第19話 本音の話

瑠璃子るりこには言うなって言われてるから、聞かなかったことにしてよ?」


 一言そう断ってから、調子つきこさんは声のトーンを落として話し出した。


「科学者たちの研究を止めさせるために、首謀者と拠点を突き止める。これがわたしたちの当面の目的。というか、それがお母さんの目的で、お母さんがわたしたちを作ったのはその目的を果たすために必要だったから。そのお母さんの指示で、わたしたちはここに来ることになったのさ」


「じゃあ、皆さんのお母さんは、オレが心象虚像ゴーストが見えるってことを知っていて、父さんに取り入って、皆さんをうちに住まわせるように仕向けたってこと?」


「恐らくは。もっと言えば、おまえのその能力の正体も、お母さんはわかっているんだと思う。ただ、何せあの人は何も教えてくれないから。今回も、目的を果たすために必要な人材を見つけた。その人の元で暮らせるよう手配するから、協力して使命を果たしてほしい、って言われただけだしね。それがまさか、わたしたちよりも年下の少年だなんて思わなかったよ」


 どんな手を使ったのかわからないけど、父さんはまんまとその策略にはまったってわけか。しかも彼女らのお母さんの目当てはオレ。というより、オレの力にある。


「科学者の実験を止めさせるのはどうしてですか? 研究もいい方向へ向けば、より効率的に心象虚像を対処することができると思いますけど」


 オレのその問いには、霧摘むつみさんが答えてくれた。その苦々しい表情を見れば、物事がそう簡単にはいかないことが言われなくてもわかった。


「それはわたくしたちも思いましたわ。ですがそもそも、魔法というものは人の手には余る代物ですの。魔法に適性のあるわたくしたち魔法少女でも、その力の行使には制約があって、代償がありますわ。それを万人に使わせるとなれば……どういう結果を生むか、おわかりですわね?」


 魔法少女の行使する魔法に代償があったなんて、知らなかった。


 そういえば昨日、絢乃あやのさんも心配してくれていた。たったあれきりの魔力摂取でさえ、あれだけ心配してくれたんだ。たぶん昨日の異様な眠気は、魔力摂取の後遺症なのではないかとも思っていた。しかも、心象虚像が元々見えるオレですら、あれだけの異変が起きるんだ。まったくの一般人だったら、どうなってしまうのだろう。


「だからわたしたちは、本来の目的をおまえに明かさずにそれとなく利用しようと考えた。出かけるときは誰かと一緒に、という提案も、わたしたちの目の届かないところで何かあってもおまえを守れないからだ」


 心象虚像の対処だって、たしかに彼女たちには重要な使命のはずだ。オレがそれに貢献できるというのもあながち嘘ではないだろう。でも本当は、もっと巨大な存在を相手にすべく、オレの力を求めていたのか。

 もしかしてこの三連休も、本当は休みじゃなかったのに、オレといてくれるためにわざわざ休んでくれたのかもしれない。いや、さすがにそれは考えすぎか。

 何にせよ、明かしてくれなかったのは、オレがまだ子どもだからだ。それはわかっているが、悔しくもあった。


「おまえを利用するということは、少なからずおまえを巻き込むことになる。おまえがこのことを知って、積極的に協力してくれれば確かに成果を得られるかもしれないが、おまえの身を危険に晒すリスクは一気に増えるだろう。お母さんもおまえの父にそこまでの話はしていないだろうし、おまえを死なせるわけにいかない以上、おまえを関わらせるのは最小限にしたい。というのが瑠璃子の見解だ」


 あえて“瑠璃子さんの”と明言するということは、調子さんの見解は違うということだろうか。

 ここで初めて、調子さんが楽しそうに微笑んだ。何がそんなに楽しいのかはわからないけど、こんな笑顔を見せる人だったのか。


「わたしも正直、最初は瑠璃子と同じ見解だった。でも、これを見て考えを改めたよ。おまえは歳の割りには随分とさといらしい。情報を与えれば与えるほど、それを精査して、きちんと自分の意思で選択ができる。わたしはそう思う」


「あ、ありがとうございます……」


 素直に称賛されて、少しむず痒くなる。


「わたしと霧摘、それから可淑かすみ姉さんの考えは、全てを話したうえで、おまえに協力を頼みたい。わたしたちの目的のために、その命を預けてくれないか?」


 霧摘さんは口を滑らせてしまったようだけど、本当は、いずれ遠くないうちに話すつもりだったのだろう。可淑さんと、瑠璃子さんと話を通したら。だからこれは、調子さんの判断でオレに話してくれたんだ。こんな話を聞いてしまったら、オレがどう考えるかも、たぶん彼女はわかっていて、この話をしたんだ。

 瑠璃子さんの意思を蔑ろにしたいわけじゃない。でも、この話を聞いたオレの答えは、もう一つに決まっていた。


「はい、ストップ」


 オレが口を開こうとして、調子さんが手のひらを突き出してそれを制した。


「今すぐ答えを出さなくていい。きっと答えは変わらないんだと思うけれど、一晩ゆっくり考えて、また答えを聞かせてほしい。明日は学校でしょう? おまえのいるべき日常はどちらなのか、よく考えてみて、それから決めてほしい」


「わかりました」


 優しいな、調子さんは。あんなお願いをしておきながら、それでもオレには今までの日常に戻る選択肢があるのだと言ってくれている。答えが変わることはないだろうけど、彼女の言う通り、もう少し考えてみよう。


「さて、それじゃあ今度は、昨日の新宿でのことを教えてもらおうか」


 とは言われたが、やはり約束は約束だ。新宿に行った前半のことは話したが、それ以降は心象虚像にあてられてあまり覚えていないと説明した。

 これで納得してくれるかはわからなかったが、帰ってきてすぐに眠くなってしまったこと、昼までずっと寝てしまっていたことを付け足して、どうやら信じてもらえたらしかった。


「というと、おまえのその力は成長している可能性がある、と。その力は一体何由来なんだろうな」


「今は心象虚像が見えるだけですが、いずれは本来の能力に目覚める可能性もありますわね……。その時、あなたがこの世界を脅かす存在にならないことを、祈りますわ」


 そろそろ夕食時ということもあり、とりあえず今日の話はこれで終わりになった。


 部屋を出る際に、今後も何かあれば報告してほしいと言われ、ノートも継続的に書いてほしいと頼まれた。これまでオレがまとめていたノートはもう少し預かりたいと言うので、自分で持っていてもしょうがないものでもあるし、快く引き渡した。彼女たちに預けて他にもわかることがあるなら、オレにとってもその方がいい。

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