第3話:元気なお姫様と暴れん坊の駄菓子屋の王子様

私はキラキラする石のついた玩具が大好きだった。

お婆ちゃんが持っていたキラキラとしたプラスチックの箱に、可愛い子供用のコスメを入れて。

可愛いがま口の小さな財布にお小遣いを入れて

学校の前にある、小さな駄菓子屋さんに行くのが好きだった。

そこにいたお爺ちゃんは見た目は怖いけど、すごく優しくて。いつも当たり付きのお菓子を見えるところに置いていてくれた。きなこがついたお菓子とか、小さな入れ物に入った乾いたラーメンのお菓子とか。

私はスナック系よりもカラフルな小さな餅とかラムネとかが大好きだった。

そこには紙風船やペーパーグライダーなどの昔懐かしの玩具もあったし、縄跳びやバット、スーパーボールの当たりくじとかも!

そこはまるで子供のためのお店って感じだった。

「おじーちゃん!」

「おや、美々ちゃん。学校は終わったのかい?」

「うん!宿題も終わって、お手伝いしてお小遣い貰ったから駄菓子買いにきたのっ」

「そうかそうか。まだ暴れん坊は帰って来てないからゆっくり選びなさい」

「うんっ」

暴れん坊と言うのはおじいちゃんの孫の卓司お兄ちゃん。高校生で、口が悪くて、よくお爺ちゃんと喧嘩しているのを見る。

近所の悪い子達が駄菓子屋で万引きしたり、また買ってないのにお菓子を食べたりして。それを怒るのがお兄ちゃんだった。

お兄ちゃんの顔は凄く怖いけど、私はきっとお爺ちゃんと一緒で本当は優しい人なんじゃないかなと思っている。

「えっと、今日はチョコ棒とキャンディーとねり飴と…」

カゴにお菓子を入れていると、ふと目に入ったキラキラの指輪。

「わぁー!綺麗な指輪だー!」

それは赤い大きな石がついている指輪だった。私はキラキラが好きだったので買おうと思ったけど……お小遣いが足りない。

「あー…。百円足りないなぁ。うーん…今日はこのお菓子が食べたかったのになぁ。すぐに無くならないかなぁ」

袋に入った指輪を眺めていると、後ろから声が聞こえた。

「…美々ちゃん」

「わっ、卓司お兄ちゃんっ。おかえり」

「…ただいま。どうした?欲しいのか?」

「う、うん…でも百円足りないから、辞めておこうか、こっちのお菓子を辞めようか悩んでるの」

「そうか」

私はカゴと指輪を交互に見ながら悩む。

「…じゃあ俺が指輪を買ってやる」

「え、いいの?」

「ああ。でもジジイには内緒にしとけよ」

「うんっ!」

卓司お兄ちゃんは私に百円を渡してくれて部屋の中に入って行った。

「おじーちゃん!これちょーだい!」

「はいよ。全部で二百円ね。美々ちゃん、その指輪は飴ちゃんだからね。ちゃんと小さくしてから噛むんだよ」

「えー!これ飴ちゃんなの?!」

「そうだよ。綺麗だよねぇ。美々ちゃん、可愛いキラキラしたの好きと言っておったから仕入れておいたんだよ」

「わぁー。ありがとうー!」

私はお釣りを貰って、家に帰った。



「わぁ…キラキラして綺麗」

早速卓司お兄ちゃんが買ってくれた飴ちゃんの指輪を指につけてみる。

電気の光でキラキラ光る。お母さんが指につけてる赤いルビーの指輪と同じ。ううん、それより大きい!

「飴ちゃんって言ってたな。本当かなぁ」

ぺろっと舐めると苺の味がした。

「本当だー!甘くて美味しい!それに本当に綺麗な指輪みたい」

それを卓司お兄ちゃんから貰ったんだー。

「まるで王子様から指輪を貰ったお姫様みたいっ」

私はピョンピョン跳ねながらタンスを開けて、可愛いワンピースを出す。

「これでティアラの玩具をつけて、私は美々お姫様!いつか卓司王子様が迎えに来てくれるの。それでいっぱいのキラキラの石を貰って、それで、舞踏会でダンスするの。パーティーのお菓子はお爺ちゃんの駄菓子でいっぱいにして。るんたたーっ!」

