第4話 テンプレート?

『名前∶アルト・フォン・レインハルト

 種族∶人間

 年齢∶17歳

 死因∶機能停止

 死亡まで∶99日』


 俺は鑑定結果に衝撃を受けた。機能停止? 機能停止ってなんだ?


「さっきから何見てんの? アルト」


 サキナが顔を覗き込んでくる。彼女の顔を見ても、まだ心臓の鼓動が煩い。


「な、なんでもないです」


 咄嗟に誤魔化してしまった。どうしてだろう? 俺は嘘ばかりついている気がする。こんな嘘つきな人間だっただろうか? それともそれが人間なのか?


 自分の疑問に、自分で疑問に思う。人間なのかってなんだ……頭がぐるぐるする。


「ねー、それさ」


 そんな俺の思考などお構いなしに、サキナが不機嫌そうに腕を組む。


「同い年くらいなんだから、敬語とかナシでいきましょ。私がエルフだからって、人間の価値観で敬語使ってる?」


「え……と、そういうわけじゃ……」


 俺は戸惑った。初対面の人にいきなりタメ口きくほど豪胆な人間じゃない。だから敬語だったんだが……サキナにはなにか気に触ったのかもしれない。


「サキナがそうしてほしいなら、そう……します」


「いいわよ、敬うとかなくても。あ、冒険者の先輩としては敬ってよね」


 サキナはそう言うと可愛らしくウインクする。結局どっちなんだ。


「じゃあ軽くいかせてもらうけど……どうすれば依頼を受けられる?」


「依頼書を持って受け付けに行くのよ。私はこれに決めてたけど」


 サキナは薬草採取の依頼書を見せてきた。ランクはF。一番下だ。


「これ?」


 俺が怪訝そうな顔をしたものだから、サキナは少し笑った。


「今日はあんたに付き合ってあげようと思って」


「俺に?」


「初心者に手取り足取り教えてあげる。もちろん、お金は取らないわ。どう?」


 お金は取らない? なんか怪しいな……けど、この笑顔の裏になにか隠されてるとは思いたくない。

 今は自分自信を疑うので精一杯だ。他人を疑うのはよそう。


「わかった、よろしくお願いしてもいいかな?」


「もちろん。任せて」


 俺はサキナと薬草採取に向うことにしたのだった。





 件の薬草は町から数時間歩いた森の中に自生しているという。出てくる魔物も弱い魔物が多いため、Fランクなんだそうだ。


「なあ、そういえば俺、武器を持ってないけど大丈夫かな?」


 俺がそう尋ねると、一瞬サキナが目を逸らした。


「戦闘は私がやるから、あんたは先輩の動きを見てて」


 微かな違和感。やっぱり怪しい……サキナは何かを隠している。全て任せてくれなんて、都合が良すぎるんじゃないか?


 今さらながら俺は怖くなってきた。疑わないと決めていたのに。


 俺たちは歩きで森の入り口に到達し、これから中に入るところだった。


「さて……この先魔物も出るけど、準備はいい?」


 サキナは短剣を肩に担いで言った。


「わかった」


 俺は素直に頷く。俺は戦闘のスキルは持っていないし、武器もない。


 でも、俺はサキナを信じることにしている。


「サキナ、俺はいつでも――」


 サキナに声をかけようと隣を見たが、彼女の姿がなかった。

 と、同時に背後から頭を殴られ、地面にうつ伏せに倒れ込む。そして短剣が首に突き付けられた。


「悪いけどさあ……有り金全部置いてってくれる?」


 彼女の声が、背中から冷たく降り注ぐ。


「さ、サキナ……!? なんの真似だ!?」


「さっさとする」


 有無を言わせずサキナの短剣が首に食い込む。皮が切れ、赤い血が溢れる。


 俺はポケットにあった金貨10枚を差し出す。


「あら、こんだけ? 貴族の息子っつっても、追放されてたらこんなもんか」


「な、なんでそれを……」


「噂ってあっという間に広がるのよ? そんで、新人くさいやつが、すぐ冒険者ギルドに現れた。これはもうカモ決定でしょ?」


 言われてみれば小説の主人公もすぐに冒険者ギルドに行っていたな……と妙な納得をしてしまった自分が嫌になる。


「恨むなら追放した父親を……それか、うかつな自分を恨んでね〜」


 背中から重みが消えた。すぐに起き上がって振り返るが、サキナの姿は跡形もなく消えていた。


「……マジかよ」


 予想外の展開に、俺は途方に暮れるしかなかった。


 しかし、意外にもまだサキナを信じている自分がいる。そしてそれが嫌になる。完全に騙されたっていうのに、あいつのどこに信じる要素があるんだ?


 ――死因∶□□□□□□


 あの特別感。あれがどうしようもなく、頭に残っていた。


 俺はサキナのことを頭から振り払い、ため息をついた。


 これからどうしよう。持ち金もないし、町への戻り方も、近くの人が居そうな場所もわからない。このままでは野垂れ死に一直線だ。


 ふと、再び自分を鑑定してみた。


『名前∶アルト・フォン・レインハルト

 種族∶人間

 年齢∶17歳

 死因∶機能停止

 死亡まで∶99日』


 死亡日数は変わっていない。俺はまだ死なないと言うことか……


「きゃあああ!」


 と、そこに、絹を裂くような悲鳴。


「これって……」


 もしかして小説でも見たお約束、なんだろうか?

 でも今の俺は戦う力を持っていない。助けに行ったとしても――


 そこまで考えて、ユミルのことを思い出す。救えなかった命のことを。


 俺はいつの間にか、考えなしに声のする方へ走って行っていた。

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