第44話 “星降る鉱脈”

 アストさんがミアと背中合わせに立って、お互いに真っ直ぐ十一歩ずつ歩く。向かい合ったところで、二人とも準備ができた旨を伝えるように、俺に大きく手を振ってくれた。これから二人は戦うというのに、その仕草がどことなく可愛らしいなどと思ってしまう。


 俺は銃を取り出して、合図の空砲を撃った。


 宣言通り、アストさんはミアの“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の下準備が整うまでその場を動かなかった。ミアはいつも通り、両手に持った自在砲バリアブルアサルトを乱射して無数の光弾を浮かび上がらせ、操る。


 こうしてぼんやり見ていると、自在砲バリアブルアサルトから撃ち出してはいるが、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”は本質的には情操ホロウの応用なんだということに気付いた。自分の手から離れても、その一端を操ることができるのは相当な技術と言っていいだろう。

 もしかしたら俺の星を喰らう者アステル・イーターを破った絡繰りも、傍から見ていたらわかるかもしれない。俺は目を凝らして、二人の戦いを見守ることにした。


「いきますわよ、お姉様!」


 ミアがそう宣言すると、いくつかの星々が流れ落ちてくる。それを避けようとするアストさんを追尾するように軌道を変えるが、彼女は浮走靴エアフローターの速さで翻弄して、互いをぶつけて相殺させた。

 アンジェリカさんの強襲散弾ホーミング・シャワーの時と対処が同じだ。ホーミング攻撃に対しては、たしかにこれが最善手ではあるように思う。だが、ミアだってこれで終わるわけがない。


 飛び回る星々は、俺との戦いで見せた“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の第二形態に移る。星々はミアの頭上を中心に公転し始め、彼女の頭上には一気に集められた光弾によって強力な力場が形成されているに違いない。とは言え、アストさんは元々近接型のアタッカーなので、力場の影響はほとんどないだろうが。


「これ、わたしもまだ仕組みがわかってないんだよね。存分に見せてよ」


「ええ、たっぷりご覧くださいな。お姉様相手だって、容赦はしないのがミアですのよっ!」


 “星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”から一つ、星が落とされる。先ほどまでとは速さも威力も段違いだ。瞬きする隙も与えないほどの速度でアストさんに一直線に迫る。


 対するアストさんは、剣を構えて受けるつもりだ。タイミングよく振り抜いて光弾を切り裂こうとしたが、タイミングが合わずに光弾の直撃を受けてしまった。

 いや、タイミングが合わなかったというより、間に合わなかったように見えた。あのアストさんが、着弾のタイミングを計り違えるなんてはずがない。よく見ると、アストさんは着弾の直前に情操ホロウを纏って、直撃のダメージは最小限に抑えたようだ。


 まだタネを見破られていないとみて、ミアは畳みかけるように横殴りの流星雨を浴びせる。

 アストさんのスピードをもってすれば、この光弾一つひとつを振り切ることはできそうな気がする。だが、それにしても数が多い。範囲が広すぎる。一つを避けても、その避けた先にすぐに光弾が襲い掛かる。この攻撃をやり過ごすなら、避けるよりも情操ホロウで受ける方が賢明だろうか。


 しかしアストさんはその場を動かずに、自分の目の前に来た弾だけに狙いを定めて剣で切り裂いていた。もうタイミングを修正して合わせられるようになっている。さすがはアストさんだ。


 俺の時とは違い、ミアは“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”のすべてを使いきらずに、半分ほどを残して流星雨を止めた。


「なら……これはどうですのっ!」


 そしてもう一発、光弾を撃ち込む。今までよりももう一段、重く、速い。

 気付けば、アストさんは後方へ吹っ飛ばされ、背中から近くの木に激突していた。情操ホロウを纏っていたようなのに、あれだけの衝撃を受けるなんて。

 一体どんな絡繰りで、これだけの威力とスピードを実現しているんだ。本来ならこの威力を出すにはそれなりの溜めが必要なはず。一発一発の大きさを変えているのか? いや、見た目上にそんな違いは見られないし、最初に撃ち出した時も、小さな粒を素早く撃ち出していた。


 それに、速さの方もアストさんの最高速に近い弾速。通常、威力と弾速は反比例している。威力を上げるなら、弾速は落ちてしまう。ただこれは、角度をつけることで解消しているんじゃないかと推測している。撃ち出すだけではなく、落下の勢いも重ねることで加速を補正しているんじゃないか、と。

 しかしそうだとしても、あの速さは異常だ。それだけで、あの速さになるはずがない。


「もう充分楽しめたし、そろそろ終わりにしようか、ミア」


 アストさんは、何事もなかったかのように立ち上がって、服についた土埃を払っている。


「まさかお姉様、お気づきになったんですの……?」


「さあ? 確かめてごらん」


 そう不敵に言い放ったアストさんは、ふっと姿を消した。と思いきやすぐに、ミアと腕一本隔てるほどの距離に姿を現した。相変わらず彼女も速い。肉眼ではその姿を追うことは叶わない。


