第16話 カエルの王子様

 6年生の参観授業は午後に他クラスと合同で行われた。飛び級を狙って積極的に発言する生徒の姿が何人かあった。授業中、俺はそんな生徒たちの背中をぼーっと見ていた。一言も喋らなかった。

 学校終わり、店に行っててほしいと三人を先に行かせ、しばらくして教室を出た。


 校舎を出ると顔面に夕暮れが突き刺さった。

 正面の門まで続くタイルの道、その左右に見える整えられた芝生の庭。ベンチなどが用意された憩いの場所だ。そこに、老師たちと楽しそうに会話する生徒たちの姿が見えていた。

 今あそこにいる生徒たちは出世していくんだろうか。蔑む気持ちはない、素直に頑張れと思った。


「死んだ……死んだ……死んだ……死んだ……」


 突然物騒な言葉が聞こえた。振り向くと、左隣に、庭の生徒の一人一人を指さしながら不謹慎な言葉を連呼する老人の姿があった。腰が丸まっていて小さい。服装が老師たちと同じものだったから、すぐに何者かは分かった。


「お主の考えは間違っておらん」


 一言そう言った、まるで悟ったように。


「ここにおる生徒全員、いずれ飛来人に殺されよるわ」


「それはちょっと、言い過ぎなんじゃ……」


「何が言い過ぎなもんか、お主もそう思っとるんじゃろ。こ奴らは全員死ぬ、今のままではな」


 でも、その通りだ。

 飛び級して一足早く魔法使いになっても、行きつく先は同じだ。飛来人を前に、この人たちは何もできない。あの戦闘方法が、飛来人のものと同じならばの話だ。


「兵士学校の生徒は、お主らがぬくい部屋で絵本を読んどる間に対人戦法を学ぶ、魔法使いを守るためにな。相手を殺すことが目的ではない、自分を守ることが目的でもない、じゃから戦場に出た兵士の生存率はちょー低いんじゃ。しかし人を守るためには敵を殺されねばならんから、それなりには学ぶ。よってお主よりはマシと言えるかもしれんが……お主、生き物を殺したことはあるか?」


「えっと。熊を、ちょっと……」


「熊か。そりゃあ、また……。立派に殺したんか?」


「りっ……胴体を両断しました」


「そりゃ立派じゃ」


 なんだか圧倒される。生き物の死をまったく憂いたりしない。でも口が悪い。


「でも、国の考えに反するなら、熊を殺したことも意味はなかったかも……。安全に逃げられた経験の方が必要だったかもしれません」


「気にすることはない」


 老人は大口を開けて笑った。俺の悩みをかき消すみたいに。


「今日初めてお会いしたがの、お主には何か、儂らとは違うもんが見えとるんじゃろ?」


「……さあ。どうでしょう、分かりません」


「儂は安心した人間が嫌いじゃ。見よ、あの嬉しそうな顔たちを。これで飛び級確実と言わんばかりじゃ。あれでは棺桶にも入れん、戦場の死体は回収されんからのお。今のうちに拝んでおくか」


 そう言って老人は手の平を合わせ、頭を下げる。


「不謹慎ですよ、ゼルマントラ老師」


 後ろにマラフーテ卿の姿があった。

 講堂にいた時とは違い、帰りの服装に着替えている。ただし評議員を象徴する青色であることは変わらない。


「飛来人の真似事はやめてください」


「丁度良い、お主にも拝んでおくとするかのお」


「老師!」


「冗談じゃ冗談。お主、すぐキレるのお。若いんじゃ、あんましキレん方がええぞ?」


「……余計なお世話です」


 そう言ったマラフーテ卿の低い瞼が俺を見下ろした。すぐに視線は老師に戻り、


「ハリス殿に、何か余計なことを吹き込んでいたのではないでしょうねえ?」


「お主の知ったことではない。ハリス殿の問題じゃ」


「……」


「評議員は忙しいんじゃろ、ほれ、さっさと帰らんか」


 マラフーテ卿はあからさまに舌打ちし、門の方へ歩いていった。平穏だった表情が一瞬にして乱れたのにはちょっと驚いた。講堂では見せなかった顔だ。


「マラフーテ卿と親しいんですか?」


「いんや、まったく。しいて言えば、昔魔法を教えたくらいじゃ。しかし何も学んどらん」


「え……でも評議員ですよ?」


「エルゴノイツの風に呑まれたもんは評議員であれ、みんなあのようになる。そうなったら仕舞じゃ。見えるものに忠実に、さすれば天下無敵の如くなり――そう言うたんじゃがのお」


