第13話 双子の誘い

 翌朝、荷物を片付けて元通りになった部屋で目を覚まし、いつものように顔を洗ってリビングへ行くと、今日は朝から起きていたのは絢乃あやのさんと静玖しずくさんだけだった。


「あ、おはよー、リン」


「おはようございます」


「ねえ、ずっと言おうと思ってたんだけどさ、何で敬語なの?」


 絢乃さんに唐突にそう言われて、オレは逆に首を傾げた。何でって、年上には敬語を使うものだろう。この家で一番の年少者はオレなんだから、誰にでも敬語になってしまうのは仕方がないことだと、オレ自身も割り切っていた。


「なんかさ、距離取られてるみたいじゃん。もっと友達くらいの距離感で接してくれていいのに。ねえ、シズ?」


「たしかに、ちょっとよそよそしいかも。リンは、本物じゃないと、お姉ちゃんと認めないタイプ?」


 静玖さんにまでそう言われてしまった。


 トーストが焼けるのを待っている間、どうやって接すればいいのか少し考えてみる。

 さすがに全員に同じようにというわけにはいかない。絢乃さんに対してと、瑠璃子るりこさんに対して……は同じかもしれない。可淑かすみさんとかに対しては、対応も違うだろう。それに、敬語をなくすと嫌だという人もいるかもしれない。霧摘むつみさんとか。


 トーストが焼けて、オレは二人がいるダイニングへ戻ってくる。

 席は四席。絢乃さんと静玖さんが向かい合って座っていた。つまり、どちらかの隣に座らなければいけない。どちらに座ろうか。少し迷って、でも決断は早かった気がする。


「ふーん。この組み合わせだと、リンはそっちに座るんだ」


 試されていたらしい。絢乃さんは残念そうというより、興味深そうにこちらを覗き込んでくる。対して隣の静玖さんは、あまり興味なさそうに、手元のスマホに視線を落としていた。これだから、オレはこちらを選んだというのに。


「それで、敬語の件は、どうしてくれるの?」


「そんなに重要ですか?」


「重要だよ! リンがうちの姉妹のどこの派閥に属するかと同じくらい重要だよ?」


 え、怖っ。何、派閥って。そんなのあったのか。

 顔に出ていたらしく、冗談だよ、と絢乃さんに大笑いされる。


「派閥の件はともかくとして、わたしは敬語やめてくれたら嬉しいな。考えておいてね。というわけで、ここからが本題!」


 まだ本題じゃなかったのかよ……。そう思いながら、トーストの最後の一片を口に押し込んだ。

 すると、ずっと押し黙ったままだった隣の静玖さんが、とんとんとオレの肩を叩いてスマホの画面を見せつけてくる。画面に表示されているのは、ポップなお店のホームページ。


「ここ、行きたいの。一緒に行かない?」


「あ、ズルい、シズ! わたしが誘おうと思ったのに、いいとこ取りじゃん!」


 絢乃さんの目的もどうやら同じらしい。改めてよく見ると、このお店はケーキバイキングのお店だそうだ。なんでも、三人以上の来店で割引になるらしい。場所は……新宿か。


「でも、何でオレなんです? 他の姉妹を誘えばいいのに」


「他の姉妹を差し置いて、リンを誘う理由は何だと思う?」


 そう艶やかな眼差しを向けてくる絢乃さん。他の姉妹にはない、オレだけの価値って何なんだろう。オレは、この二人に何を期待されて誘われているんだろう。


「……ついでに買い物した時の荷物持ち、とか?」


「ダメだ。こいつモテないね、シズ」


 オレの答えに満足しなかったのか、溜め息すら吐かれてしまった。


「まあいいや。そういうわけで、行こうよ。今日忙しい?」


 どういうわけかはわからないが、忙しくはなかったので、その誘いに乗ることにした。あわよくば、昨日のように事件を未然に防げるかもしれない。そんな期待もあった。


「いいですよ。行きましょう」


「ありがとう! 早速支度してくるね」


「あ、待って絢乃。わたしも」


 慌ただしく、二人は二階へ消えていった。

 オレが誘いに乗らなかったら、彼女らの予定はどうなったのだろう。彼女の背中を眺めながら、ふと、そんなことを思った。……オレも準備しよう。



 案の定、オレの方が先に支度は済んでしまい、彼女らの支度が済むまでソファで待っていると、可淑さんがリビングへ降りてきた。


「おはよう、凛太郎りんたろう。どこか行くの?」


 オレがよそ行きの恰好をしているから、気になったらしい。


「ええ。静玖さんと絢乃さんと、新宿の方に」


「ああ……新宿、ね。たぶん絢乃の発案でしょうけど、思い切ったことするわね……。とにかく、気を付けて」


 ただケーキバイキングに行くだけのつもりなのに、絢乃さんには別の目的があるのだろうか。そんな口ぶりだ。新宿に一体何があるというのだろう。

 そういうことをちゃんと言っておいてくれないあたり、絢乃さんも意地悪だと思う。


「お待たせー。あ、かすみん、おはよー」


 ちょうどそこへ、くだんの絢乃さんが静玖さんを連れだって、支度を済ませて戻ってきた。


「おはよう、絢乃、静玖」


「……おはよう」


 静玖さんは可淑さんを認めるなり、あからさまではないが、少し絢乃さんの後ろに隠れた。オレでもわかったくらいだから、可淑さんも当然気付いているだろう。それでも、可淑さんは特段気にした様子を見せない。


「新宿に行くんだってね。あまり無茶はしないのと、させない・・・・ようにしなさいよ?」


「わかってるって。でもかすみんだって、知っておきたいでしょ? 彼を新宿に連れてったらどうなるか。ま、昨日のショッピングモールが平気なら、そこまで気負うことはないでしょ」


「何かあったらすぐに連絡しなさい。誰かしら寄越すから。静玖も、できるだけ凛太郎のこと、お願いね」


 可淑さんの言葉に、無言で頷く静玖さん。


 こうして、不穏な思いを残したまま、新宿へ向かうことになった。

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