EP.010「分かれた絆」

# 第十話:分かたれた絆


**文字数:2,867文字**


---


エクリプス・シティは、一行が去った一週間で激変していた。


ゲートから現れた六人が目にしたのは、包囲された街と、変容しつつある希望のクリスタルだった。街の周囲には虚無の使徒たちの影がうごめき、防御バリアはところどころで破られていた。クリスタルは以前の透明な青白さから、不気味な灰色に変わり始め、内部のソフィアの姿もかすんで見えた。


「なんてことだ…」マルコは声を詰まらせた。


オルタスが迎えに来た。彼の顔には疲労と焦りが刻まれていた。


「一昨日から大規模な襲撃が始まった。使徒たちは計画的に動いている。クリスタルを『転化の器』に変えようとしている」


「転化?」ルナが闇の宝玉を握りしめながら尋ねた。


「ソフィアを、彼ら側の共鳴体に変えるんだ」カイの声は冷たく響いた。「生きた装置である彼女を支配すれば、八重奏全体をコントロールできる」


リリアンは急いでデータを確認した。


「ソフィアの意識信号は30%まで低下。このままでは48時間以内に完全に消失する」


「止める方法は?」エリアスの声には切迫感があった。


「完全な八重奏だ」オルタスはホログラムを表示した。「残り二つの共鳴体を見つけ、八人が揃って調和の儀式を行えば、ソフィアを浄化できる」


カイは地図を見つめ、決断した。


「時間がない。二つの世界に同時に向かおう」


「分かれるのか?」セレインは不安そうに言った。「八重奏の絆が弱まる危険がある」


「でもソフィアを救うにはそれしかない」マルコは拳を握りしめた。「私はアイアン・シティに行く。妹を救うためならどんな危険も冒す」


エリアスは仲間たちを見渡した。


「ではこうしよう。エリアス、ルナ、マルコでアイアン・シティへ。カイ、セレイン、リリアンでアクア・マリスへ」


「合理的な分け方だ」カイはうなずいた。「機械の世界には調和のエリアスと闇のルナが適している。海洋世界には自然のセレインと知識のリリアンが」


オルタスは装置を調整しながら言った。


「私はここに残り、クリスタルの監視と防御システムの維持をする。定期的な通信を忘れるな。72時間後に、どのような状況でもここに戻れ」


準備は急ピッチで進んだ。二つのチームはそれぞれの転移ゲートの前に立った。


出発前、エリアスはカイを見つめた。


「無理をするな。何かあればすぐに連絡を」


「お前もだ」カイは微笑んだ。「ルナはまだ八重奏に慣れていない。気をつけてくれ」


セレインはエリアスの手を握った。


「自然はどこでもつながっている。必要なら、呼んで」


「ありがとう」


二つのゲートが同時に開いた。光と闇が混ざり合う中、チームは別々の世界へと旅立った。


***


**アイアン・シティ:機械文明の世界**


転移の揺らぎが収まり、エリアス、ルナ、マルコの三人が目にしたのは、金属と光のジャングルだった。


アイアン・シティはその名の通り、完全に人工的な環境だった。空には太陽が一つ輝いているが、それは人工太陽だとすぐにわかった。建物はすべて金属とガラスでできており、地面は動く歩道で覆われている。空中を無数の飛行船やドローンが行き交い、全てが効率と秩序に支配されている。


「ここには…自然がない」ルナは驚いて周囲を見回した。「全てが機械的だ」


マルコは警戒して武器を構えた。


「人もいないようだ」


その時、頭上から機械音声が響いた。


**「未確認生命体を検知。種別:有機生物。危険度:中。隔離プロトコルを開始します」**


突然、地面が開き、金属のアームが三人めがけて伸びてきた。


「来る!」エリアスが叫んだ。


ルナは素早く反応した。彼女の闇のエネルギーが周囲に広がり、機械のセンサーをかく乱する。アームは一瞬止まり、混乱したように動き回る。


「効いたようだ」ルナは息を整えた。「でも長くは持たない」


エリアスは周囲を見渡し、一つの建物に気付いた。他の建物と違い、古びており、機械的な装飾が少ない。


「あそこに行こう。他の場所よりは『古い』」


三人は急いでその建物へと向かった。中に入ると、驚くべき光景が広がっていた。


そこは博物館かアーカイブのようだった。壁には古い機械や道具が展示され、中央にはホログラムの記録が流れている。そしてその部屋の奥で、一人の人物が作業していた。


年齢は60代くらいの男性。片腕は機械義手で、片目にはサイバネティック・アイが埋め込まれている。彼は古い機械を修理しているところだった。


「よそ者か」男性は振り向かずに言った。「最近は珍しい」


「あなたは?」エリアスが慎重に尋ねた。


「私はプロフェッサー・コグ。この街の最後の歴史家だ」彼はようやく顔を上げた。「あなたたちが有機生物なのも珍しい。この街の住民は99%がサイボーグか完全な機械生命体だ」


