第46話 初めての連携

 まずはアストさんの速攻を警戒して、斬影ディヴァイドで牽制する。しかしそれは読まれていたらしく、アストさんはフローターを使わずに彼女も斬影ディヴァイドを刃で受け、タイミングをずらしてから距離を詰めてきた。

 それでもそのスピードは抑えめで、俺の斬影ディヴァイドを警戒しているらしく、剣は中段に構えたままだ。


 ミアはその間に、相変わらず“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の展開を進める。

 一対一ならば、降り注ぐ星々をかわしきるのはアストさんにとって訳ないんだろう。だけど、俺と剣を合わせながらでは、いくら彼女と言えど対処は簡単ではないはず。


 アストさんの進路を塞ぐように、足捌きで牽制する。彼女も俺を振り切りたいのだろうが、こうも至近距離で正面を抑えられては、なかなか始動できないようだ。

 アストさんの高速軌道は吊針スティンガーとの合わせ技で、目で追えないほどの速さを出せる。しかし俺はスタートから彼女をずっと見ていたが、吊針スティンガーを撒いたような様子はない。フローターだけでは初速の速いアストさんの場合、正面の俺をかわして抜き去っていくような制御は難しいと聞く。


 渋々俺と剣を交えて隙を作ろうとしてくるが、俺もそう簡単に彼女の手には乗らない。剣を合わせることなく、紙一重の回避を重ねながら、彼女の正面は譲らない。


「結構しつこいね、クロ。そんなにわたしと向かい合っていたいの?」


「ええ。俺の前からいなくならないでくださいよ?」


 するとそこへ、光弾が二、三発飛んでくる。ミアの方も準備が整ったらしい。

 その光弾を避けようと、アストさんが一歩下がる。それを皮切りに、ミアは連続で光弾を放ち、アストさんを強襲し始めた。

 凌ぐだけじゃない。あわよくば落とそうとしている。本当に好戦的だな、ミアは。なら、俺もそれに乗っからせてもらおう。


 フローターを駆使した足捌きで星の一つひとつをかわしながら、次第に俺と距離を取っていくアストさん。距離を取られると、一気に大回りでミアの元へ突っ込まれる可能性がある。距離は取らせない。


 満を持して自在砲バリアブルアサルトを取り出し、まずは吊針スティンガーをばら撒いた。アストさんの両脇を襲うように追尾弾ホーミングを撃ち、自在砲バリアブルアサルトを一度仕舞い込んで、吊針スティンガーを使って一気に間合いを詰める。

 俺の狙いに気付いてくれたのか、ミアは正面の道を開けるように光弾の軌道を変え、俺の追尾弾ホーミングを後押しするように、同じようにアストさんの両脇を封じ込めた。


 その場に留まれば、追尾弾ホーミングと“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の餌食。前に突っ込めば、肉薄する俺の剣が捉える。他に考えられる可能性は……後退か。なら、ここは……これでどうだ!


 突っ込んでいった俺は不意にぐっと立ち止まり、構えた剣を素早く袈裟に振り下ろした。その刃はアストさんのいる位置よりも奥まで届くように、大きな半円を描いて伸びる。


 完全にアストさんの逃げ場を封じたはずだった。しかしアストさんはそんな俺の浅はかな計略を嘲笑うように、ただ一つ失念していたその可能性を使ってきた。

 情操ホロウを纏って俺の斬影ディヴァイドを強引に破り、そのままフローターで突っ込んできたのだ。真っ直ぐ突っ込んでくるなら、それはそれで、その軌道上に攻撃を放てばいいだけだ。


 いや、アストさんのことだ。そんな単純なわけない。しっかり見ていたつもりだったが、既に吊針スティンガーを設置されているかもしれない。だとしたら、急に軌道を変えるかもしれない。


