第30話 次女の戦い
観客にも伝わるほどの、衝撃と振動。それが、槍を中心として一気に競技場全体に響き、伝わった。この衝撃と共に、グレーテの
一体、今の一瞬に何が起きたというんだ……?
グレーテは槍に縋るようにして蹲ったが、まだ意識はある。試合は終わっていない。
槍を支えに立ち上がろうとするグレーテを、
「何が起きたの……?」
「恐らくだけど、今のは
さっきの衝撃から考えると、その仮説が一番しっくりくる。
「
「さすがロレッタ。お前がいると話が早くて助かるな」
俺の言葉に、ロレッタは少し得意そうにしている。
「ただの音波攻撃だけど、感覚の優れたグレーテにあれは堪えるだろう。平衡感覚なんか、めちゃくちゃになっているんじゃないか?」
「なるほど。それであんなにフラついてるんだね」
「俺だったら、そこに
「悪魔め……」
レイはそう言うが、ヘザーも俺に負けず劣らず悪魔だったようで、容赦なく
そんな彼女へ向けて、ヘザーは
ところがその猛攻は、かえってグレーテの眠れる力を呼び覚ましてしまったらしかった。
ほんのわずかな間、グレーテの
「今度はグレーテか……一体何なんだ?」
これは、グレーテが自分の意思で行っていることなのか? それとも、防衛本能が引き起こしたものなのか。
すると次の瞬間、巨大な
「まさか……
そんなことまで可能なのか……? この場に
グレーテは蹲ったままで、ヘザーの方を向いてもいない。神経を研ぎ澄ませて、感素だけでヘザーの位置を捉えようとしている。
吹っ飛ばされたヘザーに起き上がる暇も与えず、巨大な
既にヘザーのタッチカウンターも二つ点灯している。さっきの猛攻でグレーテのタッチカウンターは三つになったとはいえ、あと一発を命中させるより先に、ヘザーのタッチカウンターが溜まる方が早いかもしれない。
ヘザーも
絶対に負けたくないという、意地。ヘザーの意識を繋ぎとめるのは、ただそれだけなのだろう。勝つことよりも、負けないことを考えている。それが、
何度打ち付けられても決して折れないその姿は、痛々しくて、とても見ていられない。ヘザーの思いを知っているから、余計に目を覆いたくなる。
リリアナ・レンフィールドの妹として、姉に支配され、いいように利用されて、家にも期待されず、実績も残せていない自分の弱さを徹底的にわからされたヘザー。片や、アンジェリカ・フォン・エッフェンベルクの妹として、姉や周囲に期待され、既に一年生首席という実績を残し、これからもその実力を伸ばし続けていくであろうグレーテ。
ヘザーがグレーテに屈するということは、理不尽に足掻いてきた彼女が、現実に負けることを意味する。自分にないものを全部持っている彼女に負けてしまえば、彼女の存在が否定されたみたいになってしまう。
だから、彼女は折れないのだろう。
「……ヘザーちゃんも、往生際が悪いよ」
ぼそっと呟いたレイに、俺は思わず手が出てしまいそうになる。
ヘザーがどんな気持ちでグレーテと対峙していると思ってるんだ。彼女が負けを認めることがどういうことか、わかっていないくせに。そんな思いがこみ上げてくる。
だが、俺が手を出す前にレイをたしなめたのはロレッタだった。
「そういう言い方は良くないよ。ちゃんと勝算のある立ち回りだよ。ここまで来たら、先に気持ちが切れた方が負ける。見ているのが辛くても、この試合の結末をちゃんと見届けようよ」
そう言われても納得はできなかったらしく、レイは不貞腐れたように黙り込んでしまった。
たしかに、見ているのが苦しいような試合なのは事実。観客の中にも、悲鳴のような声を上げている者もいる。最悪の場合、どちらかが死ぬまで続くかもしれない。
だとしても、あの二人の戦いを止める権利は俺達にはない。二人の間で決着をつけるしかない。これは、そういう戦いだ。
やがて、二人に動きがあった。耐える一方だったヘザーが、ついに攻勢に出たのだ。
纏っていた
既に二人とも気力だけで意識を繋いでいる状態。タッチカウンターも三つずつ。あと一撃、あと一撃が当たればこの試合は決まる。
傍目には、ほぼ同時に見えた。グレーテに銃弾が直撃したのと、ヘザーに
バイタル監視システムにより、
「この場合、どうなるんでしょう……?」
「先にアナウンスされた方が、わずかに早かったってことだろう」
ロレッタの疑問に対する俺の答えは、そのまま解答として、勝者がコールされた。
『勝者、グレーテ・クラウゼヴィッツ・フォン・エッフェンベルクーッ!!』
そのコールに、これまで淀んでいた競技場の空気がどっと沸き立った。結果だけを見れば、順当な勝ち上がりだった。
二人はすぐに医務室に担ぎ込まれていく。これが準々決勝でなくて良かった。
準々決勝の日は、その日の午後に準決勝が行われる。グレーテの消耗具合がどの程度かはわからないが、少なくとも当日の午後にもう一試合こなせるような状態ではなかっただろう。
「じゃあ、そろそろ俺も準備してくるよ」
俺の試合はこの次の次、第六試合。控室で最終調整をしておきたい。
「元カノのところには行ってあげないの?」
「行ってやりたいけど、あの様子じゃあ、しばらく起きられないだろうからな」
一人にしておくのも心配だが、一人にしてやりたいというのもある。もう恋人でもないんだし、あまり過干渉になるのも考えものか。とにかく今は、少し休ませてやりたい。
「あたしに負けるまで、負けないでよね」
「俺は優勝する気だぞ? 誰にも負けるつもりなんてねぇよ」
ヘザーのことばかりを気にしてもいられない。俺は俺の戦いに集中しなければ。
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