「……え?」


 俺は思わず老師に食いつきそうになっていた。


「今なんて言ったんですか!」


「な、なんじゃ、やめんか」


「見えるものに忠実にって、そう言いませんでしたか!」


「言うたがなんじゃ、怖いのお。古い、雑多な言葉じゃろう」


 落ち着きが戻り、俺は確かめるように言葉をなぞる。


「見える者に忠実に…・・」


「さすれば天下無敵の如くなり……。ハリス殿、お主には見えるんじゃろ? じゃったら嘘をついて生きる必要はない」


 シブガキさんはあの時、そう言いたかったのだろうか。分からない。


「ところでお主、体術がどうとか言っておったが、魔法ではなく剣でも学ぶつもりか?」


「いえ、魔法を学びますよ。それから杖を作ります」


「杖を作る……このJellyRodジェリーロッドみたいなやつか?」


 老師はローブの内側から杖を取り出した。


「それはただの試作品ですよ」


「これが試作……嘘じゃろ?」


「本当です。それよりもっといいものを作ります、魔法を自由に使えるものを」


 そう口に出してみて、どこか高揚感を覚えた。内から湧き出してくる感じだ。不安の薄れる気配もする。曇っていた何かが晴れるようだ。

 もちろん講堂でのことを思い出せば、今もいい気はしない。


 遠景の夕暮れが消えかかっていた。その奥から藍色が覗いている。そろそろ暗くなりそうだ。早く見せに行かないと……。


「……ほうか。これが試作品とは、楽しみじゃのお。久しぶりに長生きしとうなったわ」


「良ければ老師様も一緒に……」


 振り向くと、そこに老人の姿はなかった。

 辺りを確認しても、傍には校舎から出てきた時と変わらず誰の姿もない。

 左右の芝生には相変わらず生徒と老師様方の姿があり、そこも出てきた時と変わらず滑稽だ。


 まるで狐に化かされた気分だった。突き刺さる夕陽を見つめていると、記憶の中で老師様の声が聞こえた。シブガキさんの声と重なって、俺に言った――。



 〇



「殿下、お言葉ですが、ハリス・ジェンキンスに少々固執してはおられませんか? あれはただの子供では……」


「ただの子供ではない。そう言ったはずだ」


「も、申し訳ございません……」


「よい。では話してやろう、今は誰の意見も欲しい。私の考えに間違いがあると言うなら指摘するがよい」


 気まぐれに補佐官の無礼を許した。ここの所、何か見落としてはいまいかと自分を疑う日々が続いている。そのせいか、少々疲れている。


「王都入りした翌週、あの者は杖を持ってここに現れた。そして一カ月足らずの間に、王都の魔法使いたちは姿を変えた。ただの子供がその短期間で、影響を及ぼしたのだ。百歩譲り、仮にそなたの無礼が正しいとしよう。ただの子供ならば、子供を動かす親がいるということになる」


「親、でありますか……まさか」


「私も常々考えた、しかしそこでジェンキンス公の名を口にするのは安易だ。あの男がそのようなへまをするとは思えない。かつて学友であった私には分かる」


「は、はぁ……」


 補佐官は理解しえない様子。当然といえよう。

 学生時代を思い出す。ジェラルドにしろ、ベンにしろ、あの頃、真に私たちを理解できたのは私たちだけだった……。

 ふっ、気を抜くとすぐあの日々が頭の中に戻ってくる。


「ではあの密偵はどうか。ここへハリス・ジェンキンスを連れてきたのはあの老人だ」


「シブガキでありますか。しかし、そうなるとシブガキとジェンキンス公が裏で繋がっている必要があります」


「その通りだ。繋がっていた方が自然と言える。しかしだなあ補佐官、私はベンに最大の信頼をおいている。どのような理由にせよ奴が国に背くなら、その前に一言相談があってしかるべきなのだ。それがないということは必要がないと考えたか、もしくはベン自身予定としていなかったかだ。いずれにせよ、あの自称隠し子に私はしばらくこだわるつもりでいる。革新的であることに変わりはないからだ。エルゴノイツの存亡のため、王子として目を話す訳にはいかない」


