第16話 星虹会
目が覚めて、はっと飛び起きると、俺は自分の部屋のベッドの上にいた。
たしか昨日はフラン先輩の部屋に泊まっていったような気がしていたが……あれはやはり夢だったのだろうか。
昨日がエントリーの締め切りだから、明日には対戦表が発表される。さらにその翌日に開会式、その日の午後から一回戦が始まる。できればその一回戦までに、書簡の差出人を特定したいところだ。
端末を確認すると、アストさんからメッセージが届いていた。昨日言っていた通り、今日これから
そしてもう一通、別のメッセージも届いていた。こちらは俺を呼び出すもので、俺は素直にその呼び出しに応じることにした。
◆◇
『ご一考いただきたいお話があるので、本日中にお時間取っていただけますか?』
アストリットがグループメンバーに向けてメッセージを送信すると、次々に了承の返事が来る。そして瞬く間にメンバー全員の都合がつき、すぐに端末を介した会議が始まった。
「皆さん、早々にありがとうございます」
六分割された画面に自分以外の
『いいよぉ、アストちゃんからなんて、珍しいもん』
そう間の抜けた声を出す彼女は特に、どうやって映しているのか、胸の下からトップにかけてのアップしか映っていなかった。
『アンゼルムさん、胸しか映ってないですよ』
『あら、ごめんなさい』
指摘されて彼女が画面を動かすと、明るい金髪のおっとりした女性が映りこむ。
『それで、改まってどうしたの? それもこんなタイミングで』
「実は、これなんですが……見えますか?」
アストリットはクロードから預かった書面を端末のカメラに映す。
『これはまた……どういった経緯で?』
「
『
“知り合いの男子学生”というワードに食いつき、勘ぐるような言葉を投げる、第五席のアンゼルム。上級生であってもアストリットは物怖じせずに一睨みで追及を封じた。
「……何か?」
『ううん、何でもないよ。それで、アストちゃんとしてはどういう見解なの?』
「フランシーヌとも既に話はしたのですが、怨恨を理由とした個人を狙っている可能性と、大会に影響を出すことが目的という可能性を考えました。後者の場合、彼のみが標的になるとは考えにくく、今後 被害の拡大が懸念されます」
アストリットの見解に、第二席のコルネリウスが提案する。
『今のところ、こちらでもそのような報告は受けていない。だが、昨日の今日ということもある。類似の被害がないか、念のため調べるようにしよう』
「ありがとうございます」
『怨恨の場合、本当に思い当たるところはないんですか? 少しでも糸口があれば、と思いますが』
最年少である第四席のエルンストがアストリットへ質問する。
「タイミングを考えれば……グレーテ・クラウゼヴィッツ・フォン・エッフェンベルクへの勝利が有力ではないかと」
それを聞いて、アンジェリカがぼそっと呟いた。
『ああ、やっぱり彼のことなのね。
『単純にグレーテの支持者、もしくはグレーテの敗北により、何らかの不都合を被る者、ということですか』
「逆に、皆さんにはそのような者の心当たりはありますか?」
『エッフェンベルクのことは、エッフェンベルクの人が詳しいんじゃないか?』
コルネリウスに話を振られて、アンジェリカは答えづらそうに口を開く。
『嫌なこと言うわね。エッフェンベルクは支持者も多ければ敵も多いわ。特にどこの誰が、なんて言いきれないくらいにね』
『ですがこの文面だと、彼に直接の襲撃はなさそうですね。だとすれば、標的になり得る人物を護衛するのが手っ取り早いかもしれません。あわよくば、襲撃者を捕らえられるかもしれませんし』
『さすがエルンストくん。冴えてるねぇ。それで、標的になりそうな人は誰か、もちろん聞いてきたんでしょう? 愛しの彼に』
茶化すようなアンゼルムの言い方に、アストリットは淡々と、それでいて刺々しく言葉を返した。
「わたしと彼について、勝手な物言いは控えていただけますか?」
『そう怒らなくてもいいじゃない。相変わらず冗談が通じないわねぇ、アストちゃんは』
「理由は伏せますが、狙われるとすれば、三年のヘザー・レンフィールド。それと、フランシーヌ・ル・ブラン。そしてわたし、アストリット・フォン・クラルヴァインだそうです」
それを聞いて、一同は一様に、色を落としたように沈黙する。
しかし最初にそれを破ったのは、第七席のエルヴィスだった。
『アストリットの“彼”は、レンフィールドの関係者だったか……。なら、
「エルヴィス、わたしと彼の関係について、訂正を求めます」
『ああ、悪い。
『ル・ブランとクラルヴァインが襲撃されるとは考えにくい。
『だとするなら、やはり狙われるのはレンフィールドってことになるのかしら。今のレンフィールドに手を出せるほどの者の仕業とも思えないけれど』
『どちらにせよ、エルンストの案を採用するのが良さそうだ。フォートリエの護衛、レンフィールドの護衛、他に被害が出ていないかの調査。この三つに人員を振り分けようと思う。それで構わないか?』
第一席と第二席との間で方針がまとまり、決が取られた。皆は揃って賛同し、さらに具体的な割り振りへと議題が移る。
『調査については俺とアンゼルム、アンジェリカで行う。フォートリエとレンフィールドの護衛は、クラルヴァイン、ル・ブラン、オルブライト、ノイシュヴァンシュタインの四名で当たれ。分担は任せる。調査の結果次第では、護衛班から一人ずつ招集をかける可能性もある。その辺りも考慮に入れておいてくれ』
『護衛に二人もいります? 一人で良いのでは?』
そのエルヴィスの意見に、発案者のコルネリウスが理由を尋ねる。
『会場警備にも人員を割いた方が良いと思います。標的の護衛以外にも、襲撃が競技場で行われた場合、観衆の安全も確保する必要があります。万が一、観衆を人質に取られないとも限りません』
『なるほど。異論のある者はいるか?』
異を唱える者はなく、エルヴィスの案が承認され、割り振りが再考された。
『では、オルブライトとノイシュヴァンシュタインで、
「調査の結果、標的が増えると判断された場合は、六年の方々がそのまま護衛に回るということでよろしいですか?」
『それはどうかしら。誰が標的になるかにもよるわね。クロードだって決して弱くはない。もちろん、レンフィールドも。彼らよりも力のない者が標的だった場合は、そちらを優先してもらう可能性もあるわ』
アンジェリカの言うことはもっともだったが、アストリットには、レンフィールドを見捨てようとする口実のようにも感じられた。アストリットもレンフィールドを良くは思っていないが、それでもクロードが悲しむようなことは起きてほしくないと思っていた。
「……わかりました」
『クラルヴァイン、議論は以上で構わないか?』
「はい」
『何かあれば都度連絡するように。以上、解散とする』
会議が終わり、通信が切れた。真っ暗な画面に映る自分の顔がいつもより険しいことに気付いて、アストリットは意識して口角を上げてみる。それでも到底、笑っているようには見えなかった。
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