第3話

 あまりの大きさに恐怖すら感じる。

 スマウグで大扉を一枚撮り、〈無駄にデカい扉みっけた(笑)〉と画像をアップする。


 辺りは人一人いない。

 魔物モンスターの姿もない。

 涼しい風が吹いた。大地でむき出しの岩に反響しているのか、不気味な風音が聞こえた。


 興味本位で、扉にそっと触れてみた。

 直後、地響きが聞こえ、轟音となる頃には地面が大きく揺れた。

 バランスを崩し尻餅をついた。そこで気付く。地響きではなかった。扉が動いたのだ。ゆっくりと両開きに開き、手前に迫ってくる。

 急いで立ち上がり、扉から離れた。


 思わず扉に触れた方の手を確認しながら、開いた大扉を一枚撮った

〈なんか開いた、階段あった(笑)〉のコメントと共に画像をアップする。


 大扉の向こうには、幅の広い階段が下の方へと続いていた。

 先は真っ暗で、何も見えない。

 2階層や3階層へ上がる際に通った、上階層への道アセンション・パスに似ている。3階層も2階層も1回しか行ったことがないから、記憶は曖昧だが。


 階段を一歩一歩下るたび、大きな深い穴底に落ちていくような感覚がした。

 心臓がどきどきする。怖いのか、わくわくしているのか、わからない。

 下から強烈な向かい風が吹き上げた。

 大階段に仰向けに倒れると、何故だか笑みが零れた。


 階段の途中で〈索敵サーチ〉が反応した。

 急いで〈隠密スパイ〉と〈無音サイレンス〉を発動する。

 同じようなスキルかと思いきや、〈隠密スパイ〉には足音を消す機能がない。足音以外は消せるのに、それだけが消せない。気配しか消せない。

 気配を完全に消すには、〈無音サイレンス〉を使う必要がある。


 30分ほど下り続けて、礼拝堂のような青暗い場所に到着した。

 広間だ。天井は高い。

 “青暗い”のは、壁に青く灯る燭台があるからだった。

 広間の真ん中に、浮遊する魔物モンスターの姿を見つけた。顔が骸骨だ。

 スキルを発動しているから俺に気付かないのだろう。見向きもしない。スキル様様だ。


 目の前に大きな箱があった。階段を下りた目の前だ。

 箱は胸の高さくらいまであった。

 表に回り正面に立った。


「これって、宝箱チェストだよな」


 いわゆる、各階層のどこかに隠されているという、珍しい道具アイテムの詰まった箱。見たのは初めてだ。

 誰から聞いただろうか。

 確か階層門番レイドボスの部屋には、一際大きな宝箱チェストがあるとか、ないとか……。

 一回でいいから見てみたいもんだ。


 静かに箱を開けた。

 あまりの眩しさに目を瞑り、片腕で遮る。箱の中は、金銀財宝で一杯だった。

 赤に青、緑に黄色など、宝石が溢れている。

 まるで黄金の米の上に、宝石のふりかけが散りばめられているようだ。

 巻物や本なんかも入っていた。魔法の巻物スクロール魔導書グリモワールかは、わからない。若干の衣服もあった。


 宝箱の中を一枚撮った。

 〈お宝いただき!(笑)〉と画像をアップする。


「貰っていいよなあ。見つけたの、俺だし」


 一際派手な剣が目に付いた。白と黒の剣だ。

 刃先に至るまでが白く、もう一方は同じく刃先に至るまでが黒い。


「〈鑑定スキャン〉」



 ――――――――――――――

〈聖なる純白アンゼリカ〉

 白い聖女アンゼリカが、その身を生贄にし鍛えた白い刀身の剣。

 剣は、彼女の生気を纏っている。その一振りは闇を斬る。


〈暗黒女帝ディアボリカ〉

 闇の女帝ディアボリカが、その身を生贄にし鍛えた黒い刀身の剣。

 剣は、彼女の生気を纏っている。その一振りは光を斬る。

 ――――――――――――――



 剣は、それぞれさやに納められていた。鞘自体も高級そうだ。

 右利きだから、直剣はいつも左腰につけている。左腰――直剣の上にディアボリカ、右腰にアンゼリカをつけた。


 未だ、広間の中央に浮遊している骸骨を見つめた。

 首から下にマントかレースかわからない何かを着ている。足が見えない。

 王冠を被り、杖を持っている。派手な骸骨だ。


「あれ、いけるかなあ」


 おそらく腐屍種アンデッドだろう。この白い剣で斬れないだろうか。

 〈聖なる〉という表現から一番遠い存在である気がする。〈闇を斬る〉と書いてあったし、いけるんじゃないだろうか。

 アンゼリカをそっと抜いた。

 骸骨は、まだ俺に気が付いていない。魔物モンスター相手に正々堂々もないだろう。今のうちに、後ろからすぱっとってしまおう。

 その前に、と、スマウグを取り出す。

 骸骨を一枚撮る。〈骸骨みっけた! なんか浮いてる(笑)〉とアップしておいた。

 

