第13話 透明な岐路

 振り返ると一帯は岩壁だった。どこを見ても岩と土で、逆さに尖ったその先から、水が滴って音があちこちで反響している。葉の隙間はおろか、日が差し込んでいることはなくどこも真っ暗闇だ。

 シブガキさんは慣れた足取りで進んだ。


「なんですかこれ」


 洞窟の中に家が建っていた。海岸沿いにあるペンションと似た様式だ。


「ヒューブリッツが何代にもわたり、守り続けてきたものです」


「守り続けてる?」


「入れば分かります」


 シブガキさんは前置きもなく、急ぐように玄関扉を開けた。

 中は開放的で広々としていた。右が主に台所で、左が居間。吹き抜けで、扉で仕切られていない大部屋だった。

 二階建てかと思ったけど、ただ天井が高いだけだった。

 居間ではテーブルや戸棚、ソファーがぎゅうぎゅうに密集していた。壁際に暖炉もあって、生活感がある。


 ソファーの上に、毛布に包まった黒髪の少女がいた。俺をじっと見ている。ティムとユリカくらいの背丈だろうか。歳もそのくらいに幼いように思う。


「ノウ様」


 シブガキさんが少女のものと思わしき名を呼び、丁寧にお辞儀した。俺も習ってとりあえず頭を下げる。


「ノウ様?」


 俺が訊ねると、シブガキさんは自分の頭を指さし、


脳様、、です」


 ソファーから飛びあがり、「じーじ!」と少女はシブガキさんに抱き着いた。見るからになついている。


「この子に会わせたかったのです」


「え、この女の子に?」


 いたって普通の少女だ。洞窟の中のペンションという、不思議すぎる場所に住んでいる以外は。


「エルゴノイツは魔光石の出所について知りたがっています。それが、脳様なのです」


「それが脳様……え、何がですか?」


 この少女が魔光石だって言ってる訳じゃないだろう。

 話がつかめない。


「魔光石とは何か、どのようにして我らは作っているのか、それをハリス殿はご存知ですか?」


「いえ、まったく」知るはずがない、「石ということは、この辺りに採掘場所があるということですよねえ?」


「大抵の者は当然のようにそう思い込みます。エルゴノイツもそう思い込み、かつて森に捜索隊を派遣してきました。しかしそれは見当違い――それが、ヒューブリッツが長年にわたりエルゴノイツにかけてきた、物語、、なのです」


 シブガキさんは抱きかかえていた脳様をおろし、


「魔光石の正体は、氷です」そう言った。


 すぐには理解できなかった。でもしばらくして、なぜそれが守られてきたのか、その一片くらいには気づけたきがし、


「まさか……水ですか?」


「その通りです、ハリス殿は理解がお早い。儂らは川から水を汲み、それを凍らせることで魔光石を作っておるのです」


「え、ってことは、王都に流れてる川やその辺りにある川の水を凍らせても、魔光石になるってことですか、そんなバカな……」


「はい、そんなバカなことはありません」


 俺の好奇心をへし折り、シブガキさんは「鍵はこの子です」と言った。


 俺は彼女の名を呪文のようにぶつぶつ繰り返した。彼女がいったい何だと言うのか。

 少女はいつのまにかソファーに戻り、毛布にくるまっていた。そしてまた俺をじっと見ていた。


「脳様から発せられる魔障、それが影響し、ただの川の水を魔力の源泉へと変えるのです」


 それは水が魔光石になることよりも、もっと、とんでもない話だった。

 彼女の魔障の影響を受けたものは、水も木も岩壁も、すべてが魔力を宿すのだという。

 そんなとんでもない少女を指して、シブガキさんは穏やかに言った。


「この子を王都に連れて行ってやってください」


 驚きのあまり声も出ず、「……言われても」


「魔法使いが杖を手にして以来、それらが姿を変えたことはありません。少なくとも儂が魔法を知ったその時には、すでに今と同じ姿をしておりました。しかしあなたが王都に現れ、杖は形を変えた。杖は気軽に携帯できるものとなり、他の荷物とかさ張らず、ファッションの一環にすらなっております」