 私は訊ねた。


「それで補佐官、異論はあるか?」


「いいえ、とんでもありませぬ」


「結構なことだ。下がれ」








 〇



「ハリス、大丈夫?」


 講堂でのことは気にしてないと言ってるのに、フィオナは心配する。


「マラフーテ卿は王子が送った刺客じゃないかなあ、やけにハリスに絡んでいたし」


 ヨハネスが適当なことを言った。


「それはないよ。変な質問をして余計に話を長引かせたのは僕だ。最初の一言二言で終えていれば、あんなことにはなってなかった」


 ヨハネスは深刻そうに鼻息をもらす。納得していないみたいだ。


「そういえばハリス、知ってる?」とダン。「パテントの職員だったシブガキさんって、密偵だったらしいんだ」


「ああ、知ってるよ……」


 南の一件が公となり、少しして、飛来人上陸にキングヘッドの町民が加担していたという疑いが広まった。そして、その指示をしたのがシブガキさんということになっている。俺も訳が分からない。

 公開された情報によれば、シブガキさんは王都入り後パテントの職員となり、飛来人側に何らかの情報を流していたというのだ。


「王族の陰謀だよ、あの人はむしろ守ってた方だ。またどこぞの王子が企んだんだろうさ」


 ダンが知らないのも無理はない、深くシブガキさんと話をしたのは、この中で俺だけだ。

 ただシブガキさんが特許庁に潜り込んでいたのは本当かもしれない。評議員であるラッセンの情報に関して妙に詳しかったし。

 そのとき、カランカランと店の方で扉の開く音がした。閉店の看板はかけておいたはず。


「フィオナ、お客さんかい?」


 居間から店の方を覗くフィオナに、ヨハネスが訊ねた。


「――急な訪問、申し訳ない」


 聞き覚えのある声に、背筋がぴんとなった。ヨハネスとダンも同じ様子だった。

 返事のないフィオナの背に恐る恐る近づき、俺たちも店の方を確認した。


「……」


 ――エンリケ王子の姿があった。隣には甲冑を着た騎士……ではなく、王室のものでもないだろう、身軽な恰好の護衛の姿があった。

 しまった……囲まれたか。

 ヨハネスもダンも、フィオナも気付いてるはずだ。おそらく、今、この店は包囲されている。俺たちが決して逃げられないように。

 どうにかして誰一人だけでも逃がしたい。それで屋敷に戻らせて、ハルネさんかシンシア姉――ハルネさんが一番いいか――に知らせないと。

 でも俺たちはまずその場に片膝をつき、首を垂れるしかなかった。


「楽にしてくれていい」王子が言った。「今回はお忍びで来ているんだ、できればあまり事を世間にしらせたくない」


 穏やかな声色だった。広間で前にした時とも違う、不気味なほど静かだ。

 俺たちは立ち上がった。一切、視線を王子からそらすことなく。


「発明の方はあれからどうかな、順調かい?――」


 そう、王子が問いかけた時だった。


「――うわぁああああああ!」


 ダンが王子に杖を向けていた。錯乱しているみたいに何度も叫び、そして、


「ダン、何をしているんだ!」


 ヨハネスが絶句したような面でそう言った時、王子の体に異変が起きた。


「殿下!……貴様あ、殿下に何をっ、う、う、うわぁああああ!」


 ダンはとっさに護衛へも杖を向け、その瞬間、動揺の異変が起きた。

 僕らは目の前の光景に唖然とし、一切の言葉がでない。フィオナは柱にもたれて呆然とし、ヨハネスは「なんてことだ……」と事態の深刻さに、いずれ頭を掻きむしった。


 目の前に、二匹のカエルの姿があった。

 一匹は何の変哲もないガマガエル。もう一匹のガマガエルは、頭に王冠のような物をかぶっていた。


「王子が、カエルになっちゃった……」


 ゲコゲコと喉を膨らますカエルに気を取られながら、俺は言った。

 ダンはその場に膝から崩れ落ち「どうしよう……」と一言。


「ダン。おいダン! 早く殿下を元に戻せ!」


 両肩をゆすり、放心状態のダンにヨハネスが詰め寄った。


「……え?」


「え、じゃない。王子を、このカエルを早く戻すんだ!」


「待ってヨハネス」俺は言った。「王子には自覚はあるのかなあ、今カエルになっているっていう自覚は」


「こんな時に何を言ってるんだハリス」


「大切なことだ。戻して、それでもし王子がカエルにされたことを覚えていたら……いいや、覚えてるはずだ。少なくとも護衛の方は分かってる。王子に魔法を使ったんだぞ、僕らは死刑確定だ」


