第32話 新星杯三回戦 VS ミア 後編

「これだけあってもいつかは心素エモが切れる。そうなった時が、君の終わりだ」


 その言葉を聞いても、相変わらず気味の悪い薄笑いを浮かべて、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の一つひとつを俺に向けて突き落としてくる。その消費された分は、彼女の自在砲バリアブルアサルトからまた補充されて、常に一定数の星々が宙を舞っていた。これだけ莫大な心素エモを使う技だ。心素エモの消耗を待つという手もあるにはあるが。


「残念ですけれど、星は無数にありますの。いつかは終わるかもしれませんけれど、そのいつかまで、貴方は持ち堪えられるでしょうか?」


 彼女の言う通り、彼女の心素エモの量からして、それはあまり現実的ではない。だからこそ、このカウンタートラップが戦局を変えるのだ。名付けて、“星を喰らう者アステル・イーター”。


 俺がこれまで撒いてきた吊針スティンガーに一斉に感素を送り込むと、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の落墜は、途中からある一定の軌道に変わる。同じ場所目がけて、吸い込まれるように進んでいく。


 それを感覚的にも感じ取ったのか、ミアは笑みを落とし、落墜の制御を試みようとしていた。しかし上手くいかないようで、表情が苦々しく歪んでくる。様々な“なぜ”をい交ぜにしたようなその表情をさらに追い詰めるべく、俺は共鳴砲レゾナンサーを彼女の足元に撃ち込んだ。


 ヘザーは特殊な使い方をしたが、これは本来音響効果を高めたり、音を増幅した振動で掘削したりといった形で使われる。それを考えれば俺の使い方も正しくはないのだが、本来の使い方には近いだろう。

 共鳴砲レゾナンサーにより響く甲高い音が彼女の集中を阻害する。元々、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”はかなりの精度を必要とする技。それを星を喰らう者アステル・イーターで乱され、集中もさせてもらえないとなれば、彼女にかかるストレスは計り知れない。


 俺はすかさず快速弾ラピッドで強襲するが、彼女は“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を自分の元に集めて相殺させていた。盾の役割をさせる分には、星を喰らう者アステル・イーターの影響はほとんどないようだ。さすがに距離の問題はあるか。


 すると、これまで苦々しい表情を浮かべていたミアが、不意に笑みを見せる。


「どうやったのかは知りませんけれど……それ、心素エモの力場ですわね?」


 もう星を喰らう者アステル・イーターの仕組みに気付かれた。


 元々、情操ホロウから着想を得た技だった。情操ホロウは密度の高いエネルギーが常駐しているため、その周囲にも影響を与える力場が発生する。この力場は、射撃戦では軌道計算を狂わせるなど有効に働くことがある。これを吊針スティンガーで再現できないかと思ったのだ。


 吊針スティンガーを同心円状に配置して、一つの流れになるよう渦巻き状に感素を流す。そうすると、渦巻きの中心に引き込まれるような力場が生まれる。俺がこの力場の近くにいる限り、俺に向かってきた“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”は俺ではなく渦巻きの中心に引き込まれてしまう、という算段だった。


「それがわかったからって、どうにもできないだろう?」


 彼女の余裕な笑みを不穏に感じ、俺は焦って余裕のなさを態度に出してしまった。


「本当にそう思いますか? ミアが“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を攻略されないと思いこんでいると、本当にそう思いますか?」


 まさか、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”が破られる前提で戦術を考えてきているというのか? 今まで使用せずに敗北したことこそあったものの、発動さえすれば破られたことのなかった“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”が、破られると?


 虚勢を張っているだけではないか。そうであってほしい。そんな俺の思いを打ち砕くように、ミアは“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を再構成していく。


 これまで無造作に飛び回っていた星々が、彼女の頭上に集まっていく。一つひとつが融合されるわけでもなく、ある一点を中心として、公転するように回り出した。


「さあ、今度はどうです?」


 公転するうちの一つが、勢いよく撃ち出された。そう認識した瞬間には、その一撃は俺の顔面のすぐ横を通り過ぎていた。

 並みの快速弾ラピッドを優に超えるスピードだ。それに、どういうわけだか力場にも反応しない。速さで振り切ったのか? いや、そんな単純な仕組みにはなっていないはずだ。しかも恐らく、わざと外した。それだけの制御能力を、彼女は既に取り戻しているということだ。力任せな方法じゃない。


