第18話 新星杯の展望
「どういう風に見ていくんだ?」
対戦表をモニターに映し出したフラン先輩が、手近にあった紙とペンを持ってくる。端末はモニターに映すのに使ってしまっているから、アナログでメモを取るらしい。察するに、アストさんに報告するよう言われているのだろう。
「まずは、各ブロックの勝者、準決勝行きから見ます。フラン先輩は、どう思いますか?」
「順当に行けば、実力的にはAブロックはクロイツァーだろう。他にもちらほら見どころのある奴はいるが、やはりクロイツァーと比較して、一回り劣る」
「俺は、クルトにも分があると思います。クルトの方は、準々決勝まで比較的楽に勝ち上がれるでしょう。対してアレクシアの方は、二回戦で一年次席、三回戦でハリエットと当たります。アレクシアの疲労を踏まえれば、互角に戦えてもおかしくないと思います」
「なるほど。となれば、準決勝行きの一人はクロイツァーかもしれないし、ヘーブラーかもしれない、というわけか。どちらにしても、このブロックは準決勝まで当たらないし、当たるとしてもこの中から一人だけ。……ああ、なるほど。下調べに注力する者を絞る意図があるのか」
一つはフラン先輩の言う通りだが、もう一つは、俺とアストさんの認識を擦り合わせることも目的の一つではある。お互いに過大評価、過小評価している場合がないかを擦り合わせるのだ。
「Bブロックはどうです? 激戦になりそうですが」
「そうだな……。フロイデンベルクかエッフェンベルクが有力だろう。私の個人的な見解だが、戦術の相性的にはフリティラリアの姉ではフロイデンベルクには勝てん。だが、エッフェンベルクには勝てる可能性はあった」
「だけどこの組み合わせだと、ロレッタは先にルーツィアに当たる……。だから大方の予想だと、準々決勝の組み合わせはルーツィアとグレーテになるってことですか?」
もしロレッタがグレーテと先に当たるなら、より強くルーツィアを推せていた。この組み合わせでは、ロレッタは番狂わせになり得ない、ということか。
「そういうことだ。もしレンフィールドがエッフェンベルクに勝って準々決勝に行ったとしても、フロイデンベルクの相手は厳しいだろう。フロイデンベルクに勝てるとしたら、この組ではエッフェンベルク、というわけだ」
俺に配慮してくれたのか、ヘザーのことにも触れてくれた。だが俺としても、この組に入ってしまった時点で、彼女の準決勝行きはかなり薄くなってしまったと思っている。アレクシアの組に入れれば、また違ったんだろうけど。
「俺は正直、グレーテではルーツィアに勝てないと思っています。ですからここは準々決勝の組み合わせが二人になった時点で、準決勝行きはルーツィアでしょう」
この間の模擬戦が全力ではなかったとしても、やはり彼女の今の実力はせいぜいアレクシアよりは上くらいじゃないだろうか。アストさんがかなり低く評価しているのも気になるし、
「先に、Dブロックの方を聞いてもいいですか?」
俺の入っているCブロックは細かく話したかったので、後回しにしてもらうことにした。
「構わないぞ。Dブロックはセルヴィレッジがどれだけ成長しているかになるだろうが、フリティラリアの妹で揺るがないだろう。二、三回戦ならともかく、準決勝行きというレベルでは番狂わせはないだろうな」
「俺も同感です。戦闘センスで言えば、ルーツィアに勝てるのは彼女くらいだと思っています。Aブロックのクルトかアレクシアでは、ルーツィアには勝てない。でも、レイなら勝てるかもしれない」
「えらい高く評価しているんだな」
俺のレイへの評価が意外だったらしく、フラン先輩は目を丸くしていた。
「フラン先輩からすると、過大評価に感じますか?」
「いや、私も同じように思う。だが昨年までのままなら、フリティラリアは勝てないだろうとは思う。何か新しい技術を身につけていれば、勝敗はわからんな」
彼女の攻めは極端だから、もう一つ手数が欲しいということなのだろう。戦術の幅を広げるにしても、自分の強みを活かすにしても、今までのようでは対策されてしまう。だが、レイならきっと、前の自分を超えてくる。あいつはそういう奴だ。
「最後に、俺のいるCブロックですが、俺は準決勝に行けますかね」
「贔屓目を抜きにしても、問題ないだろう。お前が負けるとしたら、フロイデンベルクくらいだとは思うが、油断と驕りは禁物だぞ?」
思いのほか俺を高く評価してくれていて、ついつい嬉しくなる。
この間もグレーテに負けないと言ってくれていたし、最近優しくなったような気がする。いや、元々優しい人なんだろうけど、その優しさを、ちゃんと表に出してくれるようになった。だからこそ、この人の厳しさにも意味があると思えるようになったんだ。前までは、理不尽だと思っていたのに。
「ありがとうございます。準々決勝で当たるのはシャルロッテだと思うんですが、彼女についてはどう思いますか?」
「彼女は
「当然です」
そうは言っても、俺は少しの不安を抱えていた。元々俺は、
「最後に、優勝するとしたら、誰だと思いますか?」
「お前かフロイデンベルクになるんじゃないか、とは。ただ、どの組み合わせになるかにもよるな、こればっかりは。だが、フリティラリアもとんでもない隠し玉を仕込んでいたら、ひっくり返る可能性はある」
俺とルーツィアはどちらが勝ってもおかしくない。そう思ってくれているらしい。光栄なことだ。等級も序列も俺の方がずっと下なのに。
だが実際のところ、昨年の勝ち星は俺が学年で最多。大会で堅実に結果を出しているのは、ルーツィアより俺の方なのだ。今年は各上相手でも、もっと高い結果を残したい。
「ちなみになんですが、フラン先輩とルーツィアが戦ったら、どっちが勝ちますか?」
「私が勝つ、と言いたいところだが、それは
「俺は一回戦が始まるまでは、じっとしていた方がいいですか?」
「仕掛けてくるのがいつかはわからないしな。一回戦を棄権しろと言うからには、一回戦までには仕掛けてくるだろうが。その辺りは何とも言えん」
相手がどんな奴かわからない以上、下手に何かをするよりも、相手の出方を窺う方が得策か。
「まあ、お前は大人しく、私に守られていればいい」
では今日はこれで、と部屋に帰ろうとすると、腕を掴んで引き留められた。振り返ると、フラン先輩がにやりと不敵に笑う。
「誰が帰っていいと言った?」
「……ダメ、なんですか?」
「私に守られていろと言っただろう。今晩はここに泊まれ」
またこの展開……。正直嬉しいような、落ち着かないような……。
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