第12話
遠征隊と共に旧市街を出発してから、二週間が過ぎただろう。
僕らは、
「ジェイムス、ダメだ!
ジェイムスは後方に飛んだ。
地面に光の槍が突き刺さる。
「悪い、うっかりしてた」
「でもレイ、じゃあどうするの? これじゃあ反撃できないわ」
「どうもしない。今の僕らにも、ここにいる誰にも何もできはしない」
7年前と同じだ……。
あの頃、情報がなかった冒険者たちが次々に死んだ。
冒険者たちにとって、こいつらと出くわさないことだけが生き抜く方法だった。
だからこそ、索敵や感知の効果を生むスキルや魔術は重要だった。
「闇の魔法が使えない以上、耐え凌ぐ以外に方法はない」
10階層の
見上げれば広大な青空だ。ここだけ別世界のようである。
回廊を背にすると、遠くに台座が見える。その上にあるのは
その先には
これらは2週間前、すでに確認されていたものであるはずだ。
だが
攻撃すら防ぐことができない。避けるしかない。
ここには俺たちより腕のある冒険者もいる。
だが誰も、奴らに傷一つ付けられていない。闇の魔法が使える者が、かろうじて攻撃を防ぐことがある程度だ。戦いになっていない。
僕らは強制的に参加させられた。
治安維持隊か
何故ならここにいる僕ら以外の冒険者は、みな、少なからず闇の魔法を使えるからだ。
「いずれ一時退却が命じられるだろう、それまでしのぐぞ」
「レイ、伏せて!」
エマの声が聞こえてすぐ、目の前が真っ白に光った。
▽
巨大回廊からまた怪我人が運ばれてきたようだ。
このテントには窓がついていないため、その度に外に出て確認しなければ、些細な物音の理由さえわからない。
だが私は違う。もう聞き慣れた。
このテントが私の仕事部屋となって以降、何度も聞いた。
この音は、怪我人が運ばれてきた音だ。足音は二人。一人の足音が重いのは、誰かを背負っているからだろう。
近くの救護テントに入ったな。すぐに聞き覚えのある女の声が聞こえた。ビンゴだ。
私は、テントを出た。
「先生! レイを、レイを助けてください!」
女の焦る声が聞こえる。あのテントだな。
今の一声から何が起きたのか大方想像がつく。声はエマのものだろう。リーダーのレイに何かあったのだろう。
私は、救護テントの中を窺った。
「やはり君たちだったか」
ベッドにレイが寝かされている。脇腹から大量に出血しているようだ。
傍に、エマとジェイムスの姿が確認できた。
「ニールフラム大佐」とエマが振り返った。 「レイが!……」
「てめえ、よくも俺たちを……」
ジェイムスが怒り任せに掴みかかってきた。
かわせたが、私は掴みかかられてやることにする。
「あんな場所に俺たちを連れ込みがって……」
「落ち着け、私は何も知らなかった」
「そんな言い訳が通用すると思ってるのか、端から殺すつもりだったんだろう! 丁度いいわな? 俺たちが、名無しの冒険者と関わりがあるらしいと誰もがそう思ってる。冒険者が治安維持隊の遠征に加わること自体が稀だ。それが出先で死んだとなりゃあ、冒険者や民衆に無言の圧力を与えられる。名無しの冒険者に関わるな、支持するなっていうなあ! お前らは裁かれることもない」
私は、ジェイムスのみぞおちに一発拳を入れた。
軽く息を詰まらせ、彼はその場に崩れ落ちる。
「落ち着けと忠告はした。それから、”名無し冒険者“はもういない。アカウント名は、〈ディアボリカ・アンゼリカ〉に改名されていた」
「どうでも、いい……」
ジェイムスは腹を押さえながら立ち上がる。
ベッド脇にのそのそと戻っていった。
しばらくして医者が言った。
「ここでは応急処置しかできません。完治させるには、ノクターンの医療施設に運ぶしかないでしょう」
「そんな……」
傷の重さを理解したように、エマの表情が一層悲しさを増した。
「ふむ、しかしノクターンも怪我人で溢れていると聞く。我々が到着する2週間前には既に満室だったらしいが、現状空室はあるだろうか」
ベッドはまだ余っているようだが、いずれ埋まるだろう。それよりも医者が足りていない。
あの
早い話が、それが病室の満室に繋がっている。
冒険者がクズなら
特に上層部はクズ中のクズ。彼らは冒険者という名のエサを撒き、
出てきたのは、二体の
あの頃と同じだ……。
転移神殿もその一つだ。形態はさまざまである。
7年前、9階層で隠し部屋が見つかった。
その部屋の
大量の冒険者が死んだ。
「私が馬車を手配しよう。レイをノクターンへ移送する」
私は医者へ準備するように行った。
「君たちはここに残りたまえ」
「レイに付き添います」
「俺もだ。中には戻らねえ」
「エマ、ジェイムス、これは命令だ」
またジェイムスが激昂する。
今度は胸倉をつかまず、彼は距離を取った。
「今すぐ
「残念ながら私にその権限はない。ここの管轄権は
「あんた、大佐だろ!」
「いかにも。しかし複雑でね、ここでは大佐の称号もあまり意味を持たない」
だがそれも近く終わりを迎える。
野営地を発つ馬車の後ろ姿を、二人は無力を噛み占めるようにして見つめた。
そう感じたのは、私も自分の、治安維持隊の大佐という立場の無力さを思うからだ。
「申し訳ない……」
私には、馬車を用意してやることくらいしかできない。
「君たちを9階層に連れてくるように言ったのは
「そんな……」
「やっぱりな」
「君の言う通りだ、ジェイムス。彼らは君たちを殺すつもりでいる。捨て駒に使うつもりなのだろう」
現在
だが闇の魔法を使える者に限られているため、人員は少数だ。
精々、
その間に、本命のパーティーは訓練に励む。
「他の冒険者たちはどこへ行った。
「修行だ」
「ふざけているのか」
「大真面目だよ。そもそも攻略とは、こういうものなのだ。
「闇の魔法か」
ソプラノのような甲高い声が、私たちの会話を遮った。
私たち3人が、ほぼ同時に振り返ると、それは巨大回廊の方向だった。
中から声が聞こえる。それは次第に大きさを増している。
目を細め、私たちは息を潜めた。
回廊の中から白い光線が飛び出した。それは空気を揺さぶるほどの破裂音を轟かせ、野営地上空で飛散した。
落下したものが、辺りのテントに被害を出した。
テントが空に浮かび上がり、患者や医者が宙を舞った。運よく直撃を免れたテントから、医者や患者や冒険者が姿を現している。
私たちは、光の粒子に当たらないようにその場に身をかがめた。
両開きに停止している
「外に出やがった!」
「実況解説は不要だ、ジェイムス。見ればわかる」
「
7年前と同じだ。
あの時も、隠し部屋から
それにより、多大な被害が出た。
なにしろ奴らは……
「まずい、あの方向はノクターンだ!」ジェイムスが叫んだ。
人間の居場所を感じとる能力があるからだ。
「待って……このままじゃ、レイの馬車が狙われるわ!」
立ち尽くし、微動だにしないエマの背中が絶望的に見えた。
「なんだ、なにか出てきたぞ!」
ジェイムスが回廊から野営地上空を目で追っていた。
「あれは、人か?」
人が、空を飛んでいる……。
あとには、白と黒の放物線模様が描かれていた。
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