第29話 謀略
* * * *
この辺りを生活拠点にしているだろうこともわかっているだろうし、顔も見られているのだ。早々に再び仕掛けてくると踏んでいたのに、肩透かしを食らったみたいに拍子抜けしてしまった。
そんな気を抜いていた時だった。下校中のオレの前に、奴は現れた。しかも、
「やあ、こんにちは。
「お前、どうして……」
いや、聞くまでもないか。調べることなどいくらでもできる。
それより今は、彼女たちに連絡しないと。でも、スマホはカバンの中で、取り出している余裕はない。今は魔力もないからテレパシーもできない。
完全に油断していた。一対一でオレと奴が対面した時、オレは一方的にやられてしまう。
「言うことを聞いてくれれば、殺しはしないよ」
今は、奴の言葉を信じて要求に従うしかない。オレは大人しく両手を上げて、降参の意思を示した。
「それでいい。さあ、車に乗り込め」
奴は近くに停まっていた黒いワゴン車の中にオレを促して、オレの後に続いて自分も入ってくる。運転席と助手席には、奴の仲間らしき男女がいた。後部座席から姿はよく確認できないが、声でわかる。
「出してくれ」
律儀にオレにシートベルトを締めさせるが、これはある種の拘束でもあった。車を走らせどこかへ向かう途中、男はオレに質問を投げかけてくる。
「
「そんなの、オレにもわかんないよ」
「何にせよ、人の身でそれを果たせるなら、偉大な成果だ。お前のことは、じっくりと研究させてもらう。身体の隅々まで開いてなァ」
解剖されるのか、オレは。無理もない。こいつらは科学者。オレだけでなく、捕えた魔法少女も解剖したんだろう。そうやって、力の正体を突き止め、利用方法を突き止め、こうやって悪事に利用している。
助けに来てほしい反面、捕まってほしくないという思いもあった。彼女らが捕まるくらいなら、オレがこのまま実験台にされる方が、ずっといい。
いや、それは嘘だ。オレはまだ死にたくない。
帰りが遅かったら、どれくらいで気付いてもらえるだろう。スマホの電源は切ってないから、位置情報で追いかけてきてくれるだろうか。魔法少女の移動速度なら、どれくらいで追いつくだろう。
そんなことを考えていると、車は停まり、オレは乱暴に掴まれて、引きずられるように歩かされる。
着いた場所は、古ぼけた大きな工場だった。ところどころ建物は錆びついていて、今も使われているような雰囲気はない。周りは鬱蒼とした木々が茂り、街灯もないような場所。まだ日が落ち切っていないから仄かに明るいが、もうじき日も落ちれば完全に真っ暗になるだろう。ここが、奴らのアジトなのか……?
オレは手首を縄で縛られ、小さな木の椅子に座らされた状態で椅子にも縛り付けられた。椅子は軽いけど、さすがに立てるような状態じゃない。口は塞がれていないものの、そうする必要がないと判断されてのことだろう。どうせ叫んだところで誰も助けには来ない。そういう場所なのだろう。
オレに接触してきたリーダー格の男が、オレのカバンを漁り、スマホを取り出した。パスコードを教えろと言われ、黙っていたら、頬をぶたれて椅子ごと廃材の山へ転がった。
「気を付けな? この辺ゴミだらけだからよォ。ガラス片とか金属片とか、そこらじゅうに落っこちてっから。助け呼ばせてやろうってんだから、大人しく言うこと聞けよ」
椅子を立たせてもらったオレは、男を睨みつけながらも、渋々パスコードを教えた。解錠した男は、アドレス帳を開き、ずらっと並ぶ
「この中でお前がもっとも大切な彼女に伝えな。一人で来るようにってな。もしお友達をぞろぞろ引き連れてきちゃったら、凛太郎君は殺しちゃうぞって念を押しとけよ?」
「オレを殺したら、実験できないだろ。だから、オレは殺せないはず」
「大丈夫さ。死んでも脳は使えるンだ」
その口の端を歪に釣り上げた不気味すぎる笑顔に、オレは逆らうことを諦めた。
誰に連絡するのが正解だろうか。一人で来てもらっても、状況を打開できる人。賢いという点では可淑さんか。しかしその可淑さんは、
「おいおい悩むなよ。直感で決めろ。一番大事なのは誰だ?」
あまり悩んでいると勝手に決められそうだったので、オレは思考の検証もそこそこに、腹を決めた。
電話を掛ける相手の名を男に伝えると、男はスマホをオレの耳元へ当てる。背中には、ひんやりした硬い感触。金属でできた筒状のものを押し当てられている感触がある。もしかしなくても、これは銃だろうか。下手なことを言えば、命はない、ということか。
『もしもし、凛太郎? 既読付かなかったけど、大丈夫?』
「あー……すみません。今ちょっと、忙しいというか、手が離せなくてですね」
『……そう。今どこ? もう暗いし、迎えに行くわ』
オレの一言である程度状況を察してくれたらしい間があった。やはり、彼女に掛けて正解だった。
場所は、と言いかけて、言葉を止める。そもそもオレ自身、ここがどこかわからないのだ。すると、男が小声で位置情報を見ろって言えと指示を出してくる。
「ちょっと口では上手く説明できないので、オレのスマホの位置情報見てもらってもいいですか? オレもここがどこだかわからなくて」
『わかったわ。それで、一人で来いとか言わないわよね?』
「さすが、よくわかりましたね。一人で来てもらえないと、オレは殺されるらしいです。オレの命は可淑さんに預けますので、判断は任せます。みんなを連れてきてくださいね」
『バカ……一人で行くに決まってるでしょ』
それだけ言って、通話が切られた。用件は済んだと、男が切ったらしい。
「バカだな、お前。ハッタリじゃねぇぞ?」
オレの後ろで銃口を突きつけている男の仲間が、オレを嘲笑う。声は男だ。仲間はもう一人いたはずだが、オレの視界内にはいない。
「まあ、覚悟ができているようで安心したよ。どちらにしろお前には死んでもらうことになりそうだからなァ。それじゃあ、続いていってみようか」
そう言って、男はまた電話を掛けて、スマホをオレの耳に当てる。今度は誰に電話するんだ? 何を考えている?
『あ……もしもし?』
その声を聞いて、オレは息が止まりそうになった。何故だかわからない。でも、嫌な予感がして、彼女をこの場に呼び出したくはなかった。
「あ、の……」
『リン……?』
言葉にならない声を絞り出すと、電話口の向こうから心配そうな声が聞こえてくる。すると、背後の男に手で口を塞がれ、電話も取り上げられてしまう。
「やァ、
『……その約束、ちゃんと守ってもらえるの?』
やめろ。来るな。これは罠だ。
そう伝えたくても、籠った音が出るだけで、その音すら電話口までは届かない。
「それは君と俺の間の信用の問題だね。今この場で、君に絶対を保証できるものは用意できない。君もそれを確かめる術はない。だとすれば、信じるしかないだろう?」
『……わかった。場所は?』
静玖さんがそう言うと、男は位置情報を見ろとは言わずに、きちんと住所を教えていた。その住所がどこなのかはわからない。もしかしたら、ここじゃないのかもしれない。それでは完全に罠だ。だけど、オレのスマホの位置情報を見れば簡単に見破れる罠だ。焦燥に駆られる静玖さんが、それに気付ければ、だが。
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