「……奥の手ってやつか?」


「驚いていただけました? これを見せるのは貴方が初めてなんですのよ。存分に堪能していってくださいましっ!」


 “星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を破って、簡単に終わるはずだった。“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を攻略するまでが大変なんだと思い込んでいた。


 決め技を持たない遊撃手トリックスターとしては、決め技の感覚がいまいちわからないが、決め技を封じられた際の奥の手も、考えておくのは当然と言えば当然だ。

 だがこれでは、苦し紛れの奥の手ではなくて、奥の手の方が本命じゃないか。むしろ“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を凌ぎながら戦っていた方が、まだ勝算があったようにすら思う。


「今度は当てますわよ。……ですが、簡単には終わらせませんわ」


 彼女の公言通り、今度は俺の右足首を貫いた。“定数接触”を狙いながら、じわじわと削っていくつもりか。真っ先に足を潰してくるあたり、警戒はしているようだ。

 さっきの一発よりはまだ見えたが、避けられるほどじゃない。彼女が力場を振り切って快速弾ラピッド以上のスピードを出しているのにも、恐らく何らかの絡繰りがあるはずだ。何とかこの試合中にそれがわかれば、防ぎようがあるかもしれないが、どうだろう。


 攻撃を受けているばかりでは本質は見抜けない。こちらからも反撃してみるか。


 とりあえず追尾弾ホーミングを撃ってみる。軌道が変わる弾にも対応できるのだろうか。しかし、そんなことを確認する間もなく、撃ち出してすぐに迎撃されてしまった。曲がる前に落とされてはどうしようもない。


「何か考えているみたいですわね。そうですわ、せっかく簡単には終わらせないんですから、ちゃんと楽しませてくださいな」


 まだまだ彼女から余裕の色は消えない。“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の別形態にはデメリットはないのだろうか。今まで使わなかったことに、何か意味があったりしないだろうか。


 足を潰された俺では、そうそう簡単に間を詰めることもできない。と、彼女も思っているだろう。吊針スティンガーを使って、近距離クロスレンジに持ち込んでやる。


 まずは空砲を放つフリをして、吊針スティンガーをばら撒く。彼女の元まで一直線に距離を詰める、と見せかけて、別の吊針スティンガーに軌道を変える。思った通り、彼女は距離を詰めようとする俺を狙って、“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”から流星を落としてきた。軌道を変えていなければ、直撃していた。


「なんですの、それ? やっぱりフローターとは違いますよねぇ……」


 アストさん曰く、吊針スティンガーは元々がインテリアや工事現場で物を吊る時に使うもので、こんな移動に使うようなものではない。だから、装備としての知名度は低く、仕掛けを暴かれにくいのだそうだ。

 実際、アストさんの高速移動も、フローターと吊針スティンガーの合わせ技だったりするのだが、表向きはフローターの性能ということになっているらしい。


 ミアも俺の不自然な軌道には違和感を覚えつつも、その正体には辿り着けていないようだった。


 俺は吊針スティンガーを駆使してミアの強襲を掻い潜り、ついに彼女の懐に入り込んだ。


 “星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を封じるもう一つの方法。それはミアとの距離を限りなく近づけること。近づかれれば近づかれるほど、不用意な射撃はミア自身に被弾する可能性も高くなる。


 ここまで距離を詰められたのは嬉しい誤算だ。ここで仕留める。

 ナイフに持ち替えて、一撃で仕留めようと彼女にぐっと肉薄する。足をやられている分、機動力はすべて吊針スティンガー頼りだ。しかしその方がかえって素早く動ける。


 これで終わりだと思ったその瞬間、追い詰められた彼女が見せた極悪な笑みに嫌な気配を感じて、俺は咄嗟に後ろへ引き下がる。


 その直後、俺がいたところに豪雨のように“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”から星々が降り注いでいた。俺が避けたとみるや、俺を追いかけて流星雨が迫ってくる。この勢い、全部使い切るつもりだ。上空に漂っていた星々はどんどん消費され、少なくなっていく。その分広範囲をカバーされ、避けきれない。


