第34話 シャルロッテ・フォン・ローゼンハイム

 ◆◇ ― シャルロッテ・フォン・ローゼンハイム ―



『エントリーナンバー36、雪花スノウリリィ寮所属の三年生、シャルロッテ・フォン・ローゼンハイム! 十一歳ながら二年間強敵に揉まれ、今、前期の集大成の舞台に立ちます!』


 元から騒々しかった競技場は、私の入場でより一層騒がしくなる。私の実力を評価して応援してくれている者は、この内の一体どれほどなのだろう。


 三年生なのに、まだ十一歳。その話題性だけで私を応援している者がどれだけいるか。

 勝てば相手が油断したんだと言われ、負けてもその歳なら充分やったと言われ。私はずっと、ちゃんと評価をしてもらえない。


 幼いから――それは何の言い訳にもならない。私はそれをわかっていて、この歳で入学したんだから。この歳でも通用すると思って入学したんだから。だから、ちゃんと私を見てほしい。

 そのためには、この煩い観衆を黙らせるほどの圧倒的な勝利、圧倒的な優勝が必要だ。


 正直、フロイデンベルクさんには勝てないかもしれない。たとえ私と彼女が同じ歳だったとしても、勝てるかはわからない。それだけの人だ。それでも最初から諦めたくない。フロイデンベルクさんみたいな人に勝てば、私も認められるはず。


 だからここは、絶対に落とせない。


『エントリナンバー39、雷閃ライトニング寮所属の二年生、ハーバート・フランツ・シュトックハウゼン! ここまで勝ち残った二年生の一人! 三年生を下して下剋上なるか!』


 相手は後輩だけど、年上の十五歳。私より随分背も高くて、力も強そうだ。力勝負になったらまず敵わない。いつも通り、距離を取って戦う。



 試合開始のブザーが鳴って、私は先手を取って情操ホロウを伸ばす。ぼんやりとした靄のようなものが私を覆い、そこから勢いよく、彼に襲い掛かるようにエネルギーの塊が向かっていく。矢のように、私の周りから分離した情操ホロウがエネルギー弾となって飛んでいった。


 力場だけが情操ホロウじゃない。情操ホロウの真髄は、エネルギー制御の自在性にある。


 横殴りの豪雨のようなエネルギー放射に、シュトックハウゼンは避けることなどできず、直撃は免れなかった。一、二回戦程度なら、これでも決着がつくことがあるが、さすがに三回戦。直撃していても、急所はしっかり守り、意識を保っている。


 でも悪いけど、反撃する暇も与えず終わらせるから。私が欲しいのは、圧倒的な勝利なんだから――!


 纏っている情操ホロウの力場から、エネルギーの束を伸ばす。いくつかをまとめて束ねるように、捻りながら、彼へ撃ち出す。右回りのネジのように、くるくるとした軌道で彼に向っていく、エネルギー光線。その中央を通すように、真っすぐのエネルギー光線を撃ち出した。


 束になった光線で力場が生まれ、その中心を通り抜ける真っすぐなエネルギーには、より一層の加速力が生まれる。速度はすなわち力になる。

 威力は私が射出したエネルギーのその何倍にもなって、シュトックハウゼンを殴打した。彼が受けきろうと差し出した片手剣の刃を粉砕し、一撃で彼の意識を奪う。


 彼が崩れるより早く意識消失フェインテッドがコールされ、私の勝ちが決まった。


 次はいよいよ、クロード・フォートリエ。彼には昨年まで負け越している。というより、ほとんど勝てたことはない。一年の頃は割と勝てていたのに、二年の頃は急に勝てなくなった。何か対策されたのだろう。だけど今年の私も、彼の対策を考えてきた。

 フロイデンベルクさんと当たる前の、第一の壁。彼を乗り越えて、私は準決勝に行く。



 試合を終えて、医務室で軽く検査を受ける。まあ一撃ももらわなかったし、異常があるわけはないが。


 すると不意に、後ろから肩を叩かれた。はっと振り返ると、そこには一年生首席が愛想の良い微笑みを浮かべて立っていた。


「ローゼンハイムさん、寮まで一緒に帰りませんか?」


 そういえば、彼女も同じ雪花スノウリリィ寮。そして二回も門限破りを働いたと聞いたが、まさか帰り道がわからないなどと言うわけじゃないだろうな。


「別に構わない。ついてきたければついてくればいい」


「もう~、一緒に帰りましょうよ。準々決勝進出者同士じゃないですか」


 彼女も勝ったんだったか。だけど、眼中にはない。フロイデンベルクさんと当たるなら、彼女は準決勝には進めない。もし、相手がAグループのモーリッツやスフィールあたりなら、準決勝行きもあっただろうが。

 レンフィールド相手にあれほど苦戦したんだ。二年首席のセルヴィレッジにも及ぶとは思えない。


 彼女が何かを話しかけてくるが、それには適当な相槌を返すだけで、私は寮への道を歩く。その横に、諦めも悪く話を振ってくるエッフェンベルクが並んでいた。


「ローゼンハイムさん、次はクロードさんとなんですよね? 勝てそうですか?」


 彼女のその問いだけはなぜか耳に引っかかって、少し言葉に詰まってから返す。


「勝てる。と言いたいところだけど……本当は、まだ勝ちたい・・・・で止まってる」


 勝つ、というのは気持ちだけで、それは勝ちたい、という願望でしかない。実際に、勝てると自信を持って言えるほど、私は自分を過信していない。


「クロードさん、強いですからね~。私も勝てると思ってたんですけど、負けちゃいましたし」


「あの模擬戦のこと?」


「はい! 私はわりと本気を出してたんですけどね。たぶん向こうは、本気じゃありませんでしたし」


 三回戦でクラルヴァインにも苦戦していたとはいえ、あれはほぼ完封と言っていい。彼女を相手に、何か新しい考えを試そうとしていた。そのうえで、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を無理矢理に変質させ、勝利した。もはや下級生では彼の相手にはならないのだろう。


 私の実力は、このエッフェンベルクやクラルヴァインよりは少し上。等級クラスの上ではそう評価されている。彼との実力も、あまり差がなく評価されているが、とてもそうは思えない。


「クロードさんは、根っからの策略家なんですよね、きっと」


 策略家、か。言い得て妙な感じだ。


「エッフェンベルクはもう一度フォートリエと戦ったら、勝てそう?」


「グレーテでいいですよ~。そうですね……二回目は、きっとこの前より早く負けるでしょうね。この前が本気じゃなかったというのを差し引いても、あの人とは、戦えば戦うほど勝率は下がりそうな気がします」


 彼と戦うとみんな同じことを考えるのだろうか。私も同じだ。彼と戦いながら勝率を下げないようにするには、どんどん自分の手数を増やさなければならなくなる。

 次の準々決勝でも、私は今回新しい手札を用意してきた。通用するかはわからない。それでもそうしなければ、間違いなく勝ち目はないとわかっていた。


「クラウゼヴィッツも、準々決勝、頑張りなよ。難しい相手だろうけど」


「グレーテでいいですって。捻くれてますね……。勝つのは難しそうですけど、負けたくはないですから。全力でぶつかるだけです!」


 そんな話をしていると、もう寮に着いてしまっていた。


「では、また明後日に。できれば、準決勝でお会いしましょう!」


「うん。それじゃあ、また」


 明後日、できることなら、観覧席ではなくフィールドで会いたいものだ。

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