第37話 戦後の戦場で
お風呂からあがると、姉妹はリビングに集合していて、何かを話し込んでいた。
「ああ、おかえり凛太郎。ちょうど良かった。持って帰ってきたカーナビのデータを解析して、この鍵がどこの鍵かを調べててね。今候補が絞れたところよ」
そう言って、可淑さんはテーブルの上に広げた地図を見るよう促した。
三ヵ所、地図に赤丸が付けられている。ここが候補地なのだろう。
「借り倉庫。トランクルーム。それからここは住宅。たぶんここのどこかに、この鍵が合う鍵穴があるはず。そこに何があるかはわからないけど、何か手掛かりがあることを祈って、明日見に行ってこようと思うの」
「オレは……」
「今回は、凛太郎は家で待っていてくれる? 結構な距離を移動することになると思うから、少人数で行くつもりなの」
足手まとい、か。いやいや、悲観的になるな。適材適所なんだ。今回の調査に特別オレの力は必要ないってことだ。それより今は、黒幕が今度は別の仲間を差し向けてくる可能性だってある。その可能性を警戒するのも、オレの大事な役目のはずだ。
わかった、そう言うのが精一杯で、オレは身体中の力が急激に抜けていくのを感じた。魔力摂取の後遺症だ。これでも少し
* * * *
鬱蒼とした深緑に囲まれた廃工場。そこに転がる三つのしわがれた老体。
可淑たちは、魔力の影響を受けた者は死後、自然に還るために灰化するとして、彼らを埋葬しなかった。
しかし、彼らの遺体は一向に灰化の気配がない。
そして三人は一斉に、しわがれた身体の表面だけが剥がれるようにして、元の若々しい身体に戻る。真っ先に、リーダー格の男が目を覚ました。文字通り、息を吹き返したように、空気を吸っては吐いてを繰り返した。
「生きてる……。さすがにもう力は使えないが……あの時か」
老体化する際、瑠璃子が触れたあの時に、彼女からエネルギーを与えられていた。最後の一度だけ、再生が使えるだけの魔力を。
仲間の二人も同じ。過剰な魔力を浴びたせいで、身体に魔力が残留していたのだ。魔力回路を断たれたとしても、一度きりの再生だけは発動するだけの魔力が。
「あれ、俺たち、死んだんじゃ……」
「生きてるわね……」
悔しいが、助けられた。そして、見捨てられた。その事実を突きつけられ、三人は途方に暮れる。もう、一緒に居る理由も目的もない。生きる理由すら、見つけられない。あるとすればそれは、彼らを見捨てた“黒幕”への復讐くらいだった。
* * * *
「ねえ、本当にこの辺りなの……?」
鬱蒼と茂る緑の中を進んでいく、この場に似つかわしくないひらひらのスカートを翻した金髪の女。その彼女の前を行くのは、長身で黒い長髪の女。黒髪の女は片側の肩を出した緩いシャツの裾を、胸下で絞っている、夏とはいえ露出の高い恰好だった。
「たぶんね。この間えげつない魔力反応あったし、何かあるのは間違いないじゃん? 知らんけど」
そんな無責任な言葉を吐きながらも脇目も振らずにずんずん進んでいく黒髪の女の後を、金髪の女は不安そうについていくのだった。
すると、少し開けたところに出て、目の前に飛び込んできたのは屋根が潰れたように
「アリナ……あっちに道が見えるけど? おかしいと思ったのよ。こんな山道みたいな中を行くなんて。あっちが正規ルートじゃない!」
どうやら彼女たちは、道のない森の中を進み、工場の裏手に出てしまったようだった。
「まぁまぁ、ちゃんと着いたんだからいいじゃん」
アリナと呼ばれた黒髪の女は、律義にお邪魔しまーすと言いながら半壊した建物の中に入っていく。魔力の残滓を辿りながら、何か手掛かりが残っていないかを調べるように、あちこちひっくり返していた。
「何かありそう?」
「いいや、なーんもない。アタシが見てないんだから、間違いないね。でもこの量の魔力を出せるのは、“
手がかりを見つけられなかったとしても、充分な成果を得た。この付近に“葡萄”が現れて、魔法を使ったことは間違いないのだから。まだこの日本、ひいては東京に潜伏している可能性は充分高い。それがわかっただけでも、ここに来た甲斐があったと金髪の女はほくそ笑んでいた。
「まぁでも、それにしては魔力の反応が多すぎる気もするけどねぇ。アタシは判別まではできないんだけど、種類でいうと、一、二……五種類はあるかな。……どう見る?」
「そんなの決まってるわ。“同胞殺し”の娘たちなのよ? 今度は自分たちが狩られる側にいることも知らずに、殺戮を続けているのよ」
「戦闘になったらアタシは足手まといなんだから、セフたんがちゃんと守ってよ?」
当然よ、と鼻を鳴らす金髪の女は、一点だけ不服そうに、アリナへ訂正を求めた。
「セフたんと呼ぶなと何回言わせるのよ。でも、大丈夫。“
「それも何回も言ってるよ……。ただ歩いてるだけで辿り着くような確率を引くの、どんだけかかると思ってんの? アタシに死ねと言ってる?」
使えないわね……、と理不尽なため息を吐く、セフたんと呼ばれた金髪の女。
「この辺りに宿を取って、次また反応があったら急行しよっか。今はそれが一番じゃない? 何せ向こうには“
「ああクソ! イライラする! 絶対見つけ出して、この手で殺してやる。
セフたんは近くにあったドラム缶を蹴りつけたが、ドラム缶がびくともしなかった。彼女の頭の中では、サッカーボールのように盛大にドラム缶を蹴り飛ばす予定だったが、思いの外地味な絵面になってしまった。
「今、足痛かったでしょ」
「……うるさい」
セフたんはちょっと涙目になりながら、ニヤつくアリナの背を音を立てて平手打ちした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます