第35話 新星杯準々決勝 VS シャルロッテ

 ◆◇



 俺の試合は第三試合。その前に、Aブロックのクルトとハリエットの試合、Bブロックのルーツィアとグレーテの試合がある。


 Aブロックの試合はもう終わり、クルトは敗北し、対するハリエットが勝った。これで、準決勝への勝ち上がり第一号はハリエットに決まった。


 一方 Bブロックの試合は、今まさに行われている最中。この試合が終わったら、十分の休憩を挟んで俺の試合が始まる。



 控室に備え付けられたモニターで試合の様子は見ることができる。

 お互いに得意な近距離クロスレンジで剣を交え、グレーテの方が押されている。恐らく、長くは保たないだろう。相変わらず、ルーツィアには隙がない。浮走靴エアフローターの使い方も上手いのだと思う。まるでアストさんみたいだ。


 いや、次の相手に集中しよう。


 シャルロッテは情操ホロウの使い手。名家アイゼンシュタインの分家筋であるローゼンハイムの長子。技術や情操ホロウに対する知識は、同年代では並ぶ者がないほどだ。だからこそ、彼女を打ち倒すことには価値がある。


 彼女に勝てたなら、同じ情操ホロウ使いのフラン先輩、そしてアイゼンシュタインの現当主、アリーセさんにも手が届くかもしれない。

 そういう意味でも、この試合は俺にとって大きな試金石になるはずだ。同日に準決勝があるからといって、力を温存なんて真似はしない。まずはこの一戦を勝たなくてはいけないんだから。


 やがて、Bブロックの準々決勝の決着がついた。やはり一番人気は伊達じゃない。三年生首席、ルーツィアの勝利だった。


 それを受けて、俺もそろそろ準備をと、早めにゲートに向かう。

 この八日目に辿り着くと、どうにも気持ちが高ぶってくる。六十四人から勝ち残った八人だけがたどり着ける舞台。真の猛者だけが集う、激戦の一日。その一人になれることが、どれだけ誇らしいことか。


 さて、そろそろ入場だ。


『エントリーナンバー36、雪花スノウリリィ寮所属の三年生、シャルロッテ・フォン・ローゼンハイム! ここまで圧倒的な実力差を見せつけ、戦績指数は全体三位! 午後の準決勝へ駒を進められるか!』


 そんな期待充分なアナウンスを受けて、シャルロッテが入場してくる。ミアと同い年か。こっちもミアと同じく的が小さい。だが彼女のことだから、ミアと違って自分の背の低さをも利用してくるだろう。余計に厄介だ。


『エントリーナンバー46、青雲寮所属の三年生、クロード・フォートリエ! 苦戦が続き、戦績指数は七位! それでも着実に勝利を重ねる堅実さで、格下相手に勝利なるか!』


 俺の紹介アナウンスも流れ、競技場に足を踏み入れる。苦戦が続いているせいで、戦績指数は随分低いな。まあ、指数なんてどうでもいい。ここにあるのは勝ちか負けだけだ。

 フィールドも、もう随分と荒れている。一昨日見た時よりも、また一段と荒れ果てた様子だ。地面は抉れているどころか、いくつか大きな穴が開いてしまっている。


「悪いけど、手加減してやるつもりはないからな、お嬢さん」


「バカにするな。徹底的に負かして、その減らず口を二度と叩けないようにしてやる」


 そう意気込んでいる目の前の金髪の少女——シャルロッテは、くるくると巻かれたハーフツインを揺らしながら、びしっと指を突きつけてきた。小柄な彼女がやるとどうしても可愛らしく見えてしまうが、侮らないようにしたい。


 試合開始のブザーが鳴ると同時に、シャルロッテは情操ホロウを展開する。俺もわずかに遅れて空砲を放ち、吊針スティンガーを撒く。これでお互い、攻めの下準備はできた。


 先に仕掛けたのはシャルロッテ。情操ホロウで地面を蹴るようにして、勢いよく距離を詰めてくる。

 情操ホロウは使用者を中心にエネルギーを放射する。要は、外向きのエネルギーしか扱えない。だから自分の身体を押すなんて都合のいいことはできず、フローターの代わりにはならない。それを、地面に向けてエネルギーを放出することで解決したのだ。


 いや、それよりも。遠距離ロングレンジでの戦いを得意としていたはずの彼女が、まさか距離を詰めてくるなんて。

 どこまで距離を詰めてくるのかと思っていたら、彼女は俺の懐にまで迫ってきた。情操ホロウで形作った触手のようなもので殴打してくる。その一撃一撃をかわしつつ、俺は自在剣ネオブレード心素エモを流し込んで、その刃で受ける。


