第13話
峡谷の転移神殿から11階層に転移した俺たちは、
目の前には、一面に広がる枯れた大地。
「このどこかに、9階層へ行くための
上枠に〈10〉と書かれた
俺は、
「〈
スキルを発動し感知範囲を広げ、
ディアとアンゼが、左右から俺にしっかりと抱きついた。
少し恥ずかしい気がしたが、照れている場合じゃない。
空高く浮き上がり、遠くを見つめた。
「とにかく飛び回るしかない」
発動したスキルの効果は、二人にも共有される。二人が剣だからだろうか。
俺と同じように感覚的な感知網を持ち、気配も消える。
二人の発する黒と白の放射を利用することで、浮遊が飛行へ変わった。
俺たちは、10階層の
▽
あれほどの速度で飛び回ったのに、
10階層の
昨日、河川沿いで
上階層だからといって
取っておいた肉で腹を満たしたあと、俺たちは
「デイモン、下からごちゃごちゃしたものを感じるのだ」
「だな」
「光を帯びた強い気配が二つ。ディア、ようやくあなたの出番のようです」
「アンゼは
「また頭をぐりぐりされたいのですか?」
「ぐぬ……」
他は冒険者の気配だろう。
〈
「二人とも仮面をつけてくれ」
俺も仮面をつけた。
二人を両肩にし、飛行で一気に下る。
「見えたのだ!」
それよりも、そこは部屋ではなく草原だった。
これが
だが遠くに巨大回廊が見える。草原にぽつんと台座があり
草原には沢山の冒険者の姿もあった。
ディアの体が黒く光り、俺の左手に収束し黒い剣となった。
「アンゼ、前方のあれに加速してくれ!」
「わかりました」
アンゼが白い光を体から放出し、俺たちは巨大な天使の背中へと加速していく。
「デイモン、気付かれています!」
「わかってる」
〈
巨大な天使は、急接近する俺たちに気付いていて、何かするつもりらしい。
空中でくるんと回り進路を引き返した瞬間、天使の背中から無数の光の針が飛び出した。あのまま突っ込んでいたら、串刺しになっていただろう。
剣を構える。
「ディア!」
剣が震えた。ばちばちっと音がし、剣から黒い稲妻が溢れ出る。
俺の腕が、剣を振り抜いた。
黒い斬撃が放たれ、それは天使のうなじを横に斬った。
さらに剣が震え、腕は切り上げるように振った。黒い斬撃が縦に飛ぶ。
十字が重なった。うなじを中心に斬撃は天使を横と縦に斬り、4つに分けた。天使は崩れるように倒れる。地上では砂煙が舞った。
「あと一体!」
次の攻撃に移ろうとしたところ、残りの一体がもの凄い勢いで巨大回廊の方向へ逃げていった。
凄まじい向かい風が止んだときには、姿は見えなくなっていた。
人型に戻るディア。黒い仮面の下の、ご機嫌な笑みが想像できた。
「どうだ! アンゼにはできまい。くっくっく……我の闇は最強なのだ!」
「一体逃げられましたが? 女帝が聞いて呆れますね」
「なんだと!」
睨み合う二人。
「二人とも、あいつを追いかけるぞ」
下から「待て」と声がした。
「何者だ、お前たち!」
黒いローブを纏った女が叫んでいる。
草原に下りると、俺たちはすぐに冒険者らに囲まれた。
目の前では、その黒い女が長い杖をこちらに向けている。警戒されているのがわかった。
丁度いい。
これだけの冒険者を相手にしたことはない。相手にできるかわからない。
この空気感を利用し、できるだけ警戒させておいた方がいいだろう。
そして隙を見て逃げる。
「お前たち、まさかとは思うが、今
緊張する。
相手はおそらく大手ギルドの幹部だと思う。
なぜなら服装が上等そうだからだ。
冒険者なら軽装でも鎧を纏うはずが、俺のように黒い女はローブといった無防備な服を着ている。
おそらく、なんらかの魔法の効果が付与されているはずだ。そんな物を一般の冒険者が着ているはずもない。
俺は、できるだけ落ち着いて答えた。
「そ、その通りだ……俺たちは10階層から下りてきた」
辺りの冒険者がざわついた。
女は、目を見開きあからさまに驚いていた。
「私は
「わたくしはアンゼリカと申します、アンゼとお呼び……」
アンゼに被せ、
「我が名はディアボリカ、闇を統べる暗黒女帝なのだ!」ディアが言った。
俺は小声で二人に注意する。