「それは僕じゃなくて他の商人がやったことで」


 王都の魔法使いたちの姿は俺の望んだことじゃない。あれは退化に等しい。

 そう話すと、シブガキさんは「はい、今後の変革にも期待しております」とそえた。


「変革をもたらしたのはハリス殿です。魔光石の熔解自体はヒューブリッツ家も古くから知っていたようです。ですが今以上の発展に儂らは関わるべきではないと、何を思ったかヒューブリッツの初代領主はそう考えた。しかし変化が訪れた。石の正体を知らずに辿りついたのはハリス殿、あなた、ただ一人のみです」


 いずれ誰かが気付いたことではある。でもシブガキさんはこの縁に掛けたいと言った。俺を先駆者だと言って、このまま俺に委ねるべきだと。

 脳様が異世界人――飛来人に渡れば、悪用されて確実にエルゴノイツは終わるらしい。そもそもあの船はヒューブリッツの魔光石を狙ってやってきた可能性が高いのだそうだ。


「でも僕も……」――異世界人だ。


 シブガキさんも、辺境伯も分かってるはずだ。なのに何で、一番重要なこの子を俺に託せるんだ。


「息子も儂も、もうあなたが異世界人でないことは分かっております」


「そんなはずないじゃないですか、僕は異世っ――」


「――志の問題なのです。儂には、あなたに飛来人と同じものが根付いているとは思えませんのじゃ。かつて儂らは友好を築き互いに尊重しあっておりました。見た目が同じじゃったので、受け入れるのは簡単でした。第一世代、第二世代と飛来人は現れ……」


 何かを悔やむ時、人はこんな顔をするのか。

 心は分からない。表情に見えるものが、悲しみよりも冷たい怒りであるように思えた。白目が大きくなって、震えていた。



 〇



 洞窟から林道、森を抜けて、ひとまず丘に出るということで、シブガキさんに従い後ろを追った。

 脳様は「魔障」という未だ得たいの知れない力を持っていること以外は、普通の小さな女の子だった。人懐っこくて、嫌がることなく俺と手をつないでくれた。

 長い黒髪が綺麗で、服装も含めてどこか和風な感じだ。まるで平安の姫のように見える。

 丘に出たら彼女の足では走れないと言われ、林道で背におぶった。それも彼女は嫌がらなかった。


 森を抜けると、町と海を繋ぐ丘の頂上に出た。そこから海岸沿いの様子が見えた。

 シブガキさんはデカい杖で宙に光る文字を書きながら、


「もう船が……」


 砂浜に辺境伯と多数の兵士、上陸した者たちの姿が見えていた。人が密集している、乱戦だ。

 それは俺が想像していた魔法使いの戦いじゃなかった。ラッセンとジェラルドさんが見せてくれたものとも違う。剣と剣の戦い。魔法なんて見えない。海風が微かな金属音を運んでくる。

 辺境伯が魔法の詠唱をし、兵士がそれまでの時間稼ぎをするといった感じだろうか。でもそうだとすると、連係はとっくに崩れてるってことなんだろう。辺境伯も剣で応戦している。