「この距離なら、自分には当たらないでしょ? 撃ってきてごらんよ。さっきと同じスピードで」


 そう挑発されても、ミアは撃つ気配はない。距離を縮めると撃てなくなるのは、自分に当たるのを恐れて、というわけではなく、別の理由があるのか。


「……ミアの、負けです」


「よろしい」


 アストさんがミアの頭にぽんと手を置くと、腰が抜けたように、ミアはその場にへたり込んだ。そんな二人の元へ、俺は駆け寄っていく。


「クロは今の仕掛け、わかった?」」


「お恥ずかしながら、全然わかりませんでした」


「一発に見えるけど、実は一発じゃない。そうでしょ? ミア」


「お見事ですわ、お姉様。仰る通りです」


 一発に見えるけど、実は一発じゃない。その一言で、俺はすべてに合点がいった。


「先に撃ち出した弾に、後からもう一発、また一発と弾を次々にぶつけていたのか。ぶつかった時に、その衝撃で弾は加速し、後ろの弾は前の弾に吸収されて、エネルギー量が増す、つまり威力が上がる」


「それだけじゃありませんの。複数の弾を同じ軌道で同時射出すると、小さな力場が生まれるんですの。その効果で、後ろの弾には推進力が加わりますの。お姉様が最初にタイミングを計り損ねなさったのは、加速のタイミングが弾がぶつかった際に起きるために、初速と中間の速度、そして着弾時の速度が一定の加速度にならないからですわ。ですがその特性上、距離を詰められると着弾までに充分な加速ができないんですの」


 弾をぶつける、つまり加速のタイミングも任意で制御可能ってことか。なら、途中までは平均的な速度で、手前で一気に加速させるということも可能、ということだ。考えるだけで恐ろしい。

 しかしその一方で、最後にアストさんがやったように距離を詰められると、普通の一撃と変わらない程度のスピードと威力で、遅れて何発かがついてくる連撃にしかならない。速さで翻弄するという意味で、効力を発揮できなくなるというデメリットもあるのか。


「わたしも元々その可能性は感じてた。流星雨に簡単に合わせられたのは、ミアの制御能力の問題だね。あれだけの数を、さすがにいちいち加速のタイミングをずらして、というのはできなかったみたいだから、単純な加速になってた分、合わせやすかった。そして最後の一番速い一撃。撃ち出された後に残りの弾数を数えたら、その前と明らかに多く減ってたから、それで確信したよ」


「お姉様には敵いませんわね……」


 アストさんを敵に回して勝てる気がしないな。彼女のこの分析力と修正力をもってしても届かないアンジェリカさんは、一体どれほど強いのだろう。以前の彼女とは比べ物にならないほど強くなってしまっているのだろうな。


「さて、それじゃあ二人とも、今日のことを踏まえて週明けまでに作戦を考えておきなよ。今日はわたしはこれで帰るから、後は二人でゆっくり相談するといいよ」


「はい、ありがとうございました」


「お付き合いくださって、ありがとうございました」


 立ち去るアストさんの背を見送って、残された俺とミアは、早速作戦を練ることにした。


「“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の弱点から考えても、俺がどうにか相手をミアに近づけさせないようにするしかないな。ミアは後方から援護射撃を頼めるか?」


「どうして貴方が仕切っているんですの? むしろ貴方がサポートですのよ。後方射撃が必ずしもサポートではありませんの。決め手で言えば、ミアの方が優秀なんですのよ」


 たしかにそれはもっともだった。ミアも自分を立ててほしいから、というだけではなさそうだ。今の俺にアタッカーとして相手を落とせるほどの決め手はない。だとすれば、ミアがいかに相手を落とせるか。そうしやすい状況を作るために、俺がサポートとして立ち回るのが最善かもしれない。


「わかった。ごめん。たしかに決定力はミアの方があると思う。だから俺は、ミアのサポートに徹するよ」


「いやに素直ですわね。まあ、落とせるなら落としてもらった方が、ミアとしても助かりますけれど。一番はやっぱり、近接型アタッカーの足止めをお願いしたいですわ」


 今回はとりあえずアストさん一人だけ。本番では、さらにもう一人を相手にしなければならない。さすがにアストさんほどのアタッカーが他に出るとも思えないから、アストさんを食い止められれば、大抵のアタッカーを抑え込むことはできるだろう。

 だからまずは、このコンボを成功させることに注力しよう。


 俺たちはもう少し詳細な作戦を話し合って、週明けを迎えることにした。

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