「ちょっと、なに勝手に名乗ってるんだよ。それより、せめて偽名に」
「も、申し訳ございません。訊ねられたので、つい……」
「なんでダメなのだ?」
「名無しの冒険者ってバレちゃうだろ。レイさんたちを救出してすぐ帰るだけなんだから、まったく……」
現在〈
変更当初は〈なんで改名したんですか?〉とメッセージやコメントが止まなかった。いや、未だにメッセージが送られてくる。
冒険者たちは、俺を〈名無しさん〉とか〈無名さん〉と呼んでくる。
改名した意味はなかった。〈名無しの冒険者〉=〈ディアボリカ・アンゼリカ〉となっただけだった。
「おい、真ん中のお前。お前は?」
「俺に名はない」
「まさか……名無しの冒険者か!」
「え?」
あ、ミスった……。
いや、そうか、そうだよな。そうなるよな。
てっきり、名乗りたくないか?、的な言葉が返ってくると思ってた。
先にディアとアンゼが名乗ってるんだった。
ディアが耳元で言った。
「デイモン、いいのか、なんだかバレてしまったぞ?」
「え、うん……」
アンゼが小声で言った。 「申し訳ありません、段取りを間違えました。どうしましょう……全員殺しますか?」
「こ、殺さないよ、やるわけないだろ。いいよもう……」
急に、殺すか、と聞かれてびっくりした。
アンゼは意外とやんちゃなタイプなのだろうか。
黒い女を差し置いて、赤いロングコートを身に纏う男が二人、前に出てきた。
すでに二人ともロングソードを構えている。刀身が、砂鉄のような黒い影を帯びていた。
一人は赤いロン毛、もう一人はオレンジの短髪だ。
「闇か」とディアが言った。
ディアの力のように、ばちばちと弾ける稲妻のような気配はないが、闇の魔法らしい。
「
「許可もなく討伐するとは、貴様、これは犯罪だぞ」
「くっくっく……こ奴ら、我らを斬るつもりらしい」
ディアが黒い剣を出現させ構えた。
ばちばちっと音がして、部屋を埋め尽くすほどの闇が刀身より現れた。冒険者たちが驚いて声を上げる。怯える者もいた。
赤いロングコートの男は怖気づいたように後退り、一人はその場に尻餅をついた。
「な、なんだこの闇の量は!」
「こ、これが名無しの……」
おそらく、この二人も幹部だろう。
そしてこの特徴的な赤は、
「道理で
そう言いながら
「行け」
女は腕を伸ばし、巨大回廊の方向を指さした。
「逃げた
「ラミアス!
赤いロン毛がそう言うと、オレンジの短髪が怒鳴る。
「貴様、これは権利侵害であるぞ!」
「これ以上汚点を稼いでどうするつもりだ?」
「なんだと」
「
「……ノクターンか」
「そうだ。あそこは針の
俺は言葉を返さず、アンゼとディアと共に浮き上がった。
大手冒険者の派閥争いなんて俺にはわからないが、
それにしても、
「二人とも、行こう」
疑問を残し、俺たちは巨大回廊の方へ飛んだ。
9階層に出てすぐ、悲惨な野営地の姿が目に入った。
〈
「デイモン、あの方々はお知り合いではありませんか?」
アンゼの指さす方向を見下ろした。
エマさんとジェイムスさんの姿が、上空から見えた。だがレイさんの姿が見えない。まさか……。
俺は居ても立っても居られず、すぐに地上に降りた。
「エマさん、ジェイムスさん!」
駆け寄るも、
「レイさんはどこですか、まさかレイさんが!……」
目の前に、知らない男が立ちはだかる。
その服装から、治安維持隊の者だということはすぐにわかった。
男はレイピアを構え、異様に警戒していた。
「止まれ!」
俺は足を止めた。ディアとアンゼも後ろで止まる。
「何者だ!」
「待ってください、大佐」
エマさんが男の肩に手を置いた。
「お前、まさか……」ジェイムスさんが目を丸くする。
エマさんが、人を疑うような目つきで俺を見た。
「デイモン、なの?」
「え、いや、俺は……」
しまった……レイさんのことで、頭が一杯になっていた。
仮面のことを忘れていた。面をした意味がない。
声で気付かれたか。でももう仕方がない。
「レイさんは、どうしたんですか?」
俺は、仮面を取った。
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