「これが、魔法使いの戦いですか?」


 よくは見えない。あれが飛来人だろうか。見た目に関して特に俺たちと違いはない。人間だ。

 キングヘッドの兵士は甲冑を着ているから区別できる。でも飛来人は雑多な布切れや革を着ている。


「儂には当然の光景です、ハリス殿には何か違って見えますか?」


「当然って、全然魔法を使ってないじゃないですか」


「当然です。死ぬか生きるかの一秒以下を競う場で、魔法など使ってはおれませぬ」


 その通りだ。考えなくても分かることだった。朗読や筆記は近接戦闘では何の役にも立たない。


「門まで走りますぞ」


「……はい」


 シブガキさんは老体とは思えない運動能力だった。登山道を使わず丘をすべり下りたのだ。俺は横着せず、脳様を背負っているし、階段を使った。

 宿舎の傍を通った。生徒はみんな避難したのか、馬車が一台もなかった。昨日着いたばかりなのにもう帰ることになるとは、誰も思わなかったろう。


 町はゴーストタウンと化していた。閑散としていて、風音がよく聞こえる。と言ってもどこまで避難が進んでいるのかは分からない。

 シブガキさんは常に杖を走らせ、足を走らせた。

 十字路。十字路。十字路――。いくつもの交差点を通過し、町を駆け抜ける。人の姿は見えない。初日に門を潜った時は、町から丘にかけて道の左右にいくつもの出迎える笑顔があった。でも今は、もぬけの殻だ。通りも家も、全部、誰の姿もない。


「――ハリス殿!」


「えっ……」


 ――剣先が見えた。

 声に振り向いてすぐ、振り下ろされる何者かの刃と、横から伸びたシブガキさんの剣先とが交差して、目前で止まっていた。

 路地の前方には門が見えている。


「わっ、わわ!」


 驚いてとぼとぼと後ろに退避した。おぼつく足で踏ん張り、なんとかつまずかず体勢を留めた。


「ただの老人ではないな。お前、老師か?」


 全身を頭まで黒い布で覆った忍者みたいな奴がそう言った。手には見た目とマッチした鎖鎌、もう片方の手には剣があり、日本刀のような形状をしている。


「もう町に辿りついておったとは」


 忍者の鎖鎌と刀の刃が赤く濡れているのが見えた。まっさきに3人の顔が浮かんだ。思わず唾を飲んだ。自分の鼓動が速まっているのが分かる。

 ローブの内側に手を入れ、俺は杖を取り出していた。熊と対峙した時と同じ反射的な、ごく自然な行動だった。飛来人といっても人間だ、熊を倒せた俺なら……。

 忍者は俺を見て一秒か二秒して、「……それは、杖か?」布の隙間から見える二つの目を見開いた。


「ハリス殿、おそらく生徒はすでに町を出ておるでしょう。でなければこの者が驚く訳がありませぬ、初めてその杖を見たのです」


 この町に新世代型の杖を持っている人はいない。王都との関係が悪いからなのか、もしくは従来の杖にこだわりでもあるのか、誰も使っていない。持っているのは生徒だけだ。アレックス先生も従来の物を使っている。

 シブガキさんは視線で俺に落ち着くように言った。


「エルゴノイツも6年で進歩したということか」


 忍者がぼそぼそ呟いた。目が薄気味悪く光った。布で隠れて見えないけど、笑っているみたいだ。


「逃げることだけ考えてくだされ。この者は儂が相手をしますゆえ、どうかその子を王都に」


 シブガキさんの杖はひたすらに動いていた。剣を交えている間も、忍者と向かい合っている間もだ。止める気配がない。林道からここまで来るのに30分はかかってる。速記術でこれだけ時間がかかるなんて、一体どんな魔法なんだ。


「ハリス殿、門へ!」


 剣を振り下ろす忍者。シブガキさんは腹と背を横に向けながら剣をかわし、相手の懐に入り、肘を忍者の顎に向かって突き上げた。しなやかだった。蜂のような動きだった。防ぐばかりでなく、動きは攻撃に繋がっている。

 シブガキさんは一体何者なんだ。ただの特許庁の人じゃない、明らかに戦い慣れてる。

 いける、これなら勝てる。


「――僕とシブガキさんでやればっ!」


「おごるな!」


 怒号が飛んだ。まるで一線のように、頭を横切り走り去った。

 言葉も思い込みによる高揚感もピタッと止んだ。目の前では再び忍者と剣を交えるシブガキさんの姿があった。


「剣もろくに使えぬのでしょう。こ奴はまだ魔法すらみせていないのです。今のうちです。優先すべきものはあなたと、あなたの背に……」


 忍者が体勢を崩し動きに間が生まれるたび、空白を埋めるようにシブガキさんは杖を走らせ詠唱を続けた。それだけに留まらず口で朗読を始めた。つまり朗読と筆記を同時に行い、かつ組手も行っているということだ。剣も使えば杖を棒替わりに使い、体も使う。剣術、棒術、体術……。


