第17話 屋上への呼び出し
◆◇
呼び出された場所は、前期生が使用する東校舎の屋上。立てつけの悪い戸を開けると、その音に気付いた彼女がこちらを見つめていた。
俺がアストさんに追いつくために越えるべき第一の壁として設定した、ルーツィア・ストレイス・フォン・フロイデンベルク。俺を呼びだしたのは、彼女だった。
「俺に何か用?」
「フォートリエくんに伺いたいことがありまして」
そう言うと、彼女は制服のポケットから一枚の紙面を取り出し、俺に突きつけた。
「これを書いたのは、あなたですか?」
一瞬、息を呑んだ。その内容は、昨日俺の部屋に届いたものに酷似していたのだ。違うのは、命を狙われているのは彼女自身ということだった。だが何故、俺が疑われているのだろう。
「……違う。書いたのは俺じゃない」
「そうですか。なら、良かったです」
「どうして俺が書いたと思ったんだ?」
「どうしても何も、差出人はあなたの名前になっていましたから」
何だって……? 俺の名を騙ってこんなものをばら撒いて、何になるっていうんだ。犯人の意図がますますわからなくなってきた。
「ですが、念のため確認して正解でした」
「本当に俺が書いたんだとしたら、どうしてたんだ? 俺はルーツィアの命を狙ってるかもしれないのに」
「その時は返り討ちにしますから、問題ありませんよ」
……言ってくれる。俺なんかが必死になって殺しに来たって、簡単に取り押さえられるって思われてるのか。悪意はないんだろうけど、大した余裕だ。気に入らない。
「それ、昨日俺の部屋にも同じものが届いてたんだ。厳密に言えば、俺のは“大切な人の命はない”ってなってたんだけど」
「そうだったんですか。それで、どうするんですか? 棄権、するんですか?」
「まさか。その前に、犯人を捜し出してとっ捕まえる」
彼女も棄権などするつもりはないのだろう。それに、俺のことなどまるで意識していないようなさっきの口ぶりを聞いてしまえば、本戦で叩きのめすしかない。そう思うように煽られているかのようだった。
「犯人の目星は付いているんですか?」
「いや、それが全然。一応、
「
「試合中の事故じゃなく、学園内での堂々の殺人。しかも、貴族様を狙うってことは、相応の覚悟のある奴なんだろうだけど」
ターゲットになりそうな人たちはみな、それなりに知名度のある家柄の子だ。クラルヴァイン、ル・ブラン、フロイデンベルク、そしてレンフィールド。さらには俺の“主人”だってそうだ。だからこそ、本当の狙いは別にあるんじゃないかと思えてしまうのだ。
「というか、俺の連絡先はどうやって入手したんだ? 交換した覚えはないが」
「ロレッタさんに教えてもらいました。大事な話がしたいと呼び出したいからと言ったら、すぐに教えてくれました。諦めちゃダメだって言われましたけど、私には何のことだか……」
それ、告白かなんかだと勘違いしてるぞ、たぶん。
「ロレッタやレイのところには、これ届いてないって?」
「あの二人なら、こんなものが届いていれば、私たちにすぐ知らせると思いますけど」
彼女も俺と同じ見解か。
ロレッタやレイは学年でもかなり人望のある部類に入る。何かあれば彼女らのところへ相談が持ちかけられるだろう。その彼女らが、こういったきな臭い事件で首席のルーツィアに助けを求めないとは考えにくい。
少なくとも三年生では、俺とルーツィアだけがターゲットになったと思っておいていいだろう。
「この件は、私の方でアンジェリカさんに報告しておきます。では、ごきげんよう」
そう言って、彼女は去っていった。
なんというか、マイペースな人だ。彼女も序列二十位ではあるし、襲われても自力で撃退できそうではある。だとするなら尚更、直接彼女を狙うという脅迫文は不自然に感じる。
幸か不幸か、今日は休日ということもあり、ルーツィアとの用事を済ませた俺は、今日一日は部屋に籠っていることにした。
いつもなら大会前は調整を欠かさないのだが、今回ばかりは仕方ない。休息を取ることも、調整の一つだと割り切ろう。
そしてその夜、早くも
シードなしの、六十四人でのトーナメント。十六人ごとにA~Dの四つのブロックに分けられ、各グループの勝者は準決勝に進める。準決勝は組み合わせが改めて抽選され、誰に当たるかわからない。
俺はCブロックで、同じ組の有力選手はシャルロッテと二年次席のミアくらいか。勝ち上がるのに比較的大きな障害はない。
レイは二年首席のアンナと同じ組だが、彼女なら問題なく準決勝まで勝ち上がってくるだろう。
最も厳しい組はBブロックだな。ルーツィア、グレーテ、ロレッタのいる組に、ヘザーが入ってしまっている。彼女にとってはかなり厳しい組分けになってしまった。
普段なら、対戦表が出た時点でアストさんと大会の展望を予想して話し合うのだが、せっかく俺のために動いてくれているのに邪魔をするのは申し訳ない。かといって、フラン先輩もそれは同じ。今回ばかりは一人でやるしかないか。
すると、フラン先輩から着信があった。何かわかったのだろうかと出てみると、アストさんに言われ、俺の展開予想に付き合うように言われたのだと言う。聞くに、彼女は俺の護衛を任されているらしいので、アストさんもちょうどいいと判断したらしい。
こうして、連日フラン先輩の部屋へお邪魔することになってしまった。
少しの申し訳なさがありつつも、いつもはアストさんとやることを今回はフラン先輩と行うという新鮮さに、胸が躍るのも事実だった。
「お邪魔します」
「ああ、適当に座れ」
昨日と同じように俺はソファに座ると、フラン先輩は向かいのベッドに腰掛けた。フラン先輩は昨日と同じくもこもこのカーディガンにショートパンツ姿。違うのは色だけだ。お気に入りなのだろうか。
「先にこちらの進捗だが、お前とレンフィールドの護衛を、私とアストリットで行うことになった。他にも調査と当日の会場警備にも当たり、早急な解決を目指してはいる。調査担当からはまだ連絡がないが、何かわかればお前にもすぐ連絡しよう」
「ありがとうございます。ルーツィアの件は聞きました?」
「ああ。彼女の実力なら護衛はいらないとは思うが、念のため、アンジェリカが護衛につくらしい」
アンジェリカさんが護衛とは、これ以上心強いものはない。なら、ルーツィアの方は大丈夫だろう。
「考えすぎな気がしないでもないが、あんな見え透いたやり方でお前の名を騙ったのは、何か別の意図がある気がする」
「俺を嵌めようとした、というわけでもないということですか?」
「まるで何かから私たちの注意を逸らそうとしているような気がしてな」
たしかに、この一件で怨恨説が濃厚になることだろう。だが、フラン先輩はそれ以上のことが含まれていると考えているのか。なぜ俺なのか、なぜルーツィアなのか。そこに意味があるということか。
「まあ、今は考えても仕方がない。もう少し情報が揃うまではな。さて、それではお前の用件に付き合うとしよう」
そう言って、フラン先輩は机の上のモニターと自分の端末をリンクさせ、端末の画面をモニターに映し出した。
「いつもは対戦表が出ると、アストさんと大会参加者の順位を予想するんです」
「当たるのか?」
「俺はまあまあです。アストさんは、さすがによく見ていらっしゃいます」
「私たちは賭けられないのが惜しいな」
観衆にとって、大会を格別熱狂させている要素が“
「賭けていれば、今頃ちょっとした小金持ちですけどね」
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