 豪雨が止んだ後、避けきれずに何発かを食らった俺は、力なく地面に倒れ伏していた。タッチカウンターは二つで済んだが、かろうじて意識を保っているような状態だ。一発でも直撃すればほとんど肉体が機能しなくなるような攻撃。直撃だけは何としてでも避けたものの、その分神経の摩耗が激しい。急所を避けただけで、もろに貫かれた箇所もある。


 だがミアもミアで、かなり疲弊している様子だった。ただでさえあれだけの数のエネルギー弾を制御するのはかなりの集中力を必要とする。それを一気に使い切ったんだ。消耗していない方がおかしい。


 今が好機。相手を仕留めるなら、今が絶好の狙い時。ミアも恐らくそう思っているだろうが、お互い思うように身体が動かない。


 しかし、むしろここを決めきれなければ、勝ちの目が遠くなってしまう。俺は持てる力を振り絞って、心素エモを纏わせたナイフを投げた。力なく、彼女に届く前に落ちてしまいそうだったナイフを、吊針スティンガーの軌道に乗せて、ミアまで真っ直ぐに飛ばす。

 彼女も、届かないのに俺が自棄になったのかと思ったらしく、気付いても避けようともしなかった。しかし、軌道が変わったのを見て、慌てたように銃を構えて撃ち落とそうとする。


 するとここで、予期せぬ誤算があった。ナイフに向けて撃ち込まれたはずの弾丸は、大きく逸れて、ある一点に向かっていったのだ。そう、星を喰らう者アステル・イーターに吸い込まれるように。


 そうか、さっきは“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”の第二形態だから星を喰らう者アステル・イーターを振り切れた。“星降る鉱脈アストラル・ヴェイン”を使い切った今、彼女の単発の攻撃は星を喰らう者アステル・イーターの引力を振り切れない。つまり、彼女の攻撃は、もう俺に当たらない。


 撃ち落とせなかったナイフは、勢いよく彼女に突き刺さった。ように見えたが、からん、と弾かれたようにその場に落ちる。間一髪、情操ホロウを纏って防いだらしい。まだ情操ホロウを纏えるだけの心素エモが残っているのか。あれだけの大技を放った後で。


「どうする? 今のお前じゃ俺に打つ手はないだろう。もう降参するか?」


 そうしてくれればどんなにありがたいか。俺としても、トドメを刺し切れるかどうかは怪しい。まだ情操ホロウを使えるとなると、粘られて俺の方が先に参ってしまう可能性も出てきた。

 好戦的な彼女が応じるとは思えないが、彼女に打つ手がないのも事実。さて、どう判断するか。


「……お姉様がご覧になっている前で、降参なんて、できるわけありませんのよっ!」


 そうか……アストさん、見に来てくれているのか。なら尚更、負けるわけにはいかない。彼女も同じ気持ちか。


 仕方ない。これはルーツィアと戦うまで取っておきたかったんだけど、使うしかないか。

 このフィールドにはいくつもの吊針スティンガーがばら撒かれている。今の俺とミアの範囲を充分にカバーできる量だ。これなら、フローターほどとはいかないが、スピードを補い、かつ変幻自在な移動が可能になる。


 俺は吊針スティンガーへ伸びている感素の糸を操り糸のようにして、自分の身体を動かす。全身の力は抜いて、引っ張られるままに身を任せる。スピードに乗ると、身体が振り回されて酔いそうになるが、これはまだ練習不足なせいだ。


 見た目にはやや不自然な動きで、滑るようにミアとの距離を詰める。吊られているような動きが不気味だったせいもあるだろうが、ミアは驚いて腰が引けてしまったようで、その場に尻餅をついてしまった。そのまま狙いの定まらない銃を乱射するが、銃弾はすべて星を喰らう者アステル・イーターの餌食になる。


 さっきミアに弾かれたナイフを吊針スティンガーで引っ張り上げて回収する。傍から見れば、ナイフがひとりでに俺の手に吸い込まれているようにも見えるだろう。


 さあ、今度こそトドメだ。拾い上げたナイフの切っ先を彼女の胸に突き立て、その刃を伸ばすように、心素エモの刃を作り出す。実刃ではなく心素エモによる“感覚攻撃メンタルブレイク”。彼女も最後のあがきに情操ホロウを纏ったが、心素エモを凝縮させた刃はそれすらも貫いた。


 バイタル監視システムがミアの意識消失フェインテッドを宣言し、決着がついた。この三回戦は、俺の勝ちだ。

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