「……くそ」ヨハネスの力のこもっっていた目が、店の床に散った。


 しばらく立ち上がることはないだろうダンの手から杖を取り上げた。それにしても早い詠唱だった、朗読は聞こえなかったし速記術か。でも何か書いていた素振りもなかった。

 ダンのJellyRodジェリーロッドから本を抜いた。一冊は「線」二冊目は修学旅行で配られた「空の小粒」。そして三冊目に、見知らぬ本が入っていた。


「……カエルになった王女様?」



 〇



 放心状態のダンとカエルが二匹が入ったカゴを持ち、屋敷に戻った。

 もう日も暮れて空は暗くなっていたし、遅いとみんなが心配する。


 外を警戒して店を出るまでには時間がかかった。包囲している衛兵の数や位置を把握する必要があったからだ。でも、拍子抜けだった。

 店の外には、酔っ払いが一人歩いているくらいだった。夜は人通りの少ない路地であるため、それ以外には誰の姿もなかった。王子は言う通り、お忍びで来ていたのだ。


 屋敷の居間で暖を取ってしばらくしても、ダンは何も語らず心ここにあらずだった。彼が話してくれるまでには時間がかかった。


「ハリス、これ……」


 ダンがふところから本を取り出し、言葉少なにそれを俺に渡してきた。


「これは?」


「ハリスが書いてって言ってたやつ……増殖の本だよ。題名はハリスが決めて」


「え!?……」


 慌ててハードカバーの中を覗くと、中には文字がびっしりと書かれていた。


 以前、ダンの文才を知って俺はある物語の執筆をお願いした。

 物を増殖させる物語だ。物を前に複数欲しい、でもそれは一つしかない。そうなった場合、魔法で増やせれば解決すると思った。

 これは攻撃に変換する必要のない物語だけど、杖に入れて使う。杖作りの過程で分かったことだけど、杖は厳密には攻撃に変換するだけのものではなかった。変換できる、というだけのことだ。

 つまり変換には使用者の意図が必要で、でも世間的に杖は攻撃変換デバイスみたいな認知だから、魔法使いたちは明確な先入観を持って杖を使う。となると必ず物語は攻撃に変換される、という内訳だ。

 意図すれば杖を通しても物語は物語のままに使うことが可能。それは、ろ過により純度の高まった魔光石だと、以前よりも感覚的に調整しやすいものとなった。


「すごいよダン、よくこの短期間で書けたね。まだ一カ月も経ってないのに」


「ハリスが、僕ならできるって言うから、嬉しくなって。その勢いで書いたんだ」


「勢いで書けるものなのか……」


「それで、完成したあとに気付いたんだだけど、僕はその本、詠唱なしで使えるみたいなんだ」


「え?」


「朗読とか筆記を使わなくても、ほとんどすぐに使えるんだ。作者だからかなあ?」


「作者だから……。じゃあ、この本もそうなの、すぐに使えるってこと?」


 カエルになった王女様――俺はその本について訊ねた。


 それはあの時、羊皮紙に殴り書きしていた内容をまとめて書いた物語なのだという。

 王族の娘に恋をした貴族の男が、披露宴の前日、王女をカエルに変えて拉致する。その後、男はカエルとなった王女を鳥カゴに入れ、買い続けたという話だ。

 内容自体への感想はおいておくとして……。


「これで王子はカエルになったのか。ダン、その、王子に意識はあるの?」


「分からないんだ」


「……物語に出てくる王女は、カエルにされたあと、意識はある設定?」


「だから、それが分からないんだ。あるかもしれないし、ないかもしれない。それは貴族の男にとっての永遠のテーマなんだよ」


 カエルは鳥かごの中から、ときおり男を見る。それは王女としての視線なのか、それともカエルとしてのものなのか。魔法を解けばそれも確認できるだろう。でも男はしない。カエルに王女としての意識があった場合、王女はきっと自分を責めるだろうから。

