第31話 新星杯三回戦 VS ミア 前編
◆◇ ― ミア・ロスヴィータ・クラルヴァイン ―
ようやく三回戦まで来ましたわ。ここを勝てば、次は準々決勝。まだ先は長いですけれど、着実に優勝に近づいていっていますわね。
それに、三回戦の相手はよりによって、あの男。絶対に負けられませんの――。
お姉様は、ずっとミアの憧れでした。小さい頃から本邸に伺うたびに、遊んでくださいました。優しくて、凛々しくて、強い。そんなお姉様みたいに、ミアもなりたいと思っていましたの。
学園に入学されたお姉様は、最初こそあまり調子が出ていらっしゃらなかったですけれど、年々序列をお上げになって、今では五年生の首席。来年には、名実ともにこの学園の頂点になるに違いありません。
ミアだって、今は二年生の次席。首席のアンナさんにはまだ敵いませんけれど、いずれは首席になって、お姉様みたいに
そう思っていた矢先に現れたのが、あの男……。
クロード・フォートリエ。彼はお姉様の弟子なのだといいます。お姉様は弟子をお作りにならないと公言していらっしゃったのに。彼のことは秘密だと、お姉様は仰っていました。そんな秘密の関係をお姉様と築くなんて、許せませんわ。……ミアのお姉様でしたのに。
あの男がお姉様の邪魔をするなら、お姉様の人生を汚すなら、ミアが絶対に許しません。
三回戦のミアの出番は第六試合。お昼を挟んで三試合目。まだ時間はありますし、少し屋台で小腹を満たそうと思っていた矢先のことでした。
「あ、ミア」
同じく屋台を物色なさっていらっしゃったお姉様と出会ってしまいましたの。
「お、お姉様!? あの、このあとミア……」
「試合でしょ? 見に来たよ」
お姉様に直接ご覧いただけるなんて。思わず舞い上がってしまいそうです。
……ですけれど、お姉様の本当の目的はきっと、ミアじゃなくて、弟子の方。
お姉様が学園にご入学なさってから、ミアとお姉様はあまりお会いすることもなければ、お話する機会もほとんどありません。お姉様だって
今になって、ミアの方をご覧になってくださるとは、とてもではないですけれど、思えませんでしたの。
「正直に言えば、どっちを応援したらいいかって感じではあるけど、どっちが勝ってもわたしは嬉しいから、少し贅沢な試合だなって思ってね。楽しみなんだ」
「……お姉様は、どちらが勝つとお思いになりますか?」
お姉様は建前を仰る方ではありません。ミアの前だとしても、はっきりしたことを仰ってくださるはずです。怖くて聞きたくありませんけれど、本当は聞きたくて仕方ありません。もしかしたら、ミアに期待してくださっているかもしれません。
そんな思いから、聞かずにはいられませんでした。
「んー……わからない、かな。弟子とは言ってもね、今回の大会はほとんどクロのこと見てあげられてないから。クロがどんな状態なのかとか、わたしはわからないんだよ。ミアとも、最近は手合わせする機会もないしね。逆に、ミアはどう思ってるの?」
最近は特にお忙しかったのでしょう。お姉様は結果の予測がつかないからこそ、楽しみにご観覧にいらしてくださったのでしょう。
「ミアは……勝ちたいです。でも、アンナさんにも勝てないミアが、勝てるでしょうか……?」
「ミア、勝ち負けは、相性もあるからね。わたしは逆に、ミアみたいなタイプは苦手だし、クロみたいなタイプは得意だよ。ミアとクロは……相性で言うと、ミアの方が有利そうには思うけど」
たしかに、実力に差があっても、相性次第では覆る可能性があります。ミアとアンナさんでは覆せなくても、あの男が相手なら、覆せるかも……。お姉様はそう考えていらっしゃるようです。
それは、ミアのことを少なからず評価してくださっているということ。それが純粋に嬉しかったのです。お姉様はちゃんと、ミアのことを見てくださっていらっしゃいました。
「アンナみたいなタイプはともかく、
「お姉様なら、どうやって突破しますか?」
「フローターで瞬殺、かな」
相変わらずご容赦のないお言葉です。ですけれど、お姉様の仰る通り、それがミアの一番の弱点でもあります。今回の相手はそれがない分、有利に立ち回れるでしょう。
お姉様はそういう意味でも、ミアと相性がいいと仰ってくださったのだと思います。
「ねえ、ミア」
「なんでしょう、お姉様」
「もし、ミアがこの
思ってもみない一言に、俄然身体が熱くなってきました。こみあげてくる嬉しさに、胸がはちきれんばかりです。
「ミアと組んでくださるんですか!?」
「優勝したら、ね。だから、頑張ってね」
お姉様は、ミアが優勝できると思ってくださっているのでしょうか。ミアは、お姉様に期待していただいていると思っていいのでしょうか。
「はい、頑張ります!」
お姉様のご期待に応えるためにも、絶対に勝ちます。待っていなさい、クロード・フォートリエ。ミアがあなたを、けちょんけちょんにしてやりますのよ!
◆◇
『エントリーナンバー43、
向かいから小柄な淡い金髪の少女が姿を現すと、俺の紹介アナウンスも流れ始める。
『エントリーナンバー46、
競技場へ入場すると、相変わらずの大歓声に包まれていた。ここまで来ると、この歓声がどちらに向けられたものかわからなくなってくる。
俺も全体では六番人気に推されているとはいえ、対戦相手のミアだって二年生次席。充分な人気を集める上位候補の一人だ。アストさんの従妹というのも話題性だけでない実力の上積みを感じさせる。
さらには、
「よろしくお願いしますわ」
所定の位置に着くと、彼女は上品な所作でお辞儀をするので、俺もつられて会釈する。
「あ、こちらこそ……よろしく」
こうして実際に対面してみると、予想以上に小柄な子だ。歳の同じグレーテと比べても、一回りくらい違うだろうか。的が小さいというのはやりづらい。
開始のブザーが鳴ると、彼女は早速、両手に構えた
やはり使ってきたか、“
しかし、彼女もそれをわかっているからこそ対策はされており、フローターでもないと発動を防ぐのは無理だという結論に至ったのだった。
その代わり、この技へのカウンターをしっかり考えてきた。
そのためには仕込みが必要だ。彼女に気づかれないよう、少しずつ
「ふふふ……どうしましたの? 逃げてばかりじゃミアには勝てませんわよ?」
映像で見ていても思ったが、彼女はどうやら戦闘中は性格が変わるらしい。嗜虐的な笑みを湛えながら、楽しそうに俺を追い詰めてくる。
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