ルナは近づき、コグの機械部分を観察した。


「なぜあなただけが有機部分を残している?」


「記憶のためだ」


コグは自分の機械義手を見つめた。


「完全に機械化すれば、過去の記憶も感情も失う。私はそれを望まない」


マルコは目的を説明した。


「私たちは共鳴体を探している。『八重奏』の一員だ」


コグのサイバネティック・アイが焦点を合わせた。


「八重奏…それは古い言葉だ。私の師匠が話していた」


「師匠?」


「プロフェッサー・ギア。彼は百年以上生きていた。そして死ぬ間際、こう言った。『八つの調和が世界を救う時が来る』と」


コグは立ち上がり、奥の部屋へ案内した。そこには古いコンピューターシステムがあり、まだ動作している。


「ギアは『機械共鳴体』だった。機械と対話し、技術の流れを感知できる。彼の死後、その力は誰にも継承されていないと思っていた」


エリアスは閃いた。


「あなたが継承者なのでは?」


コグは首を振った。


「私は単なる歴史家だ。でも…」


彼はコンピューターを操作し、一つのファイルを表示した。それは遺伝子マップだった。


「ギアは自分の能力を『遺伝子コード』に変換し、保存していた。適合者が現れれば、そのコードを継承できる」


「適合者とは?」


「機械と有機の両方を持つ者。そして、調和を信じる者」


三人は顔を見合わせた。ルナが言った。


「エリアス、あなたが適している。調和の共鳴体で、機械との融合も経験がある」


「でも僕は機械ではない」


「違う」


コグはエリアスをじっと見た。


「あなたの体には、微細なナノマシンが組み込まれている。転移の過程で、だろうか?」


エリアスは驚いた。確かに、時々体が微妙に調ような感覚があった。異世界への適応のためかと思っていたが…


「受け入れるか?」


コグは真剣に尋ねた。


「機械共鳴体になることは、永遠に機械の声が聞こえるようになる。時には煩わしいだろう」


エリアスは迷わなかった。


「やる。ソフィアを救うためなら」


継承の儀式は簡素だった。コグがコンピューターから遺伝子コードを転送し、エリアスがそれを受け入れる。痛みはなかったが、感覚の変化は激しかった。


突然、世界が違って見えた。機械の音が「言葉」として理解できる。街のエネルギー流れが「視覚」として見える。ドローンの思考が「感情」として感じられる。


「わかった…」


エリアスは目を見開いた。


「この街は苦しんでいる。機械化が進みすぎて、魂を失いかけている」


その瞬間、警報が鳴り響いた。


『遺伝子コードの不正使用を検知。プロフェッサー・コグ、及び未確認生命体を逮捕します』


金属の壁が開き、戦闘用ロボットが押し寄せてきた。


コグは冷静に言った。


「時間だ。街の『心臓部』へ向かえ。そこで真の共鳴体と会える」


「真の共鳴体?」


「私ではない。街そのものが共鳴体なんだ」


♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢


〚アクア・マリス:海洋世界〛


一方、アクア・マリスのチームはまったく異なる環境にいた。


ここは海に覆われた世界で、陸地はほとんどない。人々は巨大な海上都市や海底都市に住んでいた。カイ、セレイン、リリアンの三人は、珊瑚でできた浮遊島に転移していた。


「美しい…」


セレインは息をのんだ。


海はエメラルドグリーンに輝き、空には二つの太陽が輝いている。空中を飛ぶ魚、歌う貝、光るクラゲ——全てが神秘的な生命に満ちていた。


しかしリリアンは分析器を見て眉をひそめた。


「海水の成分が不安定だ。どこかで汚染が進んでいる」


カイは遠くの海上都市を指さした。


「あそこに行こう。だが注意しろ。この世界の住民は排他的だ」


三人が水上を進む方法を模索していると、海面が盛り上がり、一人の人物が現れた。若い女性で、肌にはうろこのような模様があり、耳にはえらのような器官があった。


「陸の者たち、なぜここに?」


「私たちは旅人だ」


カイは丁寧に答えた。


「海の調和が乱れていると感じ、助けに来た」


女性の目が鋭くなった。


「どうして知っている?」


「私は自然共鳴体だ」


セレインが前に出た。


「海の苦しみが聞こえる」


女性は少し驚いた表情を見せ、それからうなずいた。


