第14話

「あれ、なんで馬車?」


 昼を過ぎる頃、俺たちは王都に戻って来た。

 防壁を目の前に「なんで王都?」と何が起きたのか知らないパールさん。

 目が明後日の方向に向いている。


 ギルドの受付でオルギエルドさんの手を渡した。

 依頼完了の品だと告げる前から、受付嬢は「これは……」と言葉を失いあたふたする。

 そのまま裏へ走っていった。


 戻ってくるなり、傍らに目がバキバキのおっさんがいた。

 あの試験官である。


「紛れもなく人喰いのものだ。未だ再生し続けているのが何よりの証拠」


 試験官は言った。


「お前ら、これをったのか?」

 ロードリーさんが「こちらのシンクが」と告げると、試験官は「そういうことか」と妙に納得した。

 そういえば、試験の時もこの人はおかしかった。

 俺にだけ【D+】への昇級を進めてきたことを思い出す。


「エルキンス様、いかがいたしますか」

「依頼完了だ。報告後、報酬を渡してやれ」


 俺は村で起きた事を説明した。

 その話にパールさんは「私、毒を飲まされたんですか?」と泣きそうになった。


「どうだ坊主、【D+】に昇級するつもりはないか?」

「またですか」

「俺は【真眼】というメリットを持っていてな、相手の強さを数値化することができる。あそこで喧嘩している【E】ランクの坊主二人が見えるか」

「はい」

「たとえばあいつらは【2】だ。巨乳な彼女は【1】」

「きょ、巨乳な彼女はやめてください! 私にはパールという名前があるんですから!」

「悪い悪い。え、こっちの魔女は【4】」

「なるほど。便利な能力ですね」

「だが世の中には強さの見えない奴がいる。俺これまで、数値の見えなかった奴に3人あった」


 エルキンスさんは言った。


「一人は人喰いだった。名は知らない。あれは相当な手練れだった。二人目は赤狼の女王だ」

「赤狼の女王?」


 ロードリーさんが「ブラッディーウルフの長のことだ」と言った。


「――三人目はお前だ」

「……え、俺?」

「そうだ、お前だ。だからお前が人喰いを狩ったと聞いても、俺は驚かない」

「俺、【F+】ですよ? 測定器なんか【F】でしたし」

 」

「受付嬢、報酬を渡してやれ」

「は、はい。ただいま!」


 慌てて後ろに下がっていく受付嬢。


「シンクと言ったな?……俺から言えることは一つだ。お前、今すぐ【D+】に昇級しろ」

「――しません」


 俺は即答した。

 まるで「お前はギドラ人だ」と言われた気分だ。

 オルギエルドさんの声が聞こえる。

 俺は人間だし、そんな訳わからん奴じゃない。

 ケイデンスではシンプルに弱かった。【ファイアボルト】しか使えない、非常に分かりやすい雑魚だ。

 今さら強いなんて言われてもムカつくだけだ。


 受付嬢が報酬を持ってくると、エルキンスさんが言った。


「ところでお前ら、戻ってきたばかりで悪いが、依頼を受けないか?」

「依頼?」

「魔術大学が騎士団を交えた講習会を開くそうだ。誰か参加してくれる冒険者がいないかと依頼を出してきてな。冒険者はああいったエリートの集まる場所には行きたがらない。それにお前らが村へ行っていた間に、少々問題が起きてな。ほぼすべての冒険者が依頼で王都中を走りまわってる」

「だからギルドに人がいないんですか。何かあったんですか?」


 コロシアムの一件と何か関係している気がする。

 ところで、あそこにいる【E】ランクの二人は何をしているんだろうか。

 昨日パールさんを無理やり勧誘していた奴らだ。

 エルキンスは俺の質問を誤魔化すように、


「魔女に巨乳に【F+】の人喰い殺しだ、この組み合わせは面白い。魔女のあんたは【D+】だし、不足はないだろう。報酬もそこそこいい。どうだ、受けないか?」

「シンク、お受けしよう」

「えー」

「講習は明日だ。帰ってきたばかりだしな、今日は休んで明日に備えればいい」

「よく分かりませんが、なんだか面白そうです」とパールさん。


 大学を一度見てみたいらしい。

 面倒くさいが、断りずらかった。


「じゃあ、分かりました」


 エルキンスさんは笑った。




 〇




 翌日、俺たちは王立セロリン魔術大学校へやってきていた。

 芝で整えられたグラウンドに、魔術学部のとある学科の生徒たちは集められていた。

 周囲にはいかにも金持ちが通いそうな校舎がいくつも見える。


「こんにちわ諸君、私は金犬ゴールデンレトリーバー騎士団所属、団長のマカダミアン・ナッツです」


 銀と金の豪華な鎧に赤いマント。

 胸元に金色に輝く犬の紋章。

 貴族上がりのような金髪をキザっぽくかきあげ、マカダミアン団長は挨拶する。


「すげえ、本物だ」

「私団長さんなんて初めてみたー」

「腰の剣見てみろよ、金に光ってるぞ」


 何が本物なのかさっぱり分からないが、やはり国の騎士というだけあって有名らしい。

 学生たちには大人気だ。

 対して俺たちときたら――。


「ランク【F+】のシンクと申します」

「同じく、ランク【F+】のパールです」

「【D+】のロードリーだ。よろしく頼む」


 男子学生たちは話を聞いていない。

 一人残らずパールさんの胸ばかり見ていた。

 いや、一人は違った――エルマーだ。

 偶然にも、この学科はエルマーの所属しているクラスだった。


「おい見ろよあの乳、ホルスタインキングみてえぞ」

「女二人に男一人って、一体どんな冒険してんだよ」

「【F+】って論外じゃない?」

「確か【D+】で初めて冒険者って言われるんじゃなかったか?」


 パールさんは胸を隠し、ロードリーさんは苛立ちを押さえ、俺は無表情である。

 これくらいは慣れている。

 人は群れるほどにイキがり、自分よりも下と決めた他人をバカにする。

 どこへいっても同じだな。


 中年太りなおばちゃん先生が前に出て説明した。


「セロリン王国の騎士団長は、国に4人しかいない。もっとも高位の、格式高い騎士とされています」


 生徒たちが絵にかいたように「おー」と声をそろえ興奮する。

 マカダミアン団長は白い歯を見せた。

 オルギエルドさんを前にした後だから思うのだろうか?