「驚いたでしょ。接近戦に持ち込まれるなんて」


「勝算があってのことなんだよな?」


「もちろん!」


 情操ホロウ使いは近接戦をしたがらない。それもそのはず、情操ホロウの弱点は、触れられることだからだ。とはいえ、的の小さいシャルロッテに触れるというのは、簡単なことじゃない。触れられさえしなければ、至近距離で情操ホロウの重い一撃や手数の多さを捌き切るのは難しい。接近戦でも勝機はある、ということか。


 情操ホロウの触手を掻い潜りながら剣撃を入れても、彼女の纏う情操ホロウを裂くには至らない。攻守ともに完璧か。

 なら、情操ホロウ使いへの嫌がらせを徹底的にやるしかない。


 俺は剣を納め、回避に専念しながら、隙を見ては一発、また一発と撃ち出す。シャルロッテは狙わない。吊針スティンガーへ向けて、吸温弾アイスバレットを撃つ。

 吊針スティンガーは元々位置を固定するためのもの。吸温弾アイスバレットを空中に固定することで、空気を冷やし、低温空間を作り出すことができる。


 さらには地面に向けて炸裂弾クラッシャーを放ち、シャルロッテへ土砂を思い切り浴びせた。彼女の白い肌や美しい金髪は土まみれになり、冷やされて霜が降りていた土は、彼女の体温で溶けて泥になる。


 そして止めに共鳴砲レゾナンサーを仕掛け、競技場内に飛び込んでくる歓声を何倍にも響かせて、聴覚にも負担を与えた。


 ただでさえ足場が悪く、意識を割かなければいけないのに、これで一層ストレスが溜まったことだろう。


 情操ホロウの制御とは、すなわち感情のコントロール。度重なる心の揺れで、彼女の完璧な制御には綻びが生じているはずだ。本当は、ここまでやるのはフラン先輩相手にだけにしようと思っていたが、やむを得ない。


 今なら、彼女の身に纏う情操ホロウを貫いて止めを刺せる。

 俺の撃ち出した弾丸は、柔くなった情操ホロウをいとも簡単に貫き、シャルロッテに命中した。最後に抵抗するように振り回した情操ホロウの触手は、銃弾に掠りもせずに、彼女の意識と共にすうっと霧のように消えていった。


 俺の勝ちだ。

 遠距離ロングレンジで戦われたら長引いただろうが、接近戦に持ち込んでくれたことで、早々に決着をつけることができた。期せずして、準決勝へ余力を残すことができた。


 俺が生粋の砲手シューター剣聖ブレイドなら、彼女の戦術にもたしかに勝機はあっただろう。だが、そもそも遊撃手トリックスター情操ホロウは相性が悪い。そのうえで、自分の不得意な近距離クロスレンジでの戦いに持ち込んだというのは、彼女にとって悪手だった。いや、面白い試みではあったのだろう。相手が俺でなければ充分に奇襲としての効果を発揮したはずだ。



 医務室で軽くかすり傷の手当てを受けた俺は、レイの試合を待たずして、競技場の外に出た。


 Dブロックの試合が終わったら休憩時間になる。そうしたら、競技場に詰め掛けていた大勢の人が、外の飲食施設に雪崩れ込んでくる。ゆっくり休むなら、今のうちだ。


 同じことを考えている人はそれなりにいるようで、既に外の屋台には順番待ちが発生し始めていた。適当に何か買って、寮に戻って食べようか。


 そう考えていたところに、彼女たちと出会った。向こうもこちらに気付き、小さく手を振りながら、こちらへやってくる。連れの少女は少し嫌そうな顔をしたが、彼女が宥めるように取りなした。


「クロ、お疲れ様。お昼、一緒にどう?」


「せっかくお姉様と二人っきりでしたのに……」


 アストさんと、恨みがましく俺を睨むのはミアだった。邪魔をしてしまっただろうか。


「ミア、それじゃあクロが断っちゃうでしょ? 気にしないでね、クロ。敗者の弁なんか聞く必要ないんだから」


 アストさんは無自覚に棘を刺してくることが割りとある。今のも、ミアにしてみれば少し傷ついたんじゃないだろうか。


「じゃあ、ご一緒していいですか?」


「もちろん」


 アストさんの言葉とは対照的に、ミアは変わらず不機嫌そうな様子だった。

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