第11話
「おっと、これはまいった……」
剣なんてどこから取り出したのだろうか。
両手を上げ降参する男。ふざけたように口元は笑っている。
ディアに剣を引っ込めるように促しながら、俺は言った。
「それが、なんだって言うんですか」
「別になんもねえよ。ただ商人として、人に化ける剣ってのは興味深い。聞いたこともねえしな。あとはこの、魔力を反射する石とかな。兄ちゃん、この石くれねえか?」
「今、商人って言いました?」
「言ったが、どうかしたか」
「あの、何階層の商人ですか?」
「……昨日までノクターンにいたが」
「ノクターン!」
ノクターンとは、9階層に築かれた町の名だ。
まさかこんなところでベテランの商人に会えるとは思わなかった。
「逆探知されないようにスマウグを細工するとは、兄ちゃん、若いのに危ない橋でも渡ってんのか? 気ぃ付けろよ」
「あの、その石を譲る代わりに教えてほしいことがあるんですけど」
「この石くれんのか、マジかよ」
「はい。その代わりに9階層の情報が欲しいんです」
男の名は、ジョルダムと言った。
こちらも名乗り、ディアとアンゼについてはやんわり伏せておいた。
《
問題は、誰が怪我をしたのかということだが……。
「男だって話だ」
「男?」
ということは、レイさんかジェイムスさんのどちらかということになる。
ジョルさん曰く、《
リーダーのレイさんの名は通っているものの、それほどではないという。
「それは、間違いないんですか?」
「
ただしそういった冒険者パーティーは他にもあるそうだ。
なにより大手ギルドの前では名がかすむ。
「けが人が出ればすぐに表に知れるはずだ。誤報はあっても、偽ってことはねえだろう」
誤報の可能性もあるか……。
だがジョルさん曰く、ある程度信憑性のある情報だそうだ。
「ねじを締めなおしといた。それから、他の石についてはちゃんとはめ込んである」
「ちゃんと?」
「この石のことだよ」
隙間のない修理されたスマウグを受け取りながら、ジョルダムさんの手の平の小石を見る。
「逆探知はちゃんとできないはずだぜ。で、他に聞きたいことは? こんないいもん貰っといて、これだけってわけにはいかねえしな。職業病かわかんねえが気味が悪くなる」
〈
ホストに唯一ある〈1〉の数字をタッチし、それから《《
「怪我って、深刻なんですかね」
「どうだろうな。だが深刻でもねえなら漏れねえんじゃねえか?
「医療施設……」
デイモン、戻ってきてくれないか……。
あの日の、レイさんの言葉が脳裏に過った。
3人の心意は今もわからない。ただそんなこととは別に、あの時点で俺にはディアとアンゼがいた。二人の力を借りれば、多少なりとも、いやそれ以上の戦力にはなったんじゃないろうか。
怪我をせずに済んだんじゃないだろうか。
「あの、その積み荷にある仮面」
「ん、これか?」
偶々目に入ったそれを、俺は求めていた。3枚の仮面だ。
一つは、一面が真っ黒な仮面。もう一つは、一面が真っ白な仮面。
最後の一枚は、顔の中央から左側が黒、右側が白という、まるでディアとアンゼに挟まれた俺を表しているかのようの仮面だった。
3枚とも目つきは鋭く、表情は冷たく、だが見方によっては微笑んでいるようにも受け取れる。
「良かったら、それを売ってくれませんか?」
「やるよ。石の礼だ」
「いいんですか?」
「この石の対価にしちゃあ安いくらいだ。そこそこ頑丈な作りをしてるが大した品じゃねえ。他に何か欲しいものはないか?」
考えてはみたが、特に思いつかなかった。
「旧市街にはまた来る。これが最後ってわけじゃねえだろ、あんたからは不思議な空気を感じる。見習い冒険者にしか見えねえのに、珍しいものばかり持ってる。商人の勘が言ってる、俺たちはそのうちまた出会うってな。そのときまでに考えといてくれ」
去り際、あの辺りにはあまり近づかない方がいいとジョルダムさんは言った。
《
「よくわからん、おっさんだったのだ」
「デイモンのことが気に入ったみたいでしたね」
「どうだろう。商人は拝金主義と功利主義の化け物だって聞くし、あまり信用しない方がいいかもな」
だが情報は知ることができた。
嘘をついているようには見えなかった。ジョルダムさんは一度も“間違いない”という言葉を使わなかった。
誤報かもしれないが偽ではない、なんていうよくわからない言い方すらした。
石が欲しいだけなら、情報に間違いはない、とそう言えばよかったはずだ。
《
「ディア、アンゼ……お願いがあるんだ」
「どうかなさいましたか?」
「真面目な顔などして、どうしたのだ?」
「少し、力を貸してほしいんだ」
階層を順に上っていては時間がかかり過ぎる。
それだと到着に一週間以上かかってしまう。11階層から下って向かう。
「俺と一緒に、9階層に行ってほしいんだ」
二人の力なら
あの日みたいに……。
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