 この人は別に強くないように感じる。

 なんといか危機感を抱かない。


「冒険者とは、フリーランスで多目的な仕事をこなす、便利屋さんのようなものですね。主な仕事はモンスター退治ですから、より生のご経験をされているという訳です」


 そこで手が上がった。


「先生ぇー、質問いいですか!」

「はいどうぞ」

「モンスター退治は分かるんですけど、それなら騎士団の方々もご経験されていると思うんですよ。冒険者ってそれとどう違うんですか? 専門って言っても、【F+】や【D+】程度でできる経験って、すごいんですか?」


 なんともあからさまにバカにした質問だ。

 態度も気に食わない。

 そろそろロードリーさんが切れそうだ。


「えっと、そうですね……あ! そういえばギルドより伺っていますが、こちらのシンクさんは先日、人喰いを討伐されたそうですよ!」

「――冗談だろ?」


 それはマカダミアン団長だった。


「【F+】が人喰いを倒した? おいおい、勘弁してくれー。バカバカも休み休み言うことだ。人喰いといえば、超警戒枠扱いの【S】ランクモンスターだぞ? 貴様のような目の死んだ【F+】が及ぶはずなかろう」


 空気が凍り付く。

 だが学生たちには面白いらしい。

 大口をあけて伸びやかに笑い声を上げている。

 あの笑い方は俺がここ4年で失ったものだ。

 エルマーの顔をちらっと見ると目が合った。苦笑いをした。


「それはどういう意味だ」


 ロードリーさんがキレた。


「我々が嘘を言っているとでも言いたいのか、貴様は?」

「ちょっとロードリーさん、仮にも相手は国お抱えの騎士ですよ? 貴様はマズいですよ」

「――そう言ったつもりだが、聞こえなかったかな?」

「取り消せ!」


 ロードリーさんが吠えた。

 傍でパールさんは「あわわあわわ」と困っている。


「いいだろう! そこまで言うなら決闘で決めようじゃないか。お前か私、どちらが真実を口にしているのかをな」


 なにが「いいだろう!」だ。さっぱり分からん。

 一体なにをどう考えたら決闘の話が出てくるのか。

 これだから脳筋は困る。


「ちょうどいいだろう? 今日は魔術師である生徒たちに、馴染みのない剣術を教えるという名目で来ている。私とお前たち3人の誰かで、より実践的な剣による試合を見学してもらおうじゃないか」


 ロードリーさんが言葉に詰まった。


「剣なんて無理ですよー。それより、講習ってそういうことだったんですか? 私全然知らなかったですよ」

「パール、昨日説明を受けただろ」

「え、そうでしたっけ?」

「困ったな……パールが唯一の剣士だ。だが彼女では流石に荷が重いだろう。相手は騎士団長だ。あのようなアホ面でも剣の腕は一流のはず」

「聞こえているぞ魔女。貴様、魔女だろ? その特徴的な紫の服装は知っている」

「だったらどうした?」

「魔術が達者でも、剣の一つも握れんとはな。一体なんだったら握れるのかな? その目の死んだ冒険者のアレを毎晩握っているのかな?」

「――殺す!」


 ロードリーさんの体から妖気みたいなのが漏れ出たところで、俺は手で押さえた。


「俺がやりますよ」

「……シンクが?」

「多分、剣なら使えるんで」

「――何をしている男」


 マカダミアン団長はすでに剣を抜き、位置についていた。

 大剣ってやつだ。


「私の相手は初めからお前だ。人喰いを殺したのはお前なのだろ、それとも女に私の相手をさせるつもりか?」


 俺は無言のまま位置についた。

 団長は「愛想のない奴だ」と鼻で笑った。

 俺は剣を抜いた。


「ん、なんだその棒切れは?」

「剣ですよ。実戦と同じでいいんですよね?」

「もちろんだとも、殺すつもりでこい。加減はしてやる」

「……わかりました」


 俺が構えに入ると、マカダミアン団長は可笑しな笑みを浮かべた。


「なんだその構えは?」

「我流ですよ」

「貴様、ふざけているのか?」

「大真面目ですよ」


 学生の笑い超えが聞こえる。


「で、では! 騎士団長様と冒険者シンクさんによる決闘です」


 一応の司会をするおばちゃん先生。


「いつでもかかってきたまえ。合図は君の初手の任せる」

「分かりました――」


 その瞬間、俺は最初の一歩を踏み出した。

 剣先をねじるように突き出し、団長のほぼゼロ距離に接近する。


「なっ!?」


 団長が気付いた。だが遅い。


「――【触角】!」


 ギリギリ見えたのか、団長は大剣で身を守った。

 黒鞘の剣先が大剣の表面中心に振れている。

 手首をなじった時、剣先が大剣を貫いた。


「バカな!?……」


 団長の大剣は砕け、団長は後ろに吹き飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る