第2話

 河川蜥蜴リザードマンが曲剣を突き立て、二足歩行で迫っている。

 俺は素早く腰の直剣を抜いた。


「ここだ!」


 思わず声が出てしまうのは、いつものことだ。

 河川蜥蜴リザードマンの向かって右側に、右足を踏み込みながら、直剣を横に構え、抑揚をつけるようにして振り抜いた。

 河川蜥蜴リザードマンは、おそらく俺を突き刺そうとした。その瞬間に、動きが僅かに止まった。力んだのだ。どういう訳か、こいつらはいつも力む。

 体の構造に弱点でもあるのか、どうなのか……。

 相手の動きを見切った瞬間の高揚感は、気持ちがいい。

 だからいつも声が出てしまう。

 といっても、河川蜥蜴リザードマンを相手にしたのは一カ月ぶりくらいだ。

 レイさんたちと《針の塔オベリスク》に入るときは、俺は前衛に出ないから、剣は抜いても使わない。


 辺りは木々と茂みに囲まれていた。


「〈鑑定スキャン〉!」


 河川蜥蜴リザードマンの死体と曲剣に、スキルを使った。

 目の前に、透過した長方形の表示画面――ウィンドウが現れる。枠内には、内容が記載されている。



 ――――――――――――――

 ・魔物モンスター

河川蜥蜴リザードマン

 蜥蜴種リザード。河川や河口など、平坦な川の傍に村や野営地を形成し、住み着く魔物モンスター。集団と個人と、行動スタイルは人間同様に多種多様。

 皮がワニのように丈夫であり、袋や鞄、防具などに加工して使うことができる。


 ・所持品

〈腰布〉

 汚れた麻の布。


〈山賊首領の曲剣〉

 素材は簡素だが、よく研ぎ澄まされている。生前、山賊の首領だった女の持ち物。

 ――――――――――――――



 スキル〈鑑定スキャン〉は、対象の内容を知ることができる。価値があるかどうかは内容を見て自分で判断する。

 ウィンドウは俺にしか見えない。


 曲剣をさやごといただき、死体から腰布を剥がす。

 河川蜥蜴リザードマンの右腕をうろこごと切り落とし、血を軽く振り落として腰の麻袋に入れた。

 首を斬り落とし、紐で軽く縛る。自分の腰に括り付け、吊るす。


「戦利品はこんなもんか。あとは……」


 冒険者のマナーだ。

 狩った魔物モンスターは、そのまま放置しない。

 〈氷結袋〉という、冒険者御用達の魔道具がある。サイズが大小あり、市場や雑貨屋、道具屋なんかで激安で売られている。

 狩ったモンスターを袋のサイズに合わせ、部位ごとに切り分けて袋に入れた。素材は一瞬で冷凍される。これで鮮度は保たれる。

 袋に詰めたら、紐か何かで縛り、一つにまとて木に吊るしておく。傍に木がない場合は、岩陰か、岩の上にでも置いておけばいい。


 《針の塔オベリスク》では、毎日どこかで冒険者が死ぬ。

 死因は様々だ。魔物モンスターに殺されたり、派閥争いやなんかで冒険者に殺されたり、崖から落ちて死んだり……。

 今にもどこかで、誰かが死んでいる。

 これは、せめて飢餓で亡くなることがないようにと始まった風習だ。


 俺は、木の太い枝に袋を括りつけた。


「《索敵サーチ》!」


 河川蜥蜴リザードマンがいるということは、近くに川があるということだ。

 一匹で行動する個体もいるが、大抵は集団で動いている。

 近くにまだ河川蜥蜴リザードマンがいる可能性がある。


「あっちか」


 いた。

 古城を背に北の方角、ということにしておこう。

 ここを真っすぐ進み、おそらく森を抜けた先だ。河川蜥蜴リザードマンが複数体いる。

 だが今日はもう十分だ。

 それに、一騎打ちならまだしも、一度に複数を相手にするのは面倒くさい。


 東に向かって森を抜けると、峡谷きょうこくの目の前に出た。見上げるのも疲れそうな高い壁に挟まれ、だだっ広い道が続いていた。


 帰るつもりだったが、面白そうだと思い少し歩いてみた。

 まるで絶壁に挟まれている気分だ。

 道の脇に小さな川を見つけた。思わず〈索敵サーチ〉を発動する。河川蜥蜴リザードマンはいないようだが、しばらくスキルを発動させておいた方がいいだろう。


「なんだこれ」


 壁に空洞ができていた。

 中はどうやら洞窟になっているらしい。