「美々!ドタバタしないで早く寝なさい!」

「あっ、はーい!」

私は舌を出して、パジャマに着替える。

「飴ちゃん、減らないから袋に入れて置いとこ」

ベトベトしたのをそのまま袋に入れて、机の上に置いて私は眠った。



学校へ行って友達と話していると、あの飴ちゃんのついた指輪の話で盛り上がった。

「美々ね、あの駄菓子屋のお兄ちゃんに貰ったんだよ。指輪」

「えーっ!あの怖い暴れん坊の人に?」

「うんっ!卓司お兄ちゃん、怖いように見えるけど優しいんだよ」

「耳にいーっぱいピアスつけてるのに?不良だよ!美々ちゃん、叩かれちゃうよ!」

「だいじょーだもーん。私は指輪を貰ったお姫様だからっ」

クラスの中で大笑いされたけど、私は気にはしなかった。

だって卓司お兄ちゃんの事、好きだったんだもん。



帰りに駄菓子屋を覗くと店番していたのは卓司お兄ちゃんだった。

欠伸をしながら、椅子に座って子供達を見ていた。

「おい、万引きすんじゃねーぞ。ケツ百叩きされたくないなら、ちゃんとお小遣いの範囲で買え。計算出来なかったらやってやるから」

「は、はーい」

皆、いろんなお菓子を眺めながら頑張って計算している。

「卓司お兄ちゃん」

「ん?おお。美々ちゃんか。いらっしゃい」

「こんにちはっ!お爺ちゃんは?」

「今病院に行ってるから俺が店番してる。今日も指輪の飴ちゃんか?」

「うーん、私だと全部食べられなくて、家に帰ったらお母さんに捨てられてたの。可愛いキラキラの指輪だったのになぁ」

「そうか、それは残念だったな」

ぽんぽんと私の頭を軽く叩いて微笑んでくれる。

本当に優しいお兄ちゃん。大好きだなー。

「そうだ。美々ちゃんにいいものやる。ジジイに内緒にしとけよ」

「うん?」

お兄ちゃんは棚の上から何かを取り出す。上に被った埃を払って、私にくれた。

「うわぁ。プリンセスセットだぁ!」

「それ、ジジイが女の孫が出来たらあげようと思ってたらしくてな。捨てるのも勿体無いって言ってたから、美々ちゃんにあげるよ」

「へへ。嬉しいなぁ!卓司お兄ちゃんは王子様だね!」

「俺が王子様か!はははははっ!暴れん坊って言われてんのに王子様ってか。女の子は本当に御伽話が好きだな」

「うんっ!でも本当にいいの?」

「おう。……そろそろここもどうなるかわからねぇからな。捨てるくらいなら、大事にしてくれそうな子に渡すよ」

「卓司お兄ちゃん?」

「美々ちゃん」

「なぁに?」

「ここの駄菓子屋は好き?」

「うん!好き!お爺ちゃんもいい人だし、卓司お兄ちゃんもいい人!それにデパートのお菓子より私は駄菓子の方が好き!」

そう言うと、優しく微笑んだ卓司お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。

「美々ちゃんはいい子だな。ジジイの孫が俺じゃなくて美々ちゃんならよかったのにな」

「そうかなー?お爺ちゃん、卓司お兄ちゃんの事好きだと思うよ!なんとなくだけど!」

「…ははっ。だったらいーな」



そして一週間後。駄菓子屋のお爺ちゃんは死んでしまった。

あの時病院に運ばれて検査を受けていた時に、お空へ行ってしまったと近所の人から聞いた。

卓司お兄ちゃんはお爺ちゃんと二人暮らしだった。

お父さんとお母さんもすでにお空の上に行ってしまってて、卓司お兄ちゃんは遠くの親戚に預けられることになった。


「ここの駄菓子屋、潰れちゃうの?」

「ああ。ジジイがいなくなっちまったからな。俺もここを離れて東京に行くんだ」

「東京?遠い?」

「おいおい。美々ちゃんは小学六年生だろ?社会で地理習ってないのか?」

「う…日本地理苦手なの…」

「ははっ。そーだな。ここからだと五時間以上かかるかな」

「そっかぁ……もう卓司お兄ちゃんに会えないんだね」

「ああ、美々ちゃん、いつもお爺ちゃんの駄菓子屋に来てくれてありがとう」

「……あの、あのね。お兄ちゃん、手貸して」

私は卓司お兄ちゃんの手の上に指輪をおく。

「これは?」

「前にお兄ちゃんに貰ったプリンセスセットの指輪。これ美々だと思って持ってて欲しいの」

「なんで?」

「私、卓司お兄ちゃんの事、大好きだからっ。お爺ちゃんと一緒くらい大好きなのっ。大人になったら東京に行くから、私が会いにいくからっ」

「…美々ちゃん」

「その時、卓司お兄ちゃんが駄菓子屋やってたら…絶対、行く」

私は涙を堪えながらお兄ちゃんに言う。

「ふふっ、ははははっ。参ったな。小学生の子に好きって言われるなんてな。じゃあ、待ってようかな」

「本当?」

「ああ。本当だ。じゃあ、お兄ちゃんの宝物を美々ちゃんに渡しておこう」

そう言って、お兄ちゃんは引き出しの中から綺麗なイヤリングを出して来た。

「これ、工作の時間に作ったイヤリングなんだ。片方しか作ってねーんだけど、これあげる。これが似合う女の子になったら、俺と付き合おうね」

