第26話 新星杯 一回戦 VS ハンネス

 ◆◇



 大会三日目。Cブロック一回戦第七試合。

 俺の初戦の相手は同じ学年のハンネス・テニッセン。格下の相手ではあるが、油断は禁物だ。


『エントリーナンバー45、夜天ブライトレス寮所属の三年生、ハンネス・テニッセン!』


 紹介アナウンスを受けて、向かいのゲートから先にハンネスが出てきた。黒と金を基調とした夜天ブライトレス寮のユニフォームに身を包み、自然な歩様で所定位置までやってくる。緊張はしていないのだろう。


『エントリーナンバー46、静藍ラズライト寮所属の三年生、クロード・フォートリエ!』


 今度は俺のアナウンスだ。開いているゲートから、競技場内へ向かって歩き出す。

 いつ来ても、ここは騒々しい。見渡す限り大勢の観客が詰めかけ、フィールドを見守っている。その熱気に緊張はしないが、気持ちは入る。


 俺も所定位置について、場内にブザーが響く。開始の合図だ。


 ハンネスの得意距離は中距離ミドルレンジ。この所定位置の間隔が、彼の間合い。

 早速自在砲バリアブルアサルトを抜いて、心素エモのエネルギー弾を撃ってきた。――速い。そう認識した時には、既に弾丸が目前まで迫っていた。体勢を傾けて、すんでのところでかわし切る。


 これを続けられるとキツい。とはいえ、距離を詰めればそれこそ避けられなくなる。追尾性能がないのだけが救いか。それこそフローターでもあれば、強気に距離を詰められるのに。

 相手の得意で戦うのは不安要素だが、この距離でやり合うしかないか。


 俺も自在砲バリアブルアサルトを取り出して、追尾弾ホーミングを何発か撃って牽制する。案の定、ハンネスは弾丸を拡散弾シャワーに切り替えて俺の追尾弾ホーミングを迎撃した。その隙に、俺は自在砲バリアブルアサルト吊針スティンガーを装填して射出する。

 自分の有利な場を作ることも、重要な要素の一つ。特に遊撃手トリックスターの戦い方は、とにかく自分優位に立ちまわること。それが安定した勝利につながる。


 吊針スティンガーを撒いたことで、ある程度の範囲は移動の自在性が確保された。ハンネスの快速弾ラピッドも、これで回避は可能だ。


 もう二、三発追尾弾ホーミングを放って、ハンネスに迎撃させた。追尾弾ホーミングを撃って、着弾までの時間差で、俺は次の行動に移る。そうすることで、相手を常に後手に回すことができる。

 俺はハンネスに迎撃させている間にエネルギーを溜めて、ハンネスが迎撃し終わったところへ高出力の一撃を撃ち出した。ところが、これはわずかに逸れて、ハンネスには当たらない。そう思い込んだハンネスは、反撃と言わんばかりに俺に自在砲バリアブルアサルトを向ける。


「そいつが追尾弾ホーミングかどうか、確認した方がいいんじゃないか?」


 俺の言葉に、ハンネスははっとしたように、まだ消滅していない大砲のような一撃へ視線を向けた。

 追尾弾ホーミングは普通、高威力では撃ち出さない。というより、高威力で撃ち出すには溜めが必要になる。それが大きな隙になるために、普通はやらないというだけだ。実際、今のわずかな溜めではこれだけの高出力の追尾弾ホーミングを放つのはほぼ不可能であり、ハンネスの予測は正しいと言える。

 しかし、ある絡繰りをもってすれば、それが可能になるのだ。


「何で……っ? あんなに早く、こんな威力で……!」


 真っすぐ飛んできた弾丸は、突然ハンネスへ向けて軌道を変えたのだ。ハンネスの表情や言葉からは、理論上あり得ないという驚きが窺える。


 当たれば家一つ吹き飛ばせるほどの威力。生半可な威力では迎撃もできない。ハンネスはできるだけ出力を上げて応戦する。いや、発砲の反動を利用して、回避の推進力にしているようだ。


