第20話 寝言
今日の夕食は
瑠璃子さんは女子力高そうだから料理もできそうだし、どんな料理が出てくるのかと今から楽しみだった。でも柊菜さんは、どこかふわふわしているようで、掴みどころがなくて、いまいちわからない。今朝はあんなことがあったし、考えれば考えるほど、不安は募っていく。
そんな不安が的中したように、本日の食卓に並んだのは、歪な形の少し焦げたハンバーグ。
「あ、あの、ごめんね、
隣の席に座る瑠璃子さんがオレにだけ謝るということは、他の面々からすれば、日常的な光景なのだろう。恐る恐る、一口食べてみたが、味は普通に美味しい。何をどこまでは瑠璃子さんの手によるものなんだろう。
「でもヒイ姉にしては、今回はマシな方じゃない?」
「本当? ありがとう~、あやのんちゃん」
「あ、そうだ、リンちゃん。今朝はごめんねぇ」
向かいに座る柊菜さんがいきなりそんなことを言うもんだから、瑠璃子さんがオレの隣で咽た。今このタイミングでそれを言うか。わざとか? わざとなのか?
「ルリちゃんから聞いたよ。昨日すごい疲れてたみたいだから、心配でねぇ。ちょっと様子見ていこうと思ったら、わたしもそのまま寝ちゃって」
瑠璃子さんは、どこまで何を話したんだろうか。ちらと横目で彼女の方を見ると、顔を真っ赤にして、手で仰いでいる。するとオレの視線に気付いたらしく、罰の悪そうな苦笑いを向けられた。その苦笑いはどういう意味だろうか。
「え~、何なに? 詳しく聞きたいなぁ。リン、あんなことがあった後で、そんなことしてたんだぁ。っていうか何、ルリ姉は何でそんなこと知ってるの? あ~、気になるなぁ!」
真っ先に食いついたのは、やはり絢乃さん。彼女はたぶん、ただ単純に知りたいだけなんだろうけど、どうしてそういう言い方をするかな。
しかもそれ、下手をすれば
「……“あんなこと”って?」
案の定、絢乃さんの失言に瑠璃子さんが食いついた。
「そりゃあ、あ~んなことだよ。ねぇ、リン? それよりルリ姉のお話聞きたいなぁ。何て言ってた? ヒイ姉」
この感じ、たぶん絢乃さんは自分の持ってる情報を餌に自分の知りたい情報を引き出すつもりだろう。ほしい情報を根掘り葉掘り引き出して、でも自分の情報は渡さない。わざわざ柊菜さんに振ったのも、柊菜さんの口から聞くのと瑠璃子さんが自白するの、どちらがまだ瑠璃子さんにとって許容できるのかを量っているんだ。そのうえで、本当にほしい情報はどこを叩けば出るかを探っている。
違ったとしても、この数日過ごしただけで、そんなことをやってのけそうだと思えてしまう。恐ろしい人だ。
「なんかぁ、すごい嬉しそうにしてたよ? あんまり怒られなかったし」
「べ、別に、普段からそんなに怒らないでしょーよ!」
瑠璃子さんからは、頼むから余計なこと言うなよ、という無言の圧を、隣のオレでさえひしひしと感じる。
「あ、そういえばリンちゃん、寝言言ってたよ~」
完全に油断していた。まさかこっちに飛び火するなんて。
自分の寝言は聞きたいような。でも、周りに聞かれるのは恥ずかしい……かもしれない。内容による。だからまずは、オレだけ内容を知りたかったが、そうもいかなかった。突然に話し出す柊菜さんを止めることは、誰にもできなかったのだ。
「“
その内容を聞かされても、あまり覚えがない。しかも肝心のところがはっきり聞こえなかったらしい。“真心さん”って誰だ? 何か夢を見ていた覚えもない。
しかし、彼女たちは違うようだった。一様に、言葉を失ったように固まってしまっていた。その“真心さん”とやらに、彼女たちは心当たりがあるのだろうか。
「何で……何で凛太郎くんが、ママのことを……?」
「え、真心さんって、みなさんのお母さんなんですか?!」
彼女ら七人全員と唯一血縁関係を持つ親。オレは会ったことはないはずだけど、寝言でその人の名前を言っていたということは、記憶の深いところに彼女がいるのかもしれない。だとすれば、真心さんがオレの力を知っていたのも納得がいくし、父さんに近付いてうちに娘たちを寄越したことも、百歩譲れば理解できなくはない。
「凛太郎くんは、わたしたちのママに会ったことあるの?」
「いえ……ない、と思います」
「それより、何故お母様を求めているようなのかの方が気になりますわ。何が来るというのでしょう。お母様がいれば、それが来ても問題ないということですの?」
彼女の言う通り、何故真心さんを引き留めていたのかは気になる。単に夢ではなくて、幼い頃の記憶を呼び起こしていたのだとしたら、七人の魔法少女を産んだ偉大なる魔法少女の真心さんに助けを求めるほどの状況が、過去にあったということだ。それは表沙汰になってはいなくても、なかなかに大変な状況だったのではないか。
色んな偶然の重なりが、オレと芹沢姉妹をめぐり逢わせたのだと思っていた。だけど、ここまでくると偶然なんてことはないだろう。オレはきっと、真心さんを知っているんだ。でも、オレにそんな記憶はない。なら、オレの記憶は何者かによっていじられている……? 普段ならそんな馬鹿げた話と笑い飛ばしただろうが、今は違う。それができるかもしれない存在――魔法少女が身近にいるのだから。
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