 王女なのか、そうでないのか、男はその狭間でカエルを見つめ続ける。


「だから誰にも分からないんだ」


 ダンの話を聞きながら、フィオナが若干嫌な顔をしていた。俺の視線に気づくと、半笑いで誤魔化した。


 誰が、王子が訊ねてくるだなんて思っただろうか。でも、ダンはずっと不安だったという。


「またあの王子にアイデアを盗まれるんだ。一生懸命考えて作っても、どうせまた持ってかれちゃうんだ……そう思うと、僕は羊皮紙に文字を書いてた」


「……分かった。とりあえず、この話はここだけにしよう。王子と護衛については、今はこのままにして、また考えるしかない。何か方法を考えよう。解決策はある。とにかく、今は発明に集中して――」


「ハリスは分かってないよ」


「分かってない?」


「僕らはもう見つかっちゃったんだ」


「まだ決まった訳じゃない、王子はお忍びで店に来てたんだ」


「他の誰も知らないってことにはならないよ。それに、これはすぐ問題になる。王子が訪ねてきたほどなんだ、きっと僕らは最初からターゲットになってたんだよ。このままじゃ飛来人に寝返ったヒューブリッツ家みたいに」


「ヒューブリッツは寝返ってない。飛来人から王都を守ろうとして壁を張ったんだ」


 シブガキさんが壁を張った事実を、エルゴノイツは謀反と意味をすり替えた。キングズヘッドには魔光石があるからだ。エルゴノイツが入って来られないようにしたのだと。


「王族はそうは思ってくれない。反逆者だって言われて、それでシブガキさんみたいに拷問されて」


「拷問!?」初耳だ。


「前に父さんが言ってたんだ。密偵が捕まって取り調べを受けてるって。国の尋問は手荒いって」


 どうもその密偵の名が「シブガキ」という名だったらしい。修学旅行前の出来事だとか。

 旅行一日目の夜、海岸で、シブガキさんが病的なほどにやつれて見えたのはそのせいか。


「父様が西の魔力障壁の警備全般を担当してるから、その辺りのことには詳しいんだ。飛来人を相手にしてるから、密偵とか、その手の情報は入ってきやすいんだ」


 だからってこんな子供に喋るか、普通。西の警備は大丈夫なんだろうか。アドヴァンス公は息子を溺愛している可能性がある。

 とにかく、王族が非人道的な連中だってことは分かった。


「とにかく様子を見よう。王子が姿を消したんだ、明日には何か反応があるはず」


 ダンの心は暖炉の火のように不安で揺らぎ続ける。言葉よりも明確なものがないと、この文豪は納得しない。

 それにしても随分と物騒な物語だ。


「ダン、もうこの本は使っちゃダメだ。人をカエルに変えるなんて、しゃれにならない。もし悪人の手に渡ったら……」


「分かってるよ。暖炉で燃やそう、その方がいい」


「燃やす必要はない。鍵をかけて、君以外使えなくすればいいんだ」


「……血の契約をするの、あ、だからテーブルにナイフが置いてあるのか、嫌だよ、指先でも痛いんだよ?」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。大丈夫、痛いのは一瞬さ。契約が済んだら鎖でぐるぐる巻きにして、南京錠で物理的にも鍵をかける。それ本が開けないようにする。そしたら、これは君が保管するんだ」


「僕が?」


「うん。南京錠の鍵はヨハネスが持つ」


「え、なんで僕が?」


「こんな強力な魔法、僕だったら絶対飛来人との戦いで使いたい。でも使うべきじゃないと分かってる。ヨハネスなら使わないし、使わせないはずだ」


「どうしてそう言えるんだい、僕だって使うかもしれないよ?」


「こんな非人道的な魔法、貴族の恥だ」


 趣味が悪いことは間違いない。そんな汚名を背負ってまで、ヨハネスはこの物語に手を出さない。

 ダンに本を渡したのは戒めだ。それにこれはダンの書いた本なんだから、ダンが持っているのは当然のことだ。




 数日して、大通りの広場の掲示板に、王子が「数日前より行方不明」であるという紙が張り出された。

 下部に情報求むとあり、有効な情報を提供した者には金品が王様より金品が支払われるという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る