 ならば……と、俺はハンネスの避けた方へ軌道を変える。この区画なら、どんな弾丸でも自在に軌道を操れる。俺の撃つ弾は、実質すべてホーミング効果を持つことになる。そう、吊針スティンガーの範囲内であれば。


 吊針スティンガー自在砲バリアブルアサルトから撃ち出すことで、自在砲バリアブルアサルト吊針スティンガーとを結ぶことに成功した。そうすると、自在砲バリアブルアサルトから放たれた弾丸は吊針スティンガーに向かって進むことになる。別の吊針スティンガーに軌道を移せば、弾の軌道も変わる。これが範囲限定自在ホーミングの絡繰りだった。


 逃げるので手一杯のハンネスへ向けて、俺はもう片方の自在砲バリアブルアサルト快速弾ラピッドを連射する。ハンネスほどの正確さはなくとも、今のハンネスには充分な負担になるはずだ。


 どちらも単体なら避けきれないほどじゃない。だが、二つが合わさることで避ける範囲を制限し、快速弾ラピッドの弾速は思考する時間をも奪う。

 単純になった思考には、不意打ちがかなり効果的に決まる。


 俺の撃った快速弾ラピッドが、向かいから迫る高出力の弾丸に当たり、爆ぜた。爆風と共にエネルギーが拡散され、ハンネスはそれを至近距離で浴びることとなった。タッチカウンターも一つ点灯し、確実に一歩、俺の勝利が近付いた。

 視野の狭くなった彼には、この一撃は予測できなかっただろう。対応しきれなかったはずだ。しかし、まだ決定打とはいかない。


 吊針スティンガーで素早く間を詰めて、倒れているハンネスを見下ろす。まだ意識はある。意識があるうちは油断は禁物だ。反撃にも注意しつつ、コアを狙い撃つ感覚攻撃メンタルブレイクでトドメを刺した。

 と、思ったのも束の間、異変に気付いて一歩後退しても間に合わず、左足を何かに貫かれた。

 俺の頭上から瞬くほどの速さで、一発の弾丸が降ってきていたのだ。まるで気付かなかった。避け続けながら、一矢報いるために頭上に一発放っていたのだろう。油断はしていないつもりだったが、侮っていたのかもしれない。


 ハンネスの意識消失フェインテッドが宣告され、一回戦は俺の勝利で幕を閉じた。



 医務室で検査を受けると、特に問題はなく、すぐに帰してもらえた。

 次の試合を見ておきたいところだが、思いのほか疲労が溜まっているようで、身体の怠さが残っていた。次の試合に影響が出ても困る。観戦は諦めて、今日はもう部屋に戻って休むことにした。


 終始、俺のペースで試合を運ぶことができたが、一矢報いられた。最後の最後は距離を詰めてくると読まれていたのだろうか。場合によっては、あの一撃からペースを奪われる可能性すらあった。

 貫かれたはずの左足にはダメージはない。感覚攻撃だったのだ。直撃していれば、返り討ちにされていたかもしれない。


 次の二回戦は明後日。その二回戦の相手は次の試合で決まる。

 一回戦でこれだけの疲労が出るとなると、準々決勝までにどれだけ身体に負荷がかかるかわからない。試合に影響はないと思っていたが、空元気だったのかもしれない。


 すると、レイからメッセージが届いた。一回戦を突破したくらいで調子に乗るな、というような主旨だったが、一回戦突破おめでとう、と受け取っておくことにした。


 ベッドに横になりながら、今日までの試合結果を眺めてみる。


 今のところ、一回戦は有力どころが順当に勝利し、二回戦に駒を進めている。さすがに有力者が一回戦で消えるような、波乱の展開は今年はなさそうだ。


 順調に行けば、二回戦も順当な結果になるだろう。問題は三回戦。特にC、Dブロックは連日での試合になり、疲労によって番狂わせが起きやすい。どのブロックに入るのかによって試合の間隔が異なり、その影響も無視できない。


 横になってしまうと、簡単に睡魔に負けてしまう。ログを確認するのは明日にして、今日はもう寝ることにしよう。その前に、アストさんにも勝利報告だけしておこうかな。そんなことを考えたところで、俺は眠りに落ちてしまった。

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