第3話 カウントダウン
人は何故、人の死を悲しむのだろう。
感情の奔流から離れた俺は、ユミルの簡素な墓の前で立ち尽くして思った。
この少女は会って間もなかった。名前すら――鑑定で知っていたとは言え――死ぬ前に聞いたくらいで、ほとんど関わりがない。なのに俺は、ユミルが死んで
「俺、どうかしちゃったのか……?」
自分で自分がわからない。まるで、今までの人生が全くの嘘で、今まさに、「そうあるべき」と生み出されたかのようなノイズのような感覚。
そんなはずないのに。そう思うことすらおかしいのに、俺はそう考えてしまっていた。
「悲しみで変になってるんだろう」
初めて目の前で人の死を目撃したんだ。おかしくなっても、変じゃない。そう結論付けて俺は墓を後にしようとした。
そんな俺の目に、ふたりの老夫婦が墓の前で泣いている光景が目に入った。
「馬鹿者め……親より先に逝くとは……」
夫はそう言って涙ぐみながら怒りを露わにしていた。
「どうして泣いてるのに怒ってるんですか?」
気付いたら、そう声をかけていた。自分で自分の行動に驚く。
「当たり前だろう! 子が親より先に逝くなど……うう」
泣いているのか怒っているのか……感情の在り処がちぐはぐだ。何故かそう感じてしまった。
「あなたも泣いた跡があるわよ。誰かのお墓参り?」
妻がそう声をかけてきた。俺は頷く。
「たった今さっき……」
「そうかい……私らはもう、何年も前に……」
俺は墓を鑑定した。
『名前∶セドリック•ヤルタ
状態∶死亡•白骨化
死因∶魔物による裂傷で失血死
享年∶19歳』
「魔物に……」
「おや、どうしてわかったんだい?」
「あ、えっと……」
どうしたものか。説明した方がいいのか。
迷っていると、夫が頷いた。
「まあ珍しくもないだろう。魔物によって殺されるなんてこと……」
そうなのか……俺は貴族の領地内で不自由なく暮らしていたため、外のことを知らない。一般人の暮らしがどういうものなのか、まだわからないんだ。
ふたりを鑑定すると、それぞれ寿命はまだ先だった。そこで疑問が湧く。どうしてこのふたりは長生きできているのだろう? もう還暦を過ぎていそうに見える。
だが、特別スキルが強いとか、そういったことはなさそうだ。
俺は立ち去るふたりの後ろ姿を眺めながら、考える。
「やっぱり……なにか奇妙だ」
謎の頭痛。
感情のエラー。
人にすら違和感を覚えている。
どうして?
どうしてが止まらない。
俺は、なにもわからないまま、世界に放り出された赤子のようだった。
魔物による死が多い……もしくは一般的な理由は、後ほどわかった。
この世界には冒険者ギルドというものがある。そういえば日本で暮らしていた時、ライトノベルでそういった設定のものを読んだことがあった。
こっちで17年も赤ちゃんの頃から過ごすと、記憶が曖昧になる。
俺は冒険者ギルドを訪ねてみることにした。ここでなら仕事もできて、お金も稼げるはずだ。それに、魔物と人の死の関係性を探るには実際に冒険者ギルドで動いてみるのが一番だ。
ギルドの扉を開けると異様な熱気に包まれていた。さながら日本の居酒屋だ。多くの人が集まっており、受け付けに並んでいる人や、掲示板を見て依頼を受けるか悩んでいる人など様々な人がいた。
「お困り? そこの人」
突然、背後から声をかけられた。咄嗟に振り向いて鑑定をしてしまう。
『名前∶サキナ•アルバーンズ
種族∶エルフ
年齢∶117歳
死因∶□□□□□□
死亡まで∶99日』
「は?」
俺は思わず声をあげた。
「あによー。せっかく人か親切に声かけてあげたのに、『は?』って」
「い、いや……違うんです……」
言い淀みながらも、俺は彼女の鑑定結果から目が離せなかった。
死因が読めない? でもあと3カ月ほどで死ぬ。どういうことだ?
俺の戸惑いに、彼女は怪訝そうな顔をする。
「なに? どうしたの、ホント。大丈夫?」
俺は深呼吸する。
「は、はい。あの、どうしたんですか?」
「んー? あ、そうだった。あんたがなんかキョロキョロしてたから、初心者なのかなって」
サキナがニヤリと笑う。手慣れた様子で背中にある短剣を担ぎ直す。
「あ、私の名前はサキナね。あんたは?」
「アルトです」
「アルトね。で、初心者なの、合ってるでしょ?」
俺は躊躇わず頷く。冒険者ギルドどころかこの世界の初心者と言っても過言ではない。
「なら私が案内してあげるわ。ホントはこういうの、ギルドがやった方がいいんだけとねえ」
サキナは機嫌が良さそうに掲示板の方へと歩いていく。
「ここに1日ごとに依頼が張り出されるの。自分のランクに合った依頼を選ぶべし」
彼女は手慣れた様子で依頼書を掲示板から引きちぎり、俺に示す。
「ランク……って言うと?」
俺は一応尋ねる。ラノベだとSランクとかAランクとかあるが。これは現実だ。
「冒険者にはSランクからFランクまであってね、依頼には目安のランクが書いてあるから、それを見て決めるの。もちろん、背伸びしてみてもいいけど……それで死ぬやつ、結構いるから」
サキナは脅すように意地悪な表情を浮かべた。
「サキナは……死なないと思う?」
思わず俺は、そんな言葉を投げかけていた。サキナはびっくりしたように目を丸くして少し考える素振りを見せた。
「まー、私は実力者だから、身の丈ってもんをわかってるのよ。簡単に死ぬ気はないわね」
「死は身近なものではないんですか? 冒険者してるけど……」
「んー……身近じゃないことはないけど……私は簡単には死なない。そう思わなくっちゃ」
サキナの笑顔は、儚くも眩しかった。
「生きる……か」
ふと、俺は自分に鑑定スキルを使っていないことを思い出した。
自分の鑑定はできるのか? できるとして、寿命が見えるのか? 見えたとして、俺はどうする?
俺は少しの躊躇いと、確かな好奇心で、自分を鑑定した。
『名前∶アルト・フォン・レインハルト
種族∶人間
年齢∶17歳
死因∶機能停止
死亡まで∶99日』
俺は鑑定結果に言葉が出なかった。
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