 ――俺は走った。彼女をしっかりと背負って、町を駆けた。


 水を詠唱しても熊の時みたいに使える保証はない。現すまでには時間がかかる。それまで守ってもらうのか、シブガキさんは全部一人でやっていた。今は分かる、それが魔法使いなんだ。


 丘から砂浜を見ていた時、俺とシブガキさんとでは見えているものが違った。

 俺は過信してた。次世代の杖を生み出した俺には何でも見える、分かる。でも本当はあんなもの駄作でしかないし、それは俺が一番よく分かってたはずだ。でも世間は称えたから……図に乗っていた。

 何も分かってなかった。

 魔法は一撃必殺の、使えば何もかも解決するようなそんなものじゃない。手段に過ぎないんだ。一秒以下で生死を競っている時に使うなんてあり得ない……今じゃ笑える。そりゃ剣で対応した方が早いよな。辺境伯は手詰まっていた訳じゃなく、戦っていた、、、、、んだ。兵士もみんなそうだ。

 戦いにルールはない。魔法使いの連携は絶対じゃなく容易に変化する。だから魔法使いは守られるだけであってはいけないし、戦地に立つなら相応の戦闘手段は身に着けないといけない。魔法だけじゃないんだ。

 シブガキさんや、辺境伯や兵士たちが見せてくれたもの。あれが戦うってことなんだろう。

 中途半端な知識だけで知ったかぶりをしてた。先入観で目が曇ってた。

 みんな魔法を活かすために考えてたんだ。その歴史が王都にはある。


「……シブガキさん」


 門の前で立ち止まり、振り返った。大きな氷柱つららが、忍者の腹を貫いていた。


 門を出ると、傍に一台だけ、まだ出発していない馬車があった。

 小窓から誰かの横顔が見えている。ダンだ。すると俺に気付いて、順に中から下りてきた。


「ハリス、無事だったか!」


 怪我もなく、健康そうなヨハネス。その後ろには同じくフィオナとダンの姿があった。

 馬車の中からアレックス先生が手を振っている。早く馬車に乗りなさいと言った。

 フィオナが背中の脳様に気付いて、難しい顔をして、


「ハリス……その女の子は誰?」


「説明はあとだ。とりあえず彼女を馬車に」


 町民だと思っているんだろう、でも今はその方がいいかもしれない。


「――ハリス殿」


 声が聞こえた。振り返ると、門の中からシブガキさんが手を振っていた。

 脳様を3人に預け、俺は門まで走った。


「シブガキさん」


 シブガキさんはもう筆記もしておらず、穏やかな表情だった。


「あの忍者を貫いたのって、もしかしてシブガキさんの魔法ですか?」


「いかにも。しかしそんなことはもう良いのです。魔法の不自由さがお分かりになったことでしょう」


「でもシブガキさんは、それをカバーできるだけ剣術や体術を……」


「それがまた限界なのです」


「限界?」


「誰もが儂のようになるのです。そしてこの儂の姿もまた、過去の賢人たちを真似たものに過ぎない。詠唱という難点を解決すべく、人間はこれまで数々を考えてきました。肉の壁を周囲に配置するだけの者もおれば、儂のように自身を強化し補う者もおります。しかし誰も、杖や魔法といった根本は疑わない。思うのです、儂らはこれから育まれる時代の、初期を生きておっただけなのだと……この先へ導くのはあなたです、ハリス殿」


