名前の漢字はどう書くのです?」
「…季節の『秋』だよ」
「良い名前ですね。秋はとてもいい季節です。美味しいものが沢山食べれますし気候も涼しくて。枯れ葉を集めて埋もれるというのが楽しいものです」
「アメナツという名前も漢字なのか?」
「はい!そのまま雨夏と書きます」
「君も良い名前だと思う」
「ありがとう。今日も軽く食べていかれます?」
「じゃあ、ピザトーストが良い」
「ふふ。お気に入りですね。作りますので少しお待ちください」
アメナツさんが悪魔と知ってからでも、俺はあの珈琲屋に通い続けた。
楽しい会話を楽しみ、美味しいコーヒーを飲み、チケットを使う
そんなチケットも後、1枚になった。
「今日は雨ですね」
「そうだな」
窓の外を見ると、雨が降っている。街を歩く人の傘が色とりどりに見える。
コーヒーを啜りながら、タバコを吸っていると、アメナツさんはドアに行って、クローズの看板にする。
「…?」
「今日は雨ですので、もうお客様は来ませんので、閉めるんです」
「そうなのか?じゃあ、俺も…」
「いいえ。アキさんはいても大丈夫です。少しだけ、私とコーヒーを一緒に飲んでくれませんか?」
「ああ」
アメナツさんはそういうと、あの特別な缶を取り出して、コーヒーを淹れてくれた。
甘い花の匂いがする、コーヒー。
一滴一滴落ちるコーヒーの音と店内の静かな音。それが聞こえる。
「アキさんが、この珈琲屋を見つけてくれて良かったです」
「え?」
「ここに、いつか人間のお客様が来てくれたら良いなと、ずっと思っていたのです」
「…俺は今までずっと皆人間だと思っていたよ」
「それだけ、この空間はかなり薄れているんです」
「え?」
「…ここにはオーナーなんていません。本当はこの私が、この珈琲屋の店主なのです」
アメナツさんは、カップ2個にコーヒーを注ぎ、俺の隣に座る。
耳と尻尾を生やして、コーヒーを飲む。
「今日でアキさんのコーヒーチケット、最後ですね」
「ああ」
「どうぞ」
俺は、花の香りのしたコーヒーを飲んだ。
…?前回より味が変わっている。匂いは同じ花の匂いなのに、何故、こんなに切ない気持ちになるのだろうか?
「アメナツさん?」
「アキさん、ここを気に入ってくれてありがとうございます。このコーヒーは、私がブレンドした【紫陽花】です。紫陽花は移り気。七変化。様々な色をしてます。なので、このコーヒーも、飲む日によって味も変われば、気持ちも変わるんです」
「…?」
「この珈琲屋も紫陽花という名前。色々なお客様がきます。なので、私はコーヒーチケットを7回だけ渡すんです。7回だけ」
「でも、俺に渡したのは…一度来店して数日経ってからだよな?何故だ?」
「貴女が私をいつ殺すのか見ていたのです。でも、殺気が感じられなかったので、チケットを渡しました。また来て欲しいと心から願ったので」
俺は目をパチパチしながら、アメナツさんを見る。
「アキさんが最初で最後の人間のお客様です。出会えて良かった。ありがとうございます」
そういうと、アメナツさんは、俺の唇にキスをして、コーヒーチケットを手に取った。
「…ご利用、ありがとうございました」
そういうと、目の前のカップに入ったコーヒーが俺を包み込んでいく。
「アメナツさん?!」
暗闇に包まれて、最後にみた彼女は…声を殺して泣いていた。
「アキぃ?おーい。アキー」
ペチペチと頬を叩かれる。
「…!!」
起き上がって、周りを見る。俺の部屋だ。
「うなされてっから、起こしただけだから殴んなヨォ。ふああぁ…まだ夜中じゃねぇか…便所行って、寝る…」
同居人の冬助が部屋の外に出ていく。
周りを見渡して、目を擦る。
夢…?あれは夢だったのか?俺はゆっくりと起き上がって、ベランダに出る。
雨が止んだらしい。椅子が濡れているので、やったままタバコを吸う。
彼女は泣いていた。人狼の姿になって。
そういえば今月は6月だ。街には様々な紫陽花が咲いている。
明日、あの夢の場所に行ってみよう。
「無い…」
珈琲屋は、何もなかった。ドアを開けると廃墟化している。
壊れたテーブルとカウンター。そして、コーヒー豆が入ってたであろう袋。
あの看板すら。
「…やっぱり…夢だったのか?」
そう思いながら、俺はあのカウンターに座って、タバコを咥える。
目の前にカタンとコーヒーを置かれた音がした。何も置かれていないのに。
店内からBGMが聞こえる。
今日はあの日聞いたジャズだ。
「…あ」
透明な彼女の姿が映った。あの花のコーヒーの缶を持って、棚にしまっている。
俺は、立ち上がって、その棚を開けると、綺麗な筒に入った未開封の缶を見つける。
賞味期限は一年後。まだ新しいブレンドコーヒーが入った缶だ。
「…紫陽花ブレンド」
俺はそれを持って、外に出ようとする。
『いろんな変化の味を楽しんでくださいね。アキさん』
そんな声が聞こえて振り返ると、アメナツさんがいた。
白銀の色の耳と尻尾と髪の毛の色。
足下には守護獣の狼が2匹いた。
『いつでも、お待ちしてます。また疲れたらいらしてくださいね』
そういうと、俺は外に出され、ドアが消えた。
俺の手元には、紫陽花ブレンドのコーヒー缶が握られていた。
「…ああ。また仕事に嫌気がさしたら…来るよ」
そう言って俺はその珈琲屋から離れた。
⭐︎
「いらっしゃいませ。あ、アキくん。どうぞ。いつものカウンターへ」
俺は、いつものカウンターに座って、タバコを咥える。
「もう、チケットはいらないよな?」
「そうですね。もう、いつでもここに来れますものね」
「ああ。だから、アメナツさん。俺は君とここにいても良いか?」
「良いですよ。出来れば私と珈琲屋を一緒にお手伝いして欲しいんです。最近お客様が増えて大変でしたので」
「美味しいコーヒーが飲めるのならそれで」
「よろしくお願いします。アキくん」
「いや、アキでいい。アメナツさん、俺は、君が好き。一緒に住んでここで珈琲を淹れたい」
「…うん、アキ、私も大好きだよ。よく頑張ったね。還暦までの勤務お疲れ様」
俺は、スーツを脱いで、カフェのエプロンを着る。
「アメナツさん」
「ん?」
「あの日に貰った紫陽花ブレンド、全部飲んだよ」
「最後の味はどうだった?7変化の最後」
俺は、アメナツにキスをする。
「凄く、愛おしくて、会いたくなる、普段アメナツから匂うシトラスな花の香りと、酸味のきいた甘酸っぱい苦いコーヒーだったよ
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