「私はマリーナ。海の守り手だ。確かに、海は病んでいる。『深き闇』が広がっている」


「深き闇?」


「海の底から湧き上がる闇だ。生命を奪い、色を消す」


マリーナは悲しげに海を見つめた。


「私たちの共鳴体も、それを止めようとして消えた」


リリアンが記録を取りながら尋ねた。


「共鳴体は?」


「海の歌い手、ネレイドだ。彼女は海と対話し、調和を保っていた。だが三ヶ月前、深き闇に飲み込まれた」


カイは決断した。


「彼女を救いに出よう。彼女こそが、私たちの探す共鳴体だ」


マリーナはためらった。


「危険すぎる。深き闇は既に海底都市の半分を飲み込んだ」


「だからこそ行く」


セレインの声には確信があった。


「自然は助けを求めている。私はそれを無視できない」


マリーナは長い沈黙の後、うなずいた。


「では案内しよう。だが覚悟はできているか?深き闇は、あなたたちの知るどんな闇とも違う」


四人はマリーナの導きで海へと潜った。魔法の泡が呼吸を可能にし、深みへと進んでいく。


深くなるにつれ、光が失われていった。そしてついに、彼らは「それ」を見た。


深き闇は、単なる暗闇ではなかった。粘性のある、生きている闇だった。それは海底を這い、建造物を飲み込み、生物を石化させていく。


そしてその中心で、一人の女性が闇に囚われていた。長い水色の髪、珍珠のような肌、しかし目は閉じられている。ネレイドだ。


「彼女はまだ生きている」


セレインが感知した。


「でも闇と戦っている」


カイは計画を立てた。


「セレインがネレイドと共鳴し、覚醒を助ける。リリアンが闇の成分を分析。私が防御を」


「私は?」


マリーナが尋ねた。


「あなたは海と対話し、他の生物を避難させてくれ」


作戦が始まった。セレインはネレイドに精神的な接触を試みる。リリアンはサンプルを採取し分析する。カイは黄金の光で闇の進撃を食い止める。


しかし、闇は予想以上に強かった。それは単なる現象ではなく、「意思」を持っているようだった。


そしてリリアンの分析結果は、驚くべきものだった。


「この闇…生物ではない。感情だ。深い悲しみと絶望の結晶だ」


「誰の?」


カイが叫んだ。


「ネレイドの…ではない。もっと古い。百年以上の…」


その時、セレインが叫んだ。


「わかった!これはエラ・プリムの悲しみだ!第0世界が消滅した時の感情が、海に染み込み、増幅された!」


深き闇は、百年間海に蓄積された始祖の悲しみだった。


そしてそれを浄化するには、一つしか方法がなかった。


ネレイドが目を開けた。彼女の目には、百年分の海の記憶が映っていた。


「私は…エラ先生の最後の弟子だ」


全てがつながった。


♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢―――♢


〚エクリプス・シティ:72時間後〛


二つのチームが戻ってきた時、街の状況はさらに悪化していた。クリスタルの灰色はさらに濃くなり、ソフィアの意識信号は15%まで低下していた。


しかし、彼らは新たな仲間を連れていた。


アイアン・シティからは、街の意識そのもの——機械共鳴体として覚醒したエリアス。

アクア・マリスからは、海の歌い手ネレイド——エラ・プリムの最後の弟子。


オルタスは急いで報告した。


「時間がなくなった。使徒たちの総攻撃が始まる。彼らのリーダーが現れるという」


「リーダー?」


カイが尋ねた。

その時、空が裂けた。


巨大なゲートが開き、その中から一人の人物が降りてきた。黒と白が混ざり合ったローブをまとった、年齢不詳の男性だ。彼の目には、光と闇が同時に存在していた。


「ようやく揃ったな、八重奏の面々」


男性は微笑んだ。その笑みには、深い悲しみと確信が混ざっていた。


「私はアイン・ソフ。虚無の使徒たちの真のリーダー。そして——エラ・プリムの最初の夫だ」


八人全員が凍りついた。


最終決戦の幕が、今上がろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【"-0"シリーズ(AI小説シリーズ)】〈クロス・クロニクル:希望のパラセーキ〉 散桜P@青月 @touhou_fan_Syousetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