第33話 最強の魔法少女の力
オレは静玖さんの守りから出て、女の前に出た。
「お前、何故静玖さんのお父さんを殺そうとした? あいつはもう用済みだって言うのか?」
「これから死ぬ奴には関係のないことだ」
女性にしては低い声で吐き捨てるように言うと、ふっとオレの視界から消える。でも大丈夫。焦らず、気配を辿れば居場所はわかる。
――後ろだ。オレの背後からの回し蹴りを避けて、一歩二歩下がって距離を取る。
オレに敵意を向けて、殺意を持って向かってくるから、その心象虚像の気配を追えば、見失うはずがなかった。
さっき可淑さんのところから静玖さんの場所まで走った時にわかったが、魔力をもらっている時はオレも身体能力が上がっているらしく、自分のイメージ以上の能力が発揮できることがわかった。
だからたぶん、身体能力は相手と五分。心象虚像が見える分、オレの方が有利。でもエネルギーを吸われるなら、可淑さんからもらった魔力を吸い尽くされたら、オレの方が不利になる。
短時間で決めなければ。そしてそのための奥の手を、オレは手に入れかけていた。
魔法とはイメージだ。想像した通りのことを現実に起こす力。全部が全部とは言わないが、一部がそうであろうことは、なんとなくわかった。想像と、もう一つ発動にかかわるトリガーは、特定の条件と無意識の欲求だと思った。
例えば、キスをした時に相手の記憶を見てしまう能力。これはオレの無意識の欲求で、相手を知りたいと思っているからじゃないか? そしてそれが、静玖さんが言っていたように、魔力的に深く結合した状態、粘膜を触れ合わせた状態でのみ発動可能ということだ。だから、キスをした時に相手の記憶を見てしまうのだろう。
これを、特定の条件が必要なく、かつ意識的に行うことができれば――それが魔法なのではないか。そう思い至ったのだ。
オレは向かい来る黒づくめの女に手のひらを向ける。そして、イメージする。
オレはどうしたい? 殺したくはない。相手の動きを封じられれば、相手の戦意を失わせられれば、それでいい。だとしたら、それを叶える術は何だ? オレに宿る“記憶”の力でそれを叶えるにはどうしたらいい?
イメージしろ――――。
オレの手のひらが淡く光る。すると、黒づくめの女は動きを止める。オレに向けていたナイフを下ろし、その場に立ち尽くした。
「あれ……私は、何を……」
しかし辺りを見回して、思い出したようにオレに再び敵意を向けてくる。
「お前……! そうだ。私は、お前を殺す……!」
……ダメか。いや、もう一度だ。オレはもう一度、彼女に向けて手のひらを向けた。
「何だ……? 私は、何をして……思い、出せない……」
今度こそ上手くいったか……?
相手は状況を見て、判断して、行動を起こしている。だから今の状況がわからなくなるよう、いくらか記憶を奪えば、何をしていいかわからなくなって、行動を封じることができるのではないか。そう思ったのだ。
しかし、本当に上手くいくとは思わなかった。もしかしたら、オレにはそんな大層な力はないのかもしれない。そうも思ったから、これは一か八かの賭けだった。
「お姉さん、助けてください!」
「な、何だ、少年。私にどうしてほしいんだ?」
どうやら標的であるオレたちのこともしっかり忘れているらしく、オレの懇願にも違和感を覚えていないらしい。ただ少し挙動不審なのは気になるが。
「あの男たちが、皆を騙してここに連れてきたんだ。ここで皆殺しにするために! だからお願い、お姉さん! オレたちを助けてよ!」
あんまりこんな子供じみた演技はしたくないが……無力で哀れな少年を演じ切ることはできただろうか。
オレの頼みに、黒づくめの女は肩や拳を震わせながら、怒りを露わにした様子で声を上げる。
「ああ、許せない……! こんな無垢な少年を騙して、責め苦を負わせた挙句、ボロ雑巾のように辱めて使い潰すつもりだなんて……。なんて羨……いかがわしい!」