 中央へ向けて走る。

 ずっと階段を下っていたからか、平坦な広間は足運びが楽だ。


「ここだ!」


 骸骨が振り返った。黒い二つの空洞と目が合った。振り下ろした剣は、するりとかわされてしまった。

 しまった。癖でまた声が出てしまった。

 あまりにも上手く背後をとれてしまったからだ。骸骨は、完全に俺に気付いた。

 カスタネットみたいに、顎をかちかち鳴らしている。威嚇いかくか、牽制けんせいしているようだ。


 骸骨が、金の棒のような大杖を俺に向けた。先端が光り、複数の水色に光る球が飛び出た。

 素早く避ける。水色の球は、着地すると小さい範囲で床が凍った。冷気を帯びているらしい。

 スキル〈索敵サーチ〉のおかげで気配が掴みやすい。骸骨が、どこを狙ってくるのかがわかる。かわせない技じゃない。

 ただ避けるので一杯一杯だ。反撃できない。

 床が凍っているから、移動する場所に気を付けなければいけない。もたもたしていると、広間全体が凍りそうだ。


 骸骨の動きが止まった。今だ。

 広間を駆け、ここだと思った場所から飛び上がった。骸骨が浮遊しながら、ふわっと優雅を気取るように俺の剣をかわした。

 着地して振り返る。

 骸骨が顎をかちかち鳴らした。笑っているらしい。

 

 アンゼリカが震えた。


「なんだ!」


 白い刀身が発光した。

 ボールを下から投げるように、俺の腕が勝手に剣を振るった。

 どういうことだ……。困惑しながら、剣先から突然に放たれた白い斬撃を目で追う。

 舌も声帯も失っているはずの骸骨が、断末魔のように絶叫した。

 光の斬撃は、骸骨の上半身と下半身を斬り分けていた。貫通した斬撃が天井の一部を崩し、砂埃すなぼこりが舞った。


 剣の震えは止んでいた。

 浮遊していた骸骨が、崖から身投げする世捨て人のように、広間に落ちる。

 砂埃が消えたあと、骸骨に駆け寄った。


「〈鑑定スキャン〉!」



 ――――――――――――――

 ・魔物モンスター


幽鬼の王レイス・キング

 幽鬼種レイス。目視はできるが、実体のない霊体である。浮遊の衣と魔法の杖を手に入れたことで、力をつけた幽鬼種レイス。国も領地も持たぬ自称の王。


 ・所持品


浮遊の衣レヴィテーション・ドレス

 浮遊の効果が付与された灰色のローブ。元は濃い紫色をしていたため、部分的に紫色の生地が混ざっている。幽鬼種レイスの三種の神器の一つ。


幽鬼の冷気レイス・コールド

 幽鬼種レイスが手にした場合のみ冷気の球を放つ大杖。幽鬼種レイスのみ使うことができる。幽鬼種レイスの三種の神器の一つ。


金の王冠クラウン

 幽鬼種レイスが好む純度100パーセントの冠。合金ではないため、傷つきやすく型崩れしやすいが、安定を促す魔法の力でそれを補っている。幽鬼種レイスが身に着けることにより、彼らの発する特有の冷気がさらに補う。幽鬼種レイスの三種の神器の一つ。

 ――――――――――――――



幽鬼種レイス? 腐屍種アンデッドじゃなかったのか」


 初めて聞く種族名だ。

 骨に触れようとしたら、指先がすり抜けた。〈鑑定スキャン〉の結果通り、霊体らしい。

 大杖――〈幽鬼の冷気レイス・コールド〉を手に取ってみた。一振りしてみるが、全く反応しない。

 魔道具には〈氷結袋〉のようなものもあれば、所持者の魔力を消費して使うタイプのものもある。これはどちらだろうか。”幽鬼種レイスのみ使うことができる”、ということは、魔力は関係がないのかもしれない。

 〈金の王冠クラウン〉を被ってみると、頭がひんやりした。市場にある冷凍室みたいだ。内容説明には書いていないが、これ自体も冷気を帯びているらしい。


「わっ!」


 〈浮遊の衣レヴィテーション・ドレス〉を羽織った途端、体が持ち上がり、床からふわっと足が離れた。

 感覚はなんとなく、すぐに理解することができた。

 子供みたいにはしゃぎながら、俺は広間の中を飛び回った。


 斬撃の被害が、骸骨本体だけでなく〈浮遊の衣レヴィテーション・ドレス〉にも及んでいた。すそが短くなっている。かえって長さが丁度良かった。裾の長さは、着ると足が隠れるくらいだ。

 冠と杖もいただこう。

 残るは、骸骨の方だが……。


「これ、どう使うんだ?」


 肉なら食えるが……。


 骸骨の全体像をスマウグで撮った。完全に白骨死体だ。

 〈なんかすり抜ける(笑)、持って帰れない。いらないか、骨だし〉と画像をアップして、気が付いた。

 幽鬼の王レイス・キングは衣を羽織っていた。そして衣は今、俺が身に着けている。


「もしかして……」


 衣の切れ端ごしに、白骨死体に触れてみた。


「触れた!」


 切れ端を頭部に巻き付け、頭を引っこ抜く。

 もう一枚、写真を撮った。

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