「うん!絶対!」


そしてその後、お兄ちゃんは東京に行ってしまった。



あれから十年後。

私は東京の大学へ進学した。勉強を頑張って、教師になるために。

そう思ったのは高校生の時。学校の先生に憧れを持った。何となくだけど、人の世話をするのが好きだったし、勉強も大好きだったから。

それに…私は今でも昭和の文具を使っている。

友達からババくさいと言われるけど、レトロな物っていつか流行るし!って言って持っている。

「今日はこれで終わりだし、バイトもないし!たまには商店街でも歩いてみようかな。あそこの古い商店街。行った事ないんだよね」

都会には大きなスーパーがあるから、昔のように商店街が賑わっていると言うのが少なくなって来ている。

私が住んでる地域にもひっそりと商店街があって、シャッターが閉まってる所が多いけど、なんか好きなんだよね。

「……あ!駄菓子屋さん!」

私はトタン屋根の昔ながらの駄菓子屋さんの前を通る。

「うわー。懐かしいな。スナック菓子に当たり付きのお菓子。スーパーボールクジに縄跳び。やってるのかなぁ」

カラカラ……と扉を開けてみる。

「すみませーん」

「はーい」

そう言って奥から眼鏡のかけたお兄さんが現れた。

「いらっしゃい。珍しいね。大人の女性がこんな所に来るなんて」

「そうですか?ふふ。私、駄菓子好きなんです。それに私の住んでる地域にまだ駄菓子屋があると思いませんでした」

「そうですね。最近はデパートなどに駄菓子を扱うお店が広まって来ているので個人業でやってるのはもうここだけかもしれません。どうぞ、ゆっくり選んでくださいね」

「はいっ」

私はカゴを持ち場ながら色々と吟味をする。

今は社会人になったし、お母さんのお手伝いをして小遣いを貰うことがなかったので買い放題。

あれもこれもとポイポイカゴに入れていく。

「あー!飴ちゃんの指輪だ。懐かしいな」

私は袋に入った飴ちゃんの指輪をみる。赤くて大きな苺味の飴がついた指輪。全部食べられなくて、袋に入れたらベトベトして取れなくて、捨てたんだっけ。

「くすっ。本当にキラキラが好きなんだね」

「え?」

「美々ちゃん、久しぶりだね。大きくなったなー」

「……えっ?!卓司お兄ちゃん?」

「うん、そうだよ。卓司だよ。顔があまり変わってなくて驚いたよ。それにつけてくれてるんだね。イヤリング」

「うん、だってこれ卓司お兄ちゃんがくれた物だもん。大切にしてるよ」

「それは嬉しいな。俺も美々ちゃんから預かっている指輪持ってるよ。ホラ。返すね」

卓司お兄ちゃんは私に指輪を渡して来た。少しくすんだプリンセスセットの指輪だ。

「卓司お兄ちゃん、駄菓子さんになったんだね」

「うーん、俺は学校の校長だよ。駄菓子屋は趣味みたいな感じ。だから俺が体調いい日だけ開けているんだ」

「校長先生なの?!私、先生になりたくて東京の大学に来たんだ」

「へぇ!美々ちゃんが先生に?うん、きっとなれるよ。そっかそっか」

卓司お兄ちゃんはニコニコしていた。

その顔は駄菓子屋にいたお爺ちゃんにそっくりだった。

「あ、あのっ、卓司お兄ちゃん」

「うん?」

「こ、ここ、今度デートして、くれませんか?」

「え?俺はもうアラサー超えてるし、おっさんと遊ぶの抵抗あるでしょう?」

「う、ううん。卓司お兄ちゃんがよかったら…その紅茶飲みに行きたいです……好きだったんで…」

「そういえば美々ちゃんが向こうにいた時告白してくれたんだっけ。初めて女の子に好きって言われてびっくりした。うん、いいよ。デートしよっか」

「は、はい!」

そしてお互い連絡先を交換して夜は駄菓子を食べながら卓司お兄ちゃんと話をした。



その後、私は大学を卒業。そして卓司お兄ちゃんが校長をやっている養護学校へ来た。

「こんにちは」

「今日からお世話になります。よろしくお願いします!」

「うん、美々ちゃんが来てくれて嬉しいよ」

「はいっ」

私は笑顔で卓司さんに挨拶をした。


私と卓司さんは今、結婚を前提にお付き合いしている。

私の王子様はやっぱり卓司さんだった。

デートを繰り返して、過ごしていくうちに、好きになって、それで玩具の指輪じゃなくて、綺麗な小さなダイヤが入った指輪を渡された。

「私、お姫様になったかな?」

「君はあの時からずっとお姫様だよ。それにいいのか?暴れん坊の王子様だぞ?」

「ふふっ。暴れん坊でも心優しい王子様だからいいんです。駄菓子屋の王子様。幸せにしてくださいね」

「もちろん」



結婚した後は子供を産んで。私は先生を辞めて駄菓子屋の店番をやっている。

お爺ちゃんのように座って駄菓子を選ぶ子供達を見て微笑んだ。

「やっぱり私は駄菓子屋さんが好きだ」

そう思いながら、私はお腹にいるもう一人の我が子を撫でながらのんびりと過ごした。

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