第9話
蟹の半分を譲るかわりに、3人に蟹の頭を調理してもらった。
パーティーのリーダーでもあるクラインが魔法で土台を作り、アメリアとコーディーが魔法で火をつける。
「あのくらいならわたくしにもできました」
耳元でアンゼそう言った。
「いいんだよ。どうせ全部は食べられないし」
“冒険者のマナー”をやるにも、この量だと包装が大変だ。〈氷結袋〉が足りない。
しばらくして調理を終え、俺たち6人は成り行きで共に蟹を食った。
「なるほど。偶然通りかかったお姉さん二人に、蟹を恵んでもらったってわけか」
クラインが、蟹の味噌汁をすすりながら言った。
「まあ、そんなところかな」
「デイモンらしいわ」アメリアが言った。 「一瞬、デイモンがこれを仕留めたのかと思ったけど、そんなことあるわけないわよね」
クラインたちは、3人して笑い声を上げた。
大量の蟹にありつけて気分がいいらしい。
「それより聞いたぞデイモン、《
と、コーディーが話題を変える。
アメリアが初耳だと驚く。
「え、そうなの? もったいない……デイモンレベルの冒険者がパーティーを組むって難しいのよ? あのパーティーは9階層経験者の超エリート少数パーティーだったんだから」
「らしいな。1週間前に知ったよ」
「あなたが抜けたならと、私たちあのパーティーに入ろうかと思ったんだけど、なんでも治安維持隊の監視下にあるっていうじゃない。おまけに遠征隊と9階層に向かっちゃって、もう旧市街にはいないっていうし……」
「色んな冒険者があのパーティーに入りたがってる」とクライン。 「俺たちと同じことをみんな考えてる。それで急いで遠征隊のあとを追っていった奴らもいるしな。お前、ほんと勿体ないことしたな」
「……俺がいても、迷惑をかけるだけだったし」
「ま、そうだろうな。そもそも学校での成績もぱっとしねえ、当然実績もねえ見習いのお前が、なんであのパーティーに入れたのか未だにわからん。《
コーディーが代わりに続けた。
「そんな中、見習いのよーわからん冒険者がパーティーに参加した。他、約千人の冒険者は落選だ……お前には同情したよ」
「同情?」
意味がわからなかった。
「わからねえか?」とクライン。 「《
「囮……」
考えたこともなかった。
一週間前のレイさんたちの言葉は今もわからない。だけど
俺には、そうとしか思えない。
「流石にこの量は食い切れねえ。包装も難しいな、そろそろ行くか」
三人は立ち上がった。
飲みさしの味噌汁をぶっかけ、火を消した。
もったいない。少しだけ、俺は表情を曇らせる。
「そうだ」
と、在り際にクラインが言った。
「《
「大変?」
「10階層の
「けが人! 一体誰が……レイさんか? それともエマさん?」
思わず、俺は口調を強めてそう言った。
クラインが「なんだよ」と半笑いで一歩下がる。
「詳しくは知らねえ、風の噂だ。ま、でも良かったじゃねえか」
「良かった?」
「人を囮に雇うようなパーティーだろ。やっぱ9階層経験者は凄いわ、やることがえげつねえ。お前にとって、良かったんじゃねえかって言ってんだ。これでせいせいしたろ、腹もまた空いてきたんじゃねえか?」
「蟹を分けてくれてありがとう」とアメリア。
3人は、その場を離れていった。
「気分の悪い方々でしたね」とアンゼが言った。
「腹が立つのに、なんで何も言い返さないのだ?」
「腹が立つ?」
「顔が曇っておるぞ。違うのか?」
「……どうだろう」
よくわからない。
言われっぱなしの期間が長すぎて、腹が立っているのかなんなのか……。
帰り道に、開けた大地を通った。
遠くに薄く見える山脈に向かってここを真っすぐに進むと、二階層の
目の前に大岩があった。
「デイモン、岩があったぞ、試し切りにピッタリなのだ!」
張り合いのある
そう言って敵を探していたディアだったが、目の前の岩でいいと言った。
黒い剣に変身したディアを手に持つ。構えた。
「刃が折れちゃわないか?」
大きいし、堅そうな岩だ。
そもそも刃物で岩を斬るなんて非常識だ。
「全然平気なのだ!」
剣が震えた。俺の腕は、勝手に剣を振った。
ばちばちっと黒い稲妻が光り、黒い斬撃が地を掘り返しながら走った。
両断された大岩が、周囲へ弾け飛んだ。ぱらぱらと空から破片が降ってくる中、俺は唖然と立ち尽くす。
「うわ……」
その光景を前に唖然とした。
人型に戻ったディアは、一回転しながら飛び跳ね、誇らしげに腰に手を当てる。
「ぎゃはは! どうだデイモン、凄い一撃であろう! 我の稲妻はアンゼをもしのぐのだ!」
家が一つ吹き飛んだような衝撃だ。
思わず、一枚パシャリと撮った。投稿しようとして指が止まる。
「……大丈夫だよな。ただの岩だし。記念記念と」
〈
▽
翌朝。
朝刊を手に取り、寝起きの目を見開いて呆然とする。
「〈名無しの冒険者、国道開発で妨げになっていた大岩を破壊!〉……」
そこに掲載されていたのは、まさかのあの岩だった。
かつて計画が進んでいた国道開発だが、進路上に巨大な大岩があったため、計画は一時中止された。と記事にはあった。
当時、岩の除去を9階層の冒険者に依頼したが、破壊ならず。
市長は、今日にも調査隊を派遣し、国道開発を再検討したいとの意向を表明……。
「最近噂されている名無しの冒険者によるものであるなら、是非一度直接会い、感謝の言葉を述べたいと市長は答えた。嘘だろ……」
「アンゼ、見るのだ、我が昨日破壊した岩がのっているぞ!」
「あら、本当ですね。良かったではありませんか」
「なになに、国道開発? なんなのだそれは?」
「なんでもないよ。また変に名前が広がっただけさ……」
適当な岩を破壊しただけなのに。
一面の下部には、〈蟹の王様、浜に姿現す〉と昨日の巨大蟹のことも掲載されていた。
ざっくり読むと、大岩のあった場所から近い浜であるため、これも名無しの冒険者の仕業ではないか、と記事には書かれていた。
アカウント名でも変えるか。
朝っぱらから溜息が出た。
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