「……導くだなんて、そんな。俺は、ただ魔光石を熔かしただけで」


「はい、それ自体は確かに些細な事。いずれ誰かが見つけたでしょう。ただし見つけたのはあなたであり、それは偶然でなく、意図したものであったはずです。思いがけず石は熔けたのですかな?」


 俺が否定するとシブガキさんは言った。


「それが必要だったのです。だからこそ、儂も息子も、あなたにあの子を託すことができっ――」


 ――シブガキさんの視線が、急に俺から宙へずれた。

 口からどばっと血が溢れ、目の前で膝から崩れ落ちた。まるでそこに見えない壁でもあるかのように、シブガキさんのぐったりとした体がもたれかかっている。


「やってくれたな、まったく」


 シブガキさんの背後に、はかまを着た男が立っていた。黒髪で、手に途中で折れた刀を持っている。まるで侍だ。血の滴る刀を見て、「これじゃあ無駄骨じゃないかー」と呑気を装っている。


「誰だよ……お前……」


「ん?」侍の目が俺を見下ろし「坊や、できればこの障壁を解いてほしいんだが。って、子供に言っても仕方ないよなー、くそ……」冗談交じりに話しかけてきた。


「ハリス殿……」


 シブガキさんが、背中越しに読んだ。かすれた声で。


「儂らの死など、大いに無駄にしなされ」


「……」


「受けた恩など忘れるのです、それが健康的な精神というもの。あなたの歩む道筋に、儂らは不必要。大いに思考し、悩み、常識に背き、見えるものに忠実に……」


 声が途切れて、聞こえなくなった。シブガキさんは死んだのだと分かった。


 見えない壁の向こうに、すかした笑みの侍が立っている。足元の俺たちに見向きもせず、門の先を見つめている。ぼそぼそと何か愚痴をこぼして。


「なんだ、いるじゃないか大人が」


 不意に、背後にアレックス先生の姿を見つけた。


「馬車に乗りなさい、ハリスくん」


 視線は侍を見ている。感情の見えない目。


「先生……シブガキさんが……」


「分かっています。ですがどうしようもありません。私はおろか、もう誰にも、この壁をこえることはできないのですから」


「なあ、あんた。この壁をどうにかしてくれないか、この爺さんを助けてやるからさー」


「ご老人はすでに亡くなられています。必要ありません」


 侍は思わず絶句して「言うねー、ひどい物言いだ」


「さあ、馬車へ」


 頭が真っ白だった。アレックス先生に腕を引かれ、一歩一歩その場を離れる。シブガキさんを置き去りにする罪悪感。無力感。敵前逃亡。


「行っちゃう訳ね。そうですか、無視ですか。たくっ……」


 侍の小言が聞こえる。俺は立ち止まった。先生が「ハリスくん」と優しく腕を引く。

 体半分ほど振り返り、


「お前、日本人か?」


 俺は侍にそう訊ね、


「……ああ。分かるのか、坊主。エルゴノイツ人は、俺たちを飛来人としか呼ばないと思ってたが」


 言った。


「俺も日本人だ」


「……は?」


 それだけを伝え、馬車に乗った。



 〇



 キングズヘッドを離れ数日過ぎた。王都まであと半分ほどという時、馬車の列とすれ違った。

 方向からして王都からだろうか、青い色の立派な様式が何台も通り過ぎていく。


「魔術師評議会?」


 窓から顔を出し、ヨハネスが言った。どうやら側面に描かれた紋様がそうらしい。それから青は、エルゴノイツにおいて評議会を表すのだそうだ。

 あれらに評議員が乗っているのだろうか。どうでも良かった。壁は越えられない。それにもうシブガキさんは死んだ。今さら行って、一体何になるっていうんだ……。


 誰かにそっと、手を握られた。


「……」


 脳様だった。心配そうに、俺を見ている。


「ハリス……」


「……大丈夫」


 やらなければいけない。俺にしかできないんだ。

 シブガキさん。俺は、見えるものに忠実に――。


 少し、涙が出た。

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