第10話 看板犬「福助」の異世界内定
(1月2日。異世界へ戻る直前のペットショップにて)
「……ダメだ。一目見た時から、決めてたんだ」
健斗は、ガラスケースの向こうで不貞腐れたような顔をして寝ている、一匹のフレンチブルドッグを見つめていた。 異世界で「大家」としての第一歩を踏み出し、まとまった金(手付金)も入った。もし元の世界なら、ブラック企業の激務で犬を飼うなんて無責任だと諦めていただろう。
だが、今の彼には帰るべき広大な「自分の物件」があり、信頼できる仲間がいる。
「すみません、この子。……今日、連れて帰ります」
最強の癒やし担当、合流
光の渦を抜けて、王都の「サトウ・アセット」事務所(元・廃屋)に戻った時、タクミとリンは目を見開いた。
「健斗さん、それ……何ですか!? 宇宙人!?」 「失礼なこと言うな。フレンチブルドッグの**『福助(ふくすけ)』**だ。俺たちの会社の看板犬にする」
健斗の腕の中で、むちむちの体をした福助が「ブヒッ」と鼻を鳴らす。 その愛くるしいブサカワ顔、短い足でペタペタと歩く姿、そして何より、異世界の殺伐とした空気を一瞬で溶かすような「とぼけた存在感」。
「うわぁ……可愛い……。何この、お餅が歩いてるみたいな感触……」 事務作業でトゲトゲしていたリンの心が、福助の「モチッ」とした背中を撫でた瞬間に浄化されていく。
「おい健斗、こいつ……現場の養生マットの上で寝やがった。大物だな」 タクミも苦笑いしながら、福助の首筋を優しく揉んだ。
福助の異世界スキル
福助はただ可愛いだけではなかった。 健斗が【鑑定】を福助に向けてみると、驚きの結果が出る。
【鑑定対象:フレンチブルドッグ(名前:福助)】 固有スキル:【天性の愛され力】 →周囲の住人の幸福度を微増させ、家賃滞納率を低下させる。 固有スキル:【魔獣除けの鼻ちょうちん】 →低級の魔獣は、福助の「得体の知れない余裕」を恐れて近づかない。
「こいつ、最強の不動産管理犬(マネジメント・ドッグ)じゃないか!」
カイル様、未知の生物と遭遇する
そこに、モデルルームの進捗を確認しに領主の息子・カイルがやってきた。 「佐藤、例の建材の具合は……な、なんだその奇妙な生き物は!? 鼻が潰れているぞ! 呪いか!?」
剣を構えようとするカイル。しかし、福助は動じない。 トコトコとカイルの足元へ歩み寄り、高級なブーツの上に顎を乗せて、潤んだ瞳でじっと見上げたのだ。
「……っ。な、なんだこの、抗いがたい敗北感は……。その瞳、守ってやりたくなる……」 「カイル様、これが我が社の誇る『精神的・福利厚生システム』です」
厳格な教育を受けてきたエリート貴族カイルは、福助の「ブフフッ」という鼻鳴らし一発で、あっけなく陥落した。 その後、カイルが福助を膝に乗せて離さなくなったせいで、打ち合わせが3時間遅れたのは言うまでもない。
「……健斗さん、この子がいれば、どんな厳しい契約も取れそうですね」 「ああ。福助は、うちの『最終兵器』だ」
看板犬・福助を仲間に加え、サトウ・アセットの快進撃(と癒やし)がいよいよ本格始動する。
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