 入り口の前に、壁の色と同じ大量の岩が広く低く積み上がっている。おそらく最近崩れたのだろう。それで洞窟が顔を出したんだ。


 鞄から、布切れとアルコールを取り出した。〈山賊首領の曲剣〉の剣先に、切れないように布を巻き付け、アルコールをかける。マッチを擦って火をつけた。

 積み上がっている岩を跨ぎ、洞窟の中に入った。


 鍾乳洞ではないだろうか。

 火が頼りないから全体は見えない。壁に火を近づけると、雲のようなしわが見えた。若干湿っているようだ。頭に何か冷たい感覚があった。水だ。

 天井に剣先を伸ばすと、氷柱つららのような岩の先端から水が滴っている。

 近くに川があったことを思い出し、いい加減な知識が過った。

 もしかすると、ここ最近、この天井の高さまで水が満たしていたのではないだろうか。


 情報共有は大切だ。

 スマウグを取り出し、アプリ〈集会場ミーター〉を起動する。撮影機能で鍾乳洞の天井や壁を、火を照らしながら撮った。


「こんなもんでいいか」


 上手く撮れた方だろう。

 画像を添付し、〈鍾乳洞みっけ!〉のコメントと共に記事を上げた。


 気が付くと、検索機能から《陽気な少年たちジョリー・ジョニーズ》のアカウントページを探していた。

 見つけると、俺は〈ホストボタン〉を押した。

 ユーザーページの〈ホスト:0〉だったものが〈ホスト:1〉に変わった。

 クライアントの数は、冒険者にとって知名度や人気を表していて、それ自体が力に繋がることもある。

 これで、少しは役に立てたかもしれない……。


 ポケットにしまおうとして、スマウグを地面に落とした。慌てて地面に火を照らす。

 運よくすぐに見つけられたが、落とした衝撃で側面が半開きになっていた。間に細かい石が入ったのか、軽く振るとカサカサと音がする。

 やってしまった……。スマウグは高級品なのに。

 画面は映った。仕方なく、そのままポケットにしまう。


 道幅が狭くなってきたところで、開けた場所に出た。


「神殿か……」


 自然に生成された場所ではないように思う。

 正方形の広い部屋だ。天井の隅のあちこちに隙間があり、そこから外の光が漏れている。火を使わなくても、少しだが部屋全体を見渡せた。


 部屋の中央に4つの柱があり、それが四角い舞台を作っていた。今ふみしめている地面よりも、大人一人分ほど高い。

 短い階段を上がった。

 最初の一歩を舞台の上に下ろした瞬間、舞台全体が青く光った。


「しまっ!」


 しまった。

 そう思ったときには、視界は白い光一色になっていた。



       ▽



 尻餅をついていた。


「どこだ、ここ……」


 目の前に四角い舞台があった。短い階段と4つの柱も見える。

 だがここは、さっきの部屋じゃない。すぐにわかった。

 天井の隙間から漏れていた光はない。

 部屋全体は薄暗く、四方の壁にかけらた燭台が照らしていた。さっきの部屋と比較するとかなり薄暗いが、見えないほどではない。

 舞台の周りは、浅く水が溜まっている。俺の尻が濡れてしまったのは、そのせいだ。水面で蝋燭の火が揺らめいている。少し肌寒い。


 とりあえずスマウグを取り出す。

 部屋の中を軽く撮影し〈集会場ミーター〉を開いた。

 〈なんか転移した(笑)〉のコメントと共に添付し、記事を上げた。


「考えても仕方ない」


 入り口から部屋を出ると、その先は鍾乳洞ではなかった。

 燭台に照らされた白壁の廊下を抜けると、景色が一変する。


 広大な青空と大地が広がっていた。

 後ろには神殿だ。また一枚写真を撮る。〈やっぱ神殿だった。けど転移したから別の神殿か?〉のコメントと共にアップする。


 神殿の裏には、赤色の山脈が広がっていた。

 頂上にいくほど山は赤みを帯びており、ふもとに近づくほど灰色で、石や岩が向きだしだ。

 赤色山脈を撮った。〈赤色山脈と命名する!〉のコメントと共にアップする。


「ちょっと少し進んでみるか」


 赤色山脈を左手に、しばらくし進んだところで足が止まった。


「でっけえ……」


 山脈にめり込む、巨大な扉を見つけた。

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