 そんな一瞬の迷いを突かれて、アストさんは真っ直ぐに、俺の懐に沈み込んだ。

 正面だったか……。これ、まずい。そう直感した時には、既に遅かった。アストさんの剣は俺の心素エモの核を貫いていた。


「よく粘ったね。上出来だよ」


 気を失う前に、耳元でそんなことを囁かれる。せめてもう少し、時間を稼ぎたい。俺は意識が落ちていく中で、精一杯の悪あがきとして、彼女の身体にしがみつく。

 俺が落ちたら、ミアの方へ行かれてしまう。それを少しでも邪魔しなければ。


 それを最後に、俺の意識は完全に落ちた――。



 目を覚ますと、俺は近くの木の幹を背に寝かされていた。隣には、ミアも眠っている。ささやかな抵抗もむなしく、彼女もやられてしまったらしい。


 俺が目を覚ましたのに気付いたらしく、アストさんがこっちへやってきて、俺の前にしゃがみこんだ。


「結構頑張ったね。七分二十九秒。わたしの予想より上だったよ」


 そうか……そんなに経っていたのか。高速戦で七分足止めできたなら、上出来と言ってもいいのではないか。相手がアストさんなら尚更だ。


「そんなに持ち堪えられたんですのね……」


 隣のミアも気が付いたようで、ゆっくり起き上がる。


「まず、今回ダメだったところから挙げていくね」


 早速、アストさんに今回の模擬戦の講評をいただく。いきなりダメ出しとは、アストさんらしい。


「クロは今回 自在砲バリアブルアサルトを使ったけど、はっきり言って、まるで意味がなかったね。あれは、ミアがサポートしてあげるところだよ。あの程度で使うだけなのに武器を出し入れしてたら隙になるし。まあ、今回は最初だから。ミアとのコンビネーションがまだできていないのはわかっているつもり。ただ、今後の改善点って感じだね」


「相手の後衛を抑えながら、前衛のサポートとして牽制をする。結構ミアの負担って大きくないですか?」


「でも、ミアならできるでしょう?」


「は、はい!」


 アストさんにそう言われたら、ミアはできるとしか言えないだろう。いや、アストさんとしては、できなくても、できるようになってほしいということだろうか。


「あと、吊針スティンガーについてはもう少し工夫した方がいいね。参考までに、わたしはフローターをちょっといじって、一定の時間間隔で踵から落とすようにしてるの。だから歩くだけでそこに撒けるって感じ。それ以外に撒いたりもするけどね。でも最低限はそれでカバーしてる」


 なるほど。撒く素振りも見せずに吊針スティンガーを使っているのは、そういうわけだったのか。俺もどうにか工夫ができたらいいんだけど。


「結局のところ、クロとミアとのコンビネーションだね。“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”は今でも充分強力だし、抑止力としても強く働くと思う。でもそれは、精々三回戦くらいまでの話。それ以上に行くつもりなら、その良さをもっと引き出さなきゃ。それにはミアの頑張りはもちろんだけど、前衛のクロと呼吸を合わせることも大事だよ。今日の模擬戦で、お互いがどう考えて動いていたか、まずは共有してごらん」


 アストさんに言われ、ミアは一歩近づいて俺の隣にやってきた。まずはミアの方から話してくれるらしい。


「“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を展開させた後は、クロードさんがお姉様を足止めしている間に、あわよくばお姉様に攻撃が当てられたら、と思っていました。クロードさんが追尾弾ホーミングを撃ったのを見て、ミアもそれに続いてお姉様の退路を妨害してみました。追尾弾ホーミングで追い込むのは戦法としてもよくあるものですし、セオリーだと思いまして」


「なるほど。俺はミアの“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”でアストさんが下がったから、フローターで抜かれると思って、アストさんを正面から外さないように左右を塞ごうとしたんだ。大きく脇に進路を取られてフローターで突っ込まれたら止められない。アストさんに限らず、フローター持ちとなら正面を外さないことは大前提だと思う」


「そうだったんですね。なら、ミアの軌道をこうしたらどうですか?」


 そう言いながら、どこからか木の棒を拾ってきて、地面に図を描き始めるミア。俺たちの会話はいつの間にか、自然と作戦会議になっていた。これもアストさんの狙いだったのかもしれない。

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