誰もそこまでは言ってないし、羨ましいって言おうとしなかったか? このおばさん。そういえば、この人も科学者の一味なんだった。常識というネジが一本や二本は飛んでいても不思議はないし、覚悟しておくべきだった。
黒づくめの女が男たちと可淑さんの戦いに割って入り、可淑さんに助太刀する形で男たちと交戦する。隙を見て、可淑さんも戦闘から抜けようとしていたが、そう上手くはいかなかった。
黒づくめの女の相手は拳銃を持っていた男が担い、痩せた男はしつこく可淑さんを狙っていたのだ。
「もう……っ、しつこいなぁ!」
そんな時、廃工場の屋根が破壊され、頭上から何かが降ってきた。屋根も完全に破壊されたわけではなく、
天井を突き破って夜空から降りてきたのは、月光のような淡い光に包まれた天使……ではなく、
「ごめんね、遅くなって。でもわたしが来たからにはもう大丈夫! 可淑、シズ、いい?」
ちょっと待って、と可淑さんは男の相手をやめて、一目散にオレの元へ駆け寄ってくる。静玖さんは、その背に隠すようにお父さんを庇っていた。一体、これから何が起きるというのか。
静玖さんと同じように、可淑さんもオレを背に隠して、瑠璃子さんにいいよ、と合図を送った。それを受けて、瑠璃子さんは困惑する男への攻撃を開始する。
瑠璃子さんの周りに青白い光の球が突如としていくつも浮かび上がり、瑠璃子さんが指を向ける先へ、矢のように飛んでいく。あまりの速さに避けることなどできず、リーダー格の男は何発も続けざまにその砲撃を受けて、しかしよろめくだけで倒れはしない。
「へぇ……確かに、エネルギーを吸収してるんだ。それ、<
そう言うと、瑠璃子さんは巨大な光の球を頭上から男たちへ向けて落とした。よく見れば、その光の球を男は手で受け止め、少しずつ光を吸収しているように見える。でも、光の球を消し去るには到底至らなかった。
痩せ型だった男の身体は、少しずつ膨張したように大きくなっていき、徐々に人の姿を失い始めていた。それを見て、瑠璃子さんは光の球の軌道を変えて、隅で震えている仲間の男と黒づくめの女に向けて転がすように撃ち出した。
二人はリーダー格の男より能力が劣るのか、ほとんど吸収できずに光の球に圧し潰されるようにして、倒れ伏してしまった。ピクリとも動かなくなってしまったが、生きてはいるのだろうか。
リーダー格の男は膨らんだ身体を元に戻しながら、自分の両手に瑠璃子さんと同じように光の球を形作った。しかしそれでも、瑠璃子さんの作ったものの大きさにはとても及ばない。
「お、お前……“
「貴方、何者なの? その力、結構使いこなしてるみたいだけど。できれば死ぬ前には教えてほしいなぁ」
瑠璃子さん、この男を殺してしまうつもりなのだろうか。
瑠璃子さんの指先から放たれた光線が、瞬きすら超える速度で男の右腕を吹っ飛ばした。千切れ飛んだ右腕は、宙を舞って、生々しい音と共に地面に打ち付けられる。しかしそれもすぐに灰のようになって消え、男の肩口からは新たな右腕が生えてきた。
それをさらに瑠璃子さんが撃ち抜き、右腕だけでなく、四肢を
そしてようやく、男は腕を生やせなくなった。
瑠璃子さんは男の両腕を捥いで、右脚を吹き飛ばし、宙に生じさせた火の玉でその傷口を焼いた。
「さて、と。話、聞かせてくれるよね?」
オレたちは男が蹂躙される様を、ただ見ていることしかできなかった。
静玖さんや可淑さんがお父さんやオレを守ってくれていたのも、瑠璃子さんの攻撃の余波に巻き込まれないようにするためだろう。
ただ単純な、力による支配。これほど強いものはあるだろうか。
膨大なエネルギーを持っていながら、それを自由自在に操る器用さ。これが可淑さんが言っていた、瑠璃子さんは魔法少女としては